Q 当社従業員との間の労働契約において、従業員が取引先と私的交際をすることを禁止するとともに、これに違反した場合には、従業員が200万円の違約金を支払うとの条項を設けることは、許容されますでしょうか。
A このような定めは、禁止する事項について交際相手以外に限定する文言を置いておらず、真摯(しんし)な交際までも禁止対象に含んでいることや、その私的交際に対して高額な違約金を定めている点において、被用者の自由ないし意思に対する介入が著しいことから、公序良俗に反し、無効となる可能性があります。このような規定を定めるのであれば、その範囲・態様を含めて、慎重に検討する必要があります。
労働基準法第16条
労働基準法第16条は、使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない旨を定めています。これは、労働者が違約金又は賠償予定額を支払わされることを恐れて、心ならずも労働関係の継続を強いられること等を防止しようとする趣旨に基づくものとなります。
労働基準法第16条は、労働契約の不履行についての違約金等に関する規定であるところ、本件の定めは、労働契約で定める業務それ自体の不履行ではなく、それ以外の私生活に関する合意の不履行とも考えられるところです。もっとも、労働契約を締結する前提としてこのような条項に対する合意を要求していたこと等の事情が存在する場合には本件の定めが労働契約の不履行についての違約金等に関する規定であるとして、これに違反すると考えられます。
私的交際を禁止する条項が公序良俗違反といえるか
労働基準法第16条では、あらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することまでを禁じたものではありません。それ故、違約金条項が存在せずに、単純に私的交際のみを禁止する合意が有効であるか否かは別途検討する必要があります。
人が交際するかどうかや誰と交際するかはその人の自由に決せられるべき事柄であって、その人の意思が最大限尊重されなければなりません。本件の「従業員が取引先と私的交際をすることを禁止する」との合意は、禁止する事項について交際相手以外に限定する文言を置いておらず、真摯な交際までも禁止対象に含んでいることや、その私的交際に対して200万円もの高額な違約金を定めている点において、被用者の自由ないし意思に対する介入が著しいとして、公序良俗に反し無効となる可能性があります。
他方、私的交際を禁止する条項が一律に公序良俗違反で無効となるわけではなく、例えば、真摯な交際であれば許容するという条件であれば、公序良俗違反とまではいえず、当事者間の合意として有効となる可能性は残ります。
裁判例でも、このような私的交際を禁止する条項が、その行為態様が業務や営業に支障を与えるようなものである場合には、契約違反となるという限度において、法的効力を有するとされた事例もあります。また、雇用契約の事案ではありませんが、芸能プロダクションがアイドルタレントと締結した専属マネジメント契約書中の男女交際禁止条項の有効性が争われた事案においてもその有効性を認めた事案と否定した事案とが存在しています。その条項の内容、その態様次第で一定の範囲で有効性が認められる可能性があるといえます。
以上の通り、本件のような条項は労働基準法第16条に違反するほか、公序良俗に反して無効となる可能性があります。他方で、私的交際を禁止する条項が一律に無効となるわけではなく、その範囲、態様等の次第では、一定の範囲で有効となる可能性があるといえるところですので、このような規定を定めるのであれば、その範囲、態様を含めて慎重に検討する必要があると考えます。 (弁護士・佐々木 奏)
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