最近、米国の大手IT企業の一部が、人員削減などのリストラ策を加速している。特に、これまで高い成長性を誇ってきた、プラットフォーマーと称される企業には、業績の伸び悩みが顕著になっているケースもある。今後、さらにリストラ策を強化する可能性もありそうだ。背景には、それらの企業が構築したビジネスモデルが成熟期に入って、かつてのような成長性を期待できない状況に入っていることがある。IT業界の専門家の中には、「大手プラットフォーマーの時代は終焉(しゅうえん)を迎えつつある」との見方も出始めている。
同時に、これから世界のIT先端業界も大きく変化することが想定される。その中で、"ウェブ2.0"から"ウェブ3.0"へのシフトは徐々に鮮明となり、メタバースなど新たなデジタル技術の実装も進む。重要なのは、常に人々がネット空間に接続し、現実とバーチャルの世界が同時進行する可能性が高まることだ。そのために、現在のスマホに変わる新しい製品の創出とヒットは欠かせない。そうした分野では、わが国企業にも十分なチャンスはあるはずだ。
リーマンショック後、世界中でアップルなどのスマホが普及し、人々の生活は大きく変わった。買い物など多くの経済活動はネット空間に取り込まれた。アマゾンなどのプラットフォーマーの成長は加速した。同時に、個々人の消費行動や好みなどに関する"ビッグデータ"が収集され、活用されるようになった。当初、GAFAなどは極めて低コストでデータを獲得し、それを用いて個々人の需要に刺さるサービスを提供した。また、サブスクリプション(サブスク、継続課金制度)のビジネスが急速に普及し、収益力は高まった。オンライン広告ビジネスの分野ではアルファベット傘下のグーグルやメタの収益力が急速に高まった。
しかし、需要の鈍化と世界的な物価上昇などを背景に、GAFAが高い成長を持続することは難しくなっている。昨年1年を振り返ると、大手プラットフォーマー各社の業績の伸び率は大きく鈍化した。特に、SNS依存度の高いメタの業績悪化は深刻だ。それに伴い、GAFAの株価も下落した。業績悪化を食い止めるため、GAFAの経営陣は人員を削減し始めた。メタは1万1000人、アマゾンは1万8000人の削減を発表した。採用を抑制しているグーグルやアップルも、いずれ人員カットを余儀なくされる可能性は高い。また、GAFA以外にも、マイクロソフト、ツイッター、セールスフォースなども人員を削減した。
一方、世界のネット業界では、ウェブ3.0への移行が加速すると見られる。ウェブ3.0は、世界のネット空間を中央集権的から分散型へ大きく変えるだろう。これまで、私たちは検索サイトにアクセスしてデータ、情報、モノを手に入れた。ウェブ3.0の時代ではメタバース技術やブロックチェーンなどの普及によって、個々人は常時ネットにつながると予想される。それに伴い、データは一部企業による管理から、より分散かつ透明性の高い方式で管理されるだろう。そうした変化には、新しいデバイスが欠かせない。ウェブ2.0を駆動した一つの製品はスマホだ。ウェブ3.0の時代、人々が身に着けてネットとリアル空間の同時生活を行える新しいハードウエアが必要だ。
適当な代替品はまだ見当たらない。今後、試作品がより多く設計、開発され、標準化に向けた議論も進むだろう。それは、わが国企業のビジネスチャンスになり得る。ウェブ3.0への移行が加速する環境下、わが国企業に期待したいのは新しい製品を生み出し、世界の人々の新しい生き方を支えることだ。世界的な景気後退懸念が高まるなど先行きは楽観できない。そうした状況にもかかわらず、大手プラットフォーマー時代の終焉、ウェブ3.0時代の到来を念頭に、新しいモノを創造しようとする企業も出始めた。わが国企業が蓄積してきた力を発揮して新しい製品を実現できるか否か、わが国経済の展開にかなりのインパクトを与える。それは重要なビジネスチャンスになる可能性がある。(1月12日執筆)
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