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テーマ別誌上セミナー 平成30年度税制改正 事業承継税制の抜本拡充で何が変わるのか?自由民主党・宮沢 洋一税制調査会長に聞く

平成30年度税制改正において、「事業承継税制」が抜本的に拡充されるとともに、「所得拡大促進税制」の拡充や「償却資産に係る固定資産税の減免特例」が創設された。特に「事業承継税制」の抜本拡充は、これからの中小企業の経営に大きな影響を与えるものとなっている。そこで、自由民主党の税制調査会長として改正をけん引した宮沢洋一参議院議員に、改正に至る背景や改正の内容・趣旨について話を伺った。

聞き手 日本商工会議所専務理事 石田 徹

宮沢 洋一

自由民主党 税制調査会長(参議院議員)

宮沢 洋一(みやざわ・よういち) 自由民主党 税制調査会長(参議院議員) 1950年生まれ。東京大学法学部を卒業後、大蔵省(当時)入省。米国ハーバード大に留学して行政学修士を取得し、大阪国税局岸和田税務署長、大蔵省大臣官房企画官、内閣総理大臣首席秘書官を経て、93年に退官。伯父である宮澤喜一氏の政策秘書を務めたのち、2000年の衆議院議員選挙において広島県第7選挙区で初当選、以降3期連続で当選。10年に参議院議員選挙で当選し、現在2期目。15年から自由民主党 税制調査会長を務めている

中小企業の事業承継を進めて経営者の世代交代を推進する

中小企業の事業承継を取り巻く環境は厳しさを増している。中小企業者数は減り続け、特に2009年から14年にかけての5年間で1割近くも減少している(28ページ/図1)。減少の原因を見てみると、過去10年間の中小企業の倒産件数は減少傾向にある中、事業承継ができなかったことなどによる休廃業は増加していることが分かる(同/図2)。また、経営者の高齢化も進んでおり、今後5年間で30万人以上の経営者が70歳に達すると見られている(同/図3)。

石田徹・日本商工会議所専務理事(以下、石田) 今回の事業承継税制の抜本拡充は、宮沢会長が先頭に立って実現した税制だと伺っています。中小企業が置かれている現在の状況を改善することを主旨としていますが、どのようなご認識で改正に臨まれたのでしょうか。

宮沢洋一・税制調査会長(以下、宮沢)少しさかのぼってお話しさせていただきますと、世界経済がグローバル化し、これからは日本の産業を少量生産・高付加価値型に変えていくことが、日本の経済にとって一番大事な成長戦略になると思っています。そのためには、大企業だけでなく、中小企業にも頑張っていただくための政策が必要だと感じていました。

2014年10月に私が経済産業大臣になり、翌年7月に「成長戦略『3つの見える化』~中小・中堅企業 あなたが主役~」という、中小企業が新しい分野に挑戦しやすい環境を提供するプラットフォームをつくりましたが、正直に言って反応が芳しくありませんでした。同じ時期、中小企業経営者の方々と会うと、人手が足りない、後継者がいないという話ばかりでした。しかも経営者の平均年齢は60歳代になっているという状況でした。

中小企業の重要性は今では世界各国が気付き始めています。その中でも日本は最も成功している国の一つなのに、その日本経済の強みが失われそうな状況になっている。それを防ぐためには、中小企業の事業承継を進めて経営者の世代交代を推進しなければいけない。今後10年間で経営者の平均年齢を40歳代にまで下げて、IoT(モノのインターネット)化やAIの導入が進む中で、新しいものづくり、新しいサービスにどんどん挑戦していってもらうような政策をつくらなくてはいけない。そういう思いが今回の改正につながっていったわけです。

石田 日本商工会議所では昨年11月に「事業承継税制の抜本拡充推進大会」を開き、全国の商工会議所から会頭など約350人が参加しました。その際には来賓としてごあいさつしていただきました。税調会長がこうした大会に出席されるのは異例のことと思いますが、どのようなお気持ちからでしょうか。

宮沢 この制度は中小企業の方々に積極的に活用していただかなければならないものですから、出席のお声掛けをいただき、話をさせていただいたことは、いいチャンスでしたし、大変ありがたかったです。みなさん、各地域で後継者不足や人手不足の問題に悩んでいる方々ばかりですから、会場に集まられている各地商工会議所の会頭さんたちの目つきも非常に真剣でした。この制度をこの方たちにしっかり使っていただけるようにしなければいけないと思いながら、壇上からお話させていただきました。

今後10年間で事業承継を進め日本経済の新陳代謝を促す

今回の税制改正では、事業承継税制の抜本拡充をはじめ、賃上げや設備投資を後押しする税制が実現した(表1)。事業承継税制は、対象株式数の上限を撤廃し猶予割合を100%に拡大するほか、雇用維持要件の実質撤廃や、経営環境の変化に応じた減免制度の創設、複数後継者の承継も対象にするなど、画期的な制度となっている。また、世代交代に向けた集中取り組み期間として10年間の時限措置(2018年1月~27年12月)となっており、適用を受けるためには、今後5年以内に特例承継計画を都道府県に提出、10年以内に事業承継を行う必要がある。

石田 今回のメインテーマである事業承継税制の抜本拡充についてですが、以前の制度と比較して大きく変わったのはどのような点でしょうか。

宮沢 事業承継税制は平成21年度の税制改正で創設され、数回にわたり手直しをしてきましたが、利用者が爆発的に増えたわけではなく、使い勝手の悪さが指摘されていました。そこで10年間という期間限定で、要件の大幅な緩和をすることにしました(30ページ/表2)。

まず納税猶予の対象となる対象株式数の上限の撤廃や、納税猶予割合を100%に引き上げることにより、自社株承継時の納税負担をゼロにしました。納税猶予における雇用維持要件に関しても、現在の雇用情勢なども配慮して実質撤廃しています。

また、事業承継後に経営環境が変化して事業をやめた場合、かつては承継時にさかのぼって贈与税または相続税を利子税付きで納付しなければなりませんでしたが、今回の改正により、廃業または事業を売却する場合には、その時点での評価額に対する相続税などを払うということにしました。これにより、事業承継したのちに廃業せざるを得なくなった場合でも、巨額の贈与税・相続税を納めることがないようにしました。

そして四つ目は、これまでは先代から後継者への1対1の承継に限定していましたが、複数による承継も対象としました。このような要件緩和により、これまで使い勝手が悪く利用が進まなかった部分が、ほぼ無くせたのではないかと思っています。10年間の時限措置としたことで、早期かつ計画的にこの税制が活用され、多くの団塊の世代が引退すると想定される今後10年間で、確実に事業承継を進め、日本経済の新陳代謝を促したいと思っています。

今回の税制改正で賃上げと生産性向上を目指す

事業承継税制以外にも、今回の税制改正では、中小企業の賃上げや生産性向上のための税制措置が盛り込まれている(31ページ/表3)。一つは「所得拡大促進税制の拡充・延長」で、計算方法が簡素化されるとともに、より高い賃上げを実施した場合、控除率がアップするようになった。

二つ目が償却資産に係る固定資産税の減免の創設。市町村の判断で、認定を受けた中小企業の新規設備投資について、取得後3年間の固定資産税をゼロ~2分の1に軽減するとともに、市町村が固定資産税をゼロにした場合、その地域の中小企業は、ものづくり補助金などの優先採択や補助率の引き上げによる重点支援を受けられるようになっている。そのほか、中小企業のM&Aを促進する税制措置の創設や、30万円未満の少額減価償却資産の全額損金算入特例の延長、交際費の800万円までの全額損金算入特例の延長などが盛り込まれている。

石田 今回の税制改正では、賃上げや設備投資の促進など、中小企業税制に関してさまざまな改善がなされていますが、中小企業の現状について、どのように認識しておられますか。

宮沢 中小企業の労働生産性などは、大企業と比較してどれも厳しい数値が出ています。また使用している設備年齢も大きく上昇しています。その一方で中小企業の労働分配率(生産した付加価値に占める人件費の割合)は大企業と比較して非常に高く、会社の収益を可能な限り従業員に還元している状況ながら、深刻な人手不足から防衛的賃上げの必要性に迫られています。

石田 これらの問題を改善していくために、今回の税制改正で中小企業の賃上げや生産性向上のための税制措置が盛り込まれました。これらによりどのような成果を期待されていますか。

宮沢 今回の税制改正は、中小企業における賃上げと生産性向上を促進するためのものです。所得拡大促進税制については、大企業の場合は給与額の3%増を税額控除の条件にしていますが、中小企業の場合はそこまで高くせず、1・5%以上増加したところを対象にしています。これが給与を上げるインセンティブとなり、雇用促進や人材確保につながることを期待しています。

償却資産に対する固定資産税の課税については、世界的には決して例の多い制度ではないのですが、一方で市町村の重要な税収でもあり、簡単に無くすわけにもいきません。そこで、28年度の改正で中小企業の新規設備投資に限って減免制度を導入し、翌年はそこから少し深掘りし、今年度は取得後3年間の固定資産税を2分の1から最大ゼロまで軽減することにしました。生産性を高める投資をした中小企業にインセンティブを与えるものとなっていますので、この制度もうまく活用していただき、「生産性向上」や「働き方改革」を実現していただけたらと思っています。

経営者の新たな挑戦をしっかりと応援してほしい

石田 いま全国に515の商工会議所、125万もの会員がおり、そのうちの約95%が中小企業です。商工会議所に対して、事業承継への支援を含めて、どのような期待をされていますか。

宮沢 今回の事業承継税制の抜本拡充により、今後10年間で大きく事業承継が進められる制度をつくりましたが、最終的な目的は事業承継ではなく、次代の経営者が新しいものづくり、新しいサービスに積極的にチャレンジし、成功していただくということです。もちろん60代、70代の方でITに強い方もいらっしゃいますが、やはりAIやIoTの時代になると、若い人の方がおそらく慣れていますので、そういう人たちが事業承継ののちに新しい事業に挑戦していただきたい。そのためにも商工会議所は金融機関などとも連携して、しっかり応援していただけたらと思っています。そして、地域に根差した経済団体として、中小企業支援はもちろんのこと、「地域活性化」や「働き方改革」の推進といった幅広い分野で中核的に活躍していただくことを期待しています。

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