観光庁が2022年度からスタートした「将来にわたって旅行者を惹きつける地域・日本の新たなレガシー形成」という事業がある。地域において最も輝いていた時代の建築物や文化を面的に再現したり、地域で脈々と受け継がれてきた自然・景 観、食、文化、遺産(日本遺産、重要文化財、伝統技術等)などを再現し、活用していく取り組みである▼
インバウンド再開に向けた膨大な補助金の陰に隠れて地味ではあるが、実はとても重要な事業だと思っている。すでに22年度は全国14の事業が採択され、取り組みが始まっている▼
そのうちの一つ、「世界遺産富岡製糸場を核とした新たなレガシー形成事業」(群馬県)に関わらせていただいている▼ 事業の大きな柱は二つ。一つは国宝・世界遺産の製糸場内でかつての煮繭(しゃけん)機・繰糸機・揚返機などの生産機械を導入し、シルク生産を一部復活する構想。もう一つはかつての工女たちの寄宿舎を宿泊施設(ホテル)やギャラリーとして活用するというプランである▼
富岡製糸場は世界遺産登録前後に131万人を突破した。しかしコロナ禍もあり、現在は30万人に届かない水準まで低迷している。施設を譲り受けた際の膨大な借金もあり、このままでは負担する自治体の財政はもたない。プランには、文化財であるが故の大きな制約がある。しかし、富岡製糸場はもともと産業施設である。文化財に指定されたことが足かせになっているとしたら本末転倒である▼
文化財はもはや税金では賄えない。「活用なければ保全なし」は、単に理想ではなく現実の要請になっている。文化財の抜本的活用の新たなルールづくりのモデルとしてほしい
(観光未来プランナー・日本観光振興協会総合研究所顧問・丁野朗)
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