電気保安協会と提携、受託運営を行うスターメンテナンスサポートは、クラウド化で営業効率を改善、収入アップを実現。業界の単価の安さ(収入の低さ)による若手人材不足、国家資格を持つ技術者高齢化の課題をも克服し、全国中小企業クラウド実践大賞全国大会2022 「クラウド活用・地域ICT投資促進協議会理事長賞」を受賞した。
営業に必要な情報が散在し見つからない
スターメンテナンスサポートは、中国地方で民間初の電気保安協会運営の受託業務を行う会社として2001年に設立。専属の電気主任技師による工場やスーパーなどの電気設備点検・メンテナンス事業を中核に、エネルギー・サービス・プロバイダー事業、各種マネジメントシステムの設計・開発事業を展開している。
カスタマーアテンダントチームマネージャーの原真奈美さんは、同社が点検の現場と営業の現場で抱えていたそれぞれの課題を指摘する。点検現場の課題は、保安業界全体の課題でもある技術者不足だ。同社が必要とする第三種電気主任技術者(主に小規模な発電設備、ビルや工場、コンビニなどの電気工作物を監督)は、「約半数以上が60代以上であり、高齢化が進んでいる」(経済産業省 21年11月「電気保安人材の現状分析と取組の方向性について」)状況で、同社が運営する協会の場合、20人の技術者の平均年齢は67歳だという。
電気設備の点検は、重要な仕事であるにもかかわらず単価が低い。しかも、緊急時に即座に対応できるよう一人の技術者が点検できる数が法律で規制されており、副業も禁止されている。このような労働環境であるため若い人材の流入が少なく、人材不足に拍車をかけている。
営業の現場では、顧客情報の一元化とクラウド化が急務だった。技術者が点検報告書を上げると、営業担当は内容をチェックして必要に応じて顧客に対し機器の更新などの打診を行う。
「報告書や顧客との応対記録は社内のあちこちに散在し、探している時間が多かった。また、情報が属人化していて、担当者が退職すると情報も消えてしまいました」
複雑な業務プロセスも問題だったと原さんは振り返る。図2の顧客リスト→アポ取り→訪問→商談→見積り→受注という業務プロセスでは、顧客リストを4種類参照した後、アポ取りでさらに4種類のリストを見なければならなかった。多くの社員は「昔からやってきたこと」と受け止めていたが、原さんは、「ここを見ればすべて分かる」仕組みが必要と考え、営業顧客管理システムをセールスフォースのCRM(顧客管理)・SFA(営業支援)プラットフォーム「セールスクラウド」で構築するプランを代表取締役の桒野(くわの)貴宏さんに提案した。セールスクラウドの導入により売り上げアップが見込めると予想し、「事務作業が効率化されれば、ムダな時間が削減できることを示し、費用を十分にペイできると訴えて承認してもらいました」。
システム構築は県内の会社に依頼し、散在していた情報の入力を含めて約4カ月、開発費用約120万円で完成、17年末から運用が始まった。
導入から3年後の20年、営業面では新規成約率が4倍に増え、顧客解約率は、2.2%から0.3%に減少、売上高は1.4倍になり、コロナ禍でも過去最高を記録した。桒野さんから、「システムがなければ収益アップは厳しかった」とねぎらいの言葉をかけられた。就業環境面でも残業は約3分の1になり、有給休暇消化数は1.4日から9.8日と大幅に増え、退職や産休時の引き継ぎの時間も短縮された。
クラウド化により売り上げ7600万円増
次のターゲットは点検管理だ。「工事→納入という業務プロセスを営業顧客管理システムと同じプラットフォームで動かすことにこだわりました。行う業務は点検前・点検後とも①予定を立てる②点検する③報告する、の3種の仕事なのですが、メールやグループウエアなど、確認しなければならないツールが多く、情報が分断されていて、連絡・確認を繰り返していました」
この課題を解決するために、独自の点検管理システム「コレクト」を構築。業務フローが大幅に簡略化され、さらに改修工事の提案が迅速に行えるようになった。その結果、売上高が7600万円増え、技術者への支払いを1.3倍に増やすことができた。
23年8月からは、完全週休二日制を実施。年間休日は105日から120日以上になった。社員の給与は、通常のベースアップに加え、インフレ対応手当として月1万円が支給され、パート従業員も昇給した。DXは会社と社員の双方に利益をもたらした。
わが社ができたIT化への取り組み
IT化前の問題
・ 技術者の高齢化が進んでいて、仕事の単価が低い
・ 社内の情報が散在していて、情報の信頼度も低かった
導入したITシステム
・ 「顧客管理業務はセールスフォースの「セールスクラウド」。点検業務はセールスクラウド上で稼働する独自開発の「コレクト」
・ 導入を成功させるポイントは、①業務の全体像・詳細の把握②スモールスタート③初期構築時は派遣やアルバイトなど外部人材で人手を増やす④全て業務の起点をシステムにし、全員がログインする
IT化後の状況
・ 売り上げ情報は各店舗でスプレッドシートに入力。自動集約されて情報共有が実現した。データは販売促進やマーケティングに活用できるようになった
・ 新規成約率が4倍に増え、顧客解約率は2.2%から0.3%に減少、売上高は1.4倍になり、技術者への支払いを1.3倍に増やすことができた
会社データ
社名 : 株式会社スターメンテナンスサポート
所在地 : 岡山県岡山市北区下中野334-110 日商ビル5階
電話 : 086-805-1766
代表者 : 桒野貴宏 代表取締役
従業員 : 12人
【岡山商工会議所】
※月刊石垣2023年8月号に掲載された記事です。
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