中央官庁のOB2人と立て続けに食事をする機会があった。1人は事務方トップに上り詰めた。彼は数多くの社外役員就任の誘いを断り、大学客員教授と民間企業の顧問となった。講演や執筆の依頼も後を絶たないが「後輩たちの邪魔になるだけ」と引き受けない。大事にしているのは長い官僚人生を支えてくれた妻との家庭生活だという。こうした潔さが現役官僚から慕われる一因になっている▼
もう1人の方は、局長で退官した後、大手メーカー、金融機関、情報通信企業の社外役員に就いた。課題を着実にこなす真面目な姿勢は、民間でも高く評価されていると、かねて聞いていた。出身官庁の政策に関しても雑誌や講演を通じて積極的に発信している。「足を引っ張るつもりはなく、応援団の気持ちだ」と強調する。2人のどちらが好ましいというわけではない。いずれも出身官庁の影響力なしに自立している姿は、お手本になるといえよう▼
官僚の再就職をあっせんするため、監督官庁の有力OBが大手企業に圧力を加え、批判されている。「退官したら、出身の役所とは縁を切るべき」といった意見もある。しかし退職を理由に、長年培った知恵や経験が生かされないのは、いかがなものか。残された文書だけでは分からない政策形成の経緯、人間関係は、失敗例を含め後任の参考になるはずだ。先の2人は「直接口出しはしないが、意見を求められれば助言はする」と話している▼
民間企業でも、トップが交代したり、買収されたりした後、過去の遺産を断ち切った結果、有力な取引先を失うケースが少なくない。前任の過剰な介入を回避しながら、事業の継続に取り組むのが新しいトップの責務だろう
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)
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