Q 社員から副業の相談がありました。これまで副業を認めるかどうかの議論もなく、就業規則にも副業を禁じる規定はありません。どのように対処すればよいでしょうか。
A 労働時間外の時間をどのように利用するかは、基本的に社員の自由ですので、一概に禁止はできません。労務提供に支障を来さないことや企業秘密の漏洩等を招かないことなどを条件に、副業を許可する制度とするのがよいでしょう。その旨を就業規則に定め、副業・兼業の許可申請に必要な手続きや様式を取り決めます。許可については、制度に準じた申請内容かどうかで判断します。相談者には、制度導入の環境を整えた上で、所定の手続きを経て副業が可能になることを伝えましょう。
昨今、働き方改革の推進やコロナ禍によるリモートワークの定着などにより、副業・兼業を認める動きが増えています。政府は2022年7月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定、厚生労働省も「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」を通達するなど、企業の環境整備を後押ししています。
副業・兼業を認めるには
社員が雇用契約上の労働時間外の時間をどう利用するかは、基本的に社員の自由です。これは判例でも示されています。会社が一概に副業を禁止することはできません。ただし、①労務提供上の支障となる場合、②企業秘密が漏洩する場合、③企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、④競業により企業の利益を害する場合には、副業・兼業の禁止または制限が認められます。
これらを踏まえて、制度を検討します。労務提供上の支障や企業秘密の漏洩がないか、長時間労働を招かないかなど本業への影響を確認することも必要なため、申請に基づく許可制とするのがよいでしょう。副業・兼業によって問題が生じる場合、禁止または制限ができるようにします。労働時間管理や健康管理の点から副業・兼業の状況について報告を求めることができるほか、禁止・制限の必要が生じた場合の対応なども定めます。副業・兼業の定めに違反した場合の懲戒処分にも触れておきましょう。これらを就業規則に定める際には、「モデル就業規則」(厚労省公表)が参考になります。
労働時間は通算して管理
労働時間は、本業と副業それぞれの労働時間を通算する必要があります。労働時間通算の結果、時間外労働が発生する場合、割増賃金の支払い義務は、法定労働時間を超えて当該社員を労働させることとなった側の使用者が負います。通常は、後に労働契約を締結した副業先が割増賃金を負担することになりますが、本業先が負担するケースもあり得ます。例えば、本業の所定労働時間が1日7時間、副業先の所定労働時間が1日1時間で労働契約を締結した場合です。いずれも所定労働時間内であれば割増賃金は発生しませんが、本業先で8時間労働した後に副業先で1時間労働すると、所定労働時間外1時間分の割増賃金は本業先が負担しなければなりません。
このように労働時間管理が複雑になると労使の負担も大きくなります。そのため厚労省は、簡便な労働時間管理の方法として「管理モデル」を示し、本業での時間外労働の上限、副業先でも月当たりの勤務時間の上限を設定すれば、その範囲内で労働させる限り、副業先における実労働時間を把握することなく就労できることを認めています。この管理モデルを適用しておくと、通算管理の手間を軽減することができます。
制度を整えて社員へ説明
副業・兼業制度を整えたら社内に周知し、希望する社員には、業務内容や就業時間などが適切であれば、所定の手続きを経て副業が可能になることを伝えます。許可に際しては、十分にコミュニケーションを取り、納得感を持って進めることが大切です。
(中小企業診断士・竹内 敏則)
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