リケンNPRのグループ会社・日本メッキ工業は、自動車エンジン部品であるピストンリングの表面処理加工を主要事業としている。職人技に頼ることを改め、デジタル化を推進。現場を知る社内SEがシステムを開発し、生産性や費用面で成果を上げている。その取り組みが評価され、「DXセレクション2023」の優良事例に選定された。
いち早く生産ラインをIT化して数値で管理
日本メッキ工業は1949年、飯塚修一、関矢章二の両氏によって設立された。創業当初から電気メッキ加工を得意としていた。電気メッキは、金属(製品)をメッキ液に漬けて、陰極として直流電流を流すと金属イオンの還元反応が起こり、金属の表面がメッキ皮膜で覆われる。適正な被膜をつくるために、かつては手作業で電気の出力を調整し、漬ける時間をストップウオッチで測るという、職人技が求められる作業だった。 しかし89年頃から、東京でシステムエンジニア(SE)として働いていた創業者の息子で元社長の関矢浩章さんが入社し、「IT化の取り組みが始まりました」と現取締役の工藤孝一さんは振り返る。
職人技といえば聞こえがいいが、放置しておくと生産性の低い3K職場になってしまう。生産性を高め、従業員の労働環境を改善するためには職人技ではなく、ITによる管理が必須だ。それが品質の平準化にもつながる。同社のIT化は少しずつ着実に進んでいった。
そしてIoT元年と呼ばれた2017年頃、元社長が「これからは生産設備のデータを収集して分析・解析する時代になる。面白そうだからやってみよう」と言い出した。 「ただ当時は、『生産設備にセンサーをつけてデータを取得するシステムをつくりたい』と考えても、『どのような規格を使えばセンサーが取得したデータを社内サーバーへスムーズに送信できるのか』すら分からなかった。トライアンドエラーを繰り返しながらシステムを構築していきました」と工藤さん。
例えば、生産設備と社内サーバーをつなぐネットワークは、社内SEらが複数の製品を試した上で、無線ネットワークの920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop」(沖電気)と、LANケーブルを使った有線ネットワークの2系統とした。前者が「DXセレクション2023」で、一つの評価点となったシステムだ。 「次に社内SEが取得したデータを加工してIoTモニターに表示するソフトをつくりました。これにより、メッキ液の温度、薬液の残量、電力使用量、都市ガス使用量などの各種データが連続性をもって見える化されました。特にメッキ液の温度変化は興味深かったですね」
これらのデータは、現場が興味を持てるよう、各製造部門ごとにカテゴライズして、自部門のデータへのアクセスが容易となる工夫をしている。
業務を知る社内SEの起用はメリットが多い
同社は前述のように、社内にSEを抱えている。その効用を工藤さんは次のように説明する。 「システムは導入して終わりではなく、維持管理が必要だし、故障する前に定期的に入れ替える必要があります。社外に頼むと費用が掛かるし、セキュリティーの問題もある。システムを改良したいとき、外部の人にポイントを説明するのは大変ですが、社内SEなら業務を知っているので話が早い」
現在、社内SEは2人いるが、管理部の業務を兼務している。労務分野のDX化にも大きく貢献しており、人事労務管理業務の効率化や見える化も進展した。
例えば従業員の有給休暇取得手順の電子化。申請と承認がボタン一つでできるようになり、有給休暇5日取得義務化に対応しやすくなった。作業着の新調申請も簡単になった。会社全体の中では小さな変化なのかもしれないが、DXを自分事として捉える機会になる。
さらに従業員がDX講習・実習に参加する機会をつくり、知識や技術の習得を行っていることもDXを自分事にする工夫だ。 では、DXの主導権は誰が握るとスムーズに進むのか。同社の場合、経営者がDXに理解があることもあり、工藤さんは「トップダウンの方がスムーズに進む」とアドバイスする。ただし、DXを活用するのは現場。全てをトップ任せにせず、「自分たちにとって意味のあるもの、使えるものにする努力が必要です」。
DXはトップダウンで進め、その後の利用は従業員に自分事として捉えてもらう工夫をして活用を促す。それがDX成功の秘訣(ひけつ)だ。
わが社のDX推進成功のポイント
課題
・メッキを製膜するには、メッキ液温度や電流値、コンプレッサーエアー圧力などの適正な管理が必要条件だが、24時間稼働中、数値の確認や記録は限られた時間のみしか実施できなかった
DX推進のための工夫
・かつて導入した市販のパッケージシステムでは不可能だった、カスタマイズの自由度を高めるため、安価な外部出力を持つセンサーを購入しデータ収集した
・得られたデータをサーバーに安定送信するために920MHz帯マルチホップ無線ユニット(SmartHop)を採用
成果
・データを見える化したことで測定値の連続的な変化が把握できるようになり、品質の向上、生産の改善や不具合の早期発見につながりやすくなった
会社データ
社 名 : 日本メッキ工業株式会社
所在地 : 新潟県柏崎市田塚3丁目2番62号
電 話 : 0257-22-2173
HP : https://www.nihon-mekki.co.jp
代表者 : 大橋 尚 代表取締役社長
従業員 : 約135人
【柏崎商工会議所】
※月刊石垣2024年2月号に掲載された記事です。
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