新たな分野や必要とされる商品を開発する着眼点と熱意を武器に、さまざまな困難を乗り越えて新商品を生み出している地域企業がある。中小企業にとっては想像以上に困難なことだが、諦めずに挑戦をやめない企業の原点と情熱に迫った。
“特注一品”体制×コンサル営業を軸に新分野を開拓して次の成長基盤を築く
1962年にプラスチック加工会社として創業したサカセ化学工業。70年代から自社ブランドを次々に開発し、今や医療用キャビネット・カートの国内トップシェアを確立するまでに至る。長年培った経験と技術を生かし、航空機エンジンや鉄道車両部品、I Tやロボットなど新分野の開拓も活発だ。ポストメディカルを見据え、〝自己循環型工業製品化〟を進める。
顧客ニーズを満たす独自の生産・販売体制を構築
従業員数7人、プラスチック成形機3台からスタートしたサカセ化学工業は、60余年の月日を経た今、日本国内の医療用キャビネット・カートの国内トップシェアを誇る。その躍進の背景には〝脱・下請け〟に向けた自社ブランド製品の開発があった。1970年にはユニットで連結できるプラスチック製収納ケース「ビジネスカセッター」を独自に開発。さらに当時はまだ斬新だった、熱を加えて固める熱硬化性樹脂のシリコーンゴム製品の生産もいち早く進めている。 「とはいえ、当時はまだ大手家電メーカーのモジュール組み立て事業、いわゆる下請け部門が全事業の6割を占めていました」
そう語るのは同社代表取締役社長の酒井哲夫さんだ。93年9月に社長に就任し、わずか3カ月後には主力事業からの撤退を断行したと振り返る。先代を除く周囲からの猛反対の中、ビジネスカセッターで医療分野への進出を図り、事業を軌道に乗せていった。その秘策が「モノ」ではなく「コト」を含めた顧客との信頼関係の構築にある。 「院内の薬や診療材料、機器などの物品の搬送や供給、在庫管理における、各病院の最適なシステム提案を含めたコンサル型営業を展開しました。今でも販売拠点は全国に8カ所とそれほど多くありませんが、お客さまの条件やニーズをくみ取り、企画から開発まで一手に手掛ける“特注一品”体制を整え、医療分野のキャビネット・カートのシェア率を高めていったのです」
酒井さんは、これを「非価格競争力」と呼ぶ。マスカスタマイゼーション(個別大量生産)が可能な製造力とコンサル型営業力が、同社の成功要因と力説する。
特注品から量産品まで一貫して自社で製造
プラスチック加工に加え、金属加工部門、木材加工部門を内製化し、100%自社製品をつくり出せる環境へシフトする中、〝強み〟を明確にしていく。それが150℃以上の耐熱性があり、耐薬性、耐久性に優れたプラスチック樹脂「スーパーエンジニアリングプラスチック」(以下、スーパーエンプラ)だ。その一例に「PIC‒ 15」がある。これはスーパーエンプラの中でも軽量で、顧客からの要望を受けて開発された、取り回しの良いサイズの透明樹脂コンテナだ。滅菌装置に対応し、総合病院だけではなく、診療所や歯科、動物病院などの院内感染防止の一端を担っている。医療分野以外の活用も見込める高い汎用性を誇る。
同社は、大型射出成形で最大9㎏弱のスーパーエンプラの製造を得意とする。AS9100(JIS Q 9100)という航空宇宙産業向け品質マネジメントシステム認証を取得済みで、宇宙、航空、防衛などの事業開拓が進む。 「これらの分野で、従来ガラスや金属製品だったものから、スーパーエンプラへの置き換えを提案中です」と酒井さん。特注一品から量産まで一貫体制で柔軟に対応できる、ワンチームの組織力が「うちの財産」と語る。
高級家具のように工業製品を愛用できる仕組みをつくる
医療用のキャビネット・カートは海外のトップシェアを、スーパーエンプラはジャンルを問わず中・大型成形品の〝駆け込み寺〟を目指すという同社。現在は、さらなるオンリーワンを見据えてポストメディカルの事業開拓に注力しているという。その先駆けとして2023年3月に打ち出したのが「METAMO+」(メタモプラス)という新シリーズだ。これは平時と有事で形と用途が変わるトランスフォーム製品で、カートが簡易介助チェアに、ラックが簡易ブースに様変わりする。今後も商品数を増やしていく予定だ。 「医療市場で培った機能性や操作性、安全性や耐久性などの実績とノウハウを生かしたシリーズです。カセッター、キャビネット、カート、メタモプラス、そして開発中の新商品を次々と複合化し、〝特殊ファーニチャーのサカセ〟としての存在価値を高めていきます。これは今後10年がかりの取り組みで、自社製品の全てを〝自己循環型工業製品〟にしていく予定です。イメージしているのは飛騨高山の高級家具さながらの企画、生産からアフターメンテナンスまで一手に担うこと。自社の工業製品を末長く使っていただけるビジネスモデルで展開していきます」
そのためには顧客との交流や情報交換を密に取り、自社の製品やサービスのアップグレードを繰り返していく必要があると説く。本社内に社内外の交流拠点となるオープンラボを設け、個別ユーザー対応を仕組み化し、システム管理強化を図る。加えて従来の開発部、機能品事業部、新規開拓部を束ねる「未来創成本部」を新設した。同社は、持続可能な経営戦略を模索し、常に進化し続けている。
会社データ
社 名 : サカセ化学工業株式会社
所在地 : 福井県福井市下森田町3-5
電 話 : 0776-56-1122
代表者 : 酒井哲夫 代表取締役社長
従業員 : 170人
【福井商工会議所】
※月刊石垣2024年5月号に掲載された記事です。
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