中国の越境EC3社の躍進が米国、EU、日本などの消費市場に大きな影響を及ぼし始めた。3社とはファッション製品を中心としたSHEIN、衣料品、雑貨、電子機器など幅広い製品を扱うTemu、AliExpressで、これに動画配信のTikTokのショップも合わせて4社とすることもある。
いずれも広東省、江蘇省、浙江省などさまざまな低コストの工場で生産した商品を世界各国の顧客に直送するD2C(Direct to Consumer)モデル。中国の越境ECはかつて日本や韓国など特定国の間での二国間中心だったが、コロナ禍以降、SHEINなど3社が中国から世界数十カ国に国際郵便などで直送する1対多のグローバルモデルに進化した。
背景にあるのは過剰生産能力だ。EVや太陽光発電設備といった過剰が話題の分野ではなく、衣料品、靴、雑貨、電子製品など中国企業が得意だったものの、コスト上昇や米中摩擦で生産拠点が東南アジアやインド、バングラデシュなどにシフトしつつある分野だ。仕事を失った製造業を巧みに活用し、商品企画から生産、納品、発送のプロセスをデジタル化して、生産リードタイムを極限まで短縮した。
さらに納品先倉庫を1カ所に集約して在庫管理を単純化し、短期の売り切りを目指している。旧来の越境ECは海外の中間倉庫までコンテナで大量輸送し、現地で宅配業者に委託する形式が多かったが、SHEIN、Temuなどは中国の倉庫から先を国際郵便や宅配業者に任せている。中間在庫や積み下ろし作業のコストを省けば、割高な国際郵便の費用も吸収できるという論理のようだ。加えて、個人向け国際郵便は一定金額まで免税というメリットもある。中国の持つ既存の能力、設備を組み替えただけで、急成長する新規ビジネスをつくり上げた中国の事業家の慧眼(けいがん)と迅速な行動力には驚かされる。まさにイノベーションである。
3社は米国市場でAmazonのシェアを急速に侵食、Amazonは対抗して中国発の低価格品主体のグローバルECを開始するという。また、EUではSHEIN、Temuなど越境ECの商品が多く含まれる国際郵便の入着数が昨年20億個を突破したことから、個人向け越境ECの150ユーロ(約2万6000円)の免税枠を廃止する議論が進んでいる。中国製品への課税強化といっていい。越境EC3社は、米国による中国包囲網を突き破る中国企業のしたたかさ、制度の隙を突く俊敏さ、事業組み立てのスピード感を改めて感じさせる。
最新号を紙面で読める!