新しい描画材料の開発に取り組み、ちょうど100年前の1925年にクレヨンとパステルの特長を兼ね備えた「クレパス®」を世に出したサクラクレパス。近年では総合文具メーカーとして学用品や事務用品などの開発にも力を入れている同社が、2024年4月に発売した子ども向けの「こまごまファイル」が大人を含め幅広い層から人気を集めている。
自発的に片付けたくなる“子ども向け”のファイル
ちまたには実に多種多様なファイルがあるが、「こまごまファイル」は名前の通り、こまごまとした文具の収納を目的とした“子ども向け”の商品だ。ファイルを開くと蛇腹状に六つの幅広ポケットがあり、小物を分類しながら整理できる。自立するので出し入れしやすく、中身もひと目で分かる。
また、面ファスナーで閉じればかさばらず、本棚やボックスなどにすっきり収まり、ハンドルが設けてあるので持ち運びにも便利という優れものだ。 「『こまごまファイル』は、小さな子どもでも簡単にお片付けできるようにと考えたポケットファイルです。おうち遊びでよく使う折り紙やシールなどを収納するシーンを想定して、使いやすい工夫をたくさん詰め込みました」と同商品を企画・開発したマーケティング部 商品企画三課主任の石田まり萌さんは説明する。
新しい描画材料として「クレパス」を開発以降、さまざまな文具を世に送り出してきた同社だが、近年では学用品から一般的な事務用品まで多彩な商品を展開している。その一例として21年に誕生した「おかたづけシリーズ」がある。子どもの「お絵描きを楽しみたい」気持ちと親の「自分でお片付けしてほしい」気持ちに寄り添い、楽しみながら、いつの間にか自分で片付けたくなることをコンセプトとしている。 「このシリーズは私の経験から生まれたものなんです。子育てをしていると余裕がなくなって、イライラしてしまうことも少なくありません。子どもの自発的な片付けを促すことで、子どもの成長を感じたり、『できたね』とほめたりしてあげたい。そうして日々の生活に少しでもゆとりある時間を生み出してもらいたいという気持ちから立ち上げました」 「おかたづけボックス」「お気に入りバッグ」「作品思い出ボックス」に続く、同シリーズの第4弾商品が「こまごまファイル」だ。
子どもたちの使用感を確かめながら試作を重ねる
同商品を発案したのは、「お絵描きや工作に使用する文具」の調査や社内ママへの聞き取りがきっかけだという。その結果から多くの子どもがシールや折り紙をよく使い、その収納に悩んでいることが浮き彫りとなり、「それらをまるっと収納できるファイルがあったら」と考えた。 「とはいえ、“しつけ”の一環ではなく、子どもが自ら片付けたくなるような商品にしたかったので、整理収納アドバイザーの水谷妙子さんに監修をお願いしました」
こうして23年3月からサンプルの製作をスタートした。最も苦心したのは、小さな子どもが一人で使いやすい形状をどう具現化するかだ。実際に子どもたちに使ってもらって使用感を確かめながら、実に10種類以上の試作を重ねた。石田さん自身も試作品を自宅に持ち帰り、子どもが使う様子を動画に収めて改良点を洗い出し、水谷さんのアドバイスを踏まえながらブラッシュアップしていったという。最終的に絵本からヒントを得て、現在の形状の試作を依頼。品質評価などを経て商品化が決まり、24年4月に販売を開始した。
SNSを通じた発信が“大人”にバズって売り上げ急増
発売に際して、同社は商品の使い勝手を広く伝えようと、SNSやWEBを通じた発信に力を入れた。すると、それにいち早く反応したのは、自分が使おうと考えた“大人”だった。あるユーザーがXに投稿したレビューが大きな反響を呼び、それに対して同社のX公式アカウントが「大人にも使い勝手があります。皆さんなら何を入れますか?」と問いかけたところ、1万7千件以上の「いいね」と7千件近い「リポスト」を得る。その結果、発売からわずか1カ月半で年間販売目標を達成した。 「子ども向けの商品ですが、企画段階で『大人でも使えるね』という話は上がっていたんです。子どもの使い勝手を追求したことが、結果として大人も重宝することが、SNSを通じて広く伝わったのではないでしょうか」
その使用例は実に多彩だ。子どもの片付け用のほか、薬やサプリメント、領収書やレシート、レトルトパウチの離乳食、ふりかけや袋タイプの調味料、化粧品の試供品や個包装のシートパックなど、なるほどと思うものばかりだ。そうした動向を受け、商品販促物などに大人のユーザーを意識した使用シーンのビジュアルを加えることも検討しているという。
そして現在、姉妹品も登場している。オリジナル品は正方形の折り紙を意識した外形だが、その倍近い大きさのA4サイズを同社オフィシャルショップで、24年8月に数量限定で発売した。すると、わずか数分で完売するほどの反響を得て、この2月下旬に一般販売を開始する。 「子どもから大人まで、思い思いに活用してもらえる商品になってうれしいです。今後もこのシリーズを通じて子どもの成長を感じ、日々の生活に少しでもゆとりをつくってもらえるように、子育てをする方に寄り添った商品を企画していきたいと思います」と、石田さんはちょっぴりママの顔をのぞかせた。
会社データ
社 名 : 株式会社サクラクレパス
所在地 : 大阪市中央区森ノ宮中央1-6-20
電 話 : 06-6910-8800
HP : https://www.craypas.co.jp/index.html
代表者 : 西村彦四郎 代表取締役社長
設 立 : 1921年
従業員 : 1600人(グループ計)
【大阪商工会議所】
※月刊石垣2025年2月号に掲載された記事です。