いわゆる3K労働とは、「きつい・汚い・危険」の頭⽂字を取った⾔葉で、建設業界周辺で言われてきた。しかし近年、社内環境の整備やDX導⼊といったイノベーションに挑み、「給与・休暇・希望」を備えた“3K企業”に変貌し、人材確保や業績アップにつなげている企業もある。このような企業の考え方や手法は、他業界にも通じる部分があるのではないか。
経営者自らデータ分析について学び 出庫時間を最適化、事業を多角化
茨城県古河市に拠点を置く櫻井運輸。創業以来、地域に根差した運送事業を展開してきた。しかし、同社は単なる運送会社にとどまらず、時代の変化に先駆けて事業の多角化を進め、持続可能な経営モデルを構築している。特に注目すべきは、社長自らが学び、得たスキルを経営に生かすことで、従業員の働き方改革と生産性向上を実現している点だ。この取り組みが評価され、2024年には茨城県リスキリング推進企業に選定され、「ベストプラクティス賞」を受賞した。
業界に先駆けPC導入した先代から受け継ぐ精神
運送業と倉庫業を主な事業とする櫻井運輸は、1964年に創業し、75年に法人化された。当時は、まだ運送業の規制が少なかった時代だったが、同社では先代社長が先進的な考えを持ち、90年代には業界に先駆けて自社独自の業務管理システムを導入するなど、IT化を積極的に経営に取り入れていた。 「そういう先代と、短い期間でも一緒に仕事ができたのは良かったと思っています。事業の多角化も考えていたようです」と語るのは、二代目社長の櫻井正孝さんである。櫻井さんは、大手物流企業に勤務後、家業である同社へ戻った。2007年に先代が亡くなり、33歳で経営を引き継いだ。
当時、同社の自己資本比率は低く、経営は厳しい状況だった。櫻井さんは、経理事務の経験がある妻の早映子(さえこ)さんとともに、少しずつ財務体質を改善していった。賃金体系の見直しも積極的に行い、従業員の生活を安定させようと変動の大きい歩合給を中心とした給与体系を見直し、安定した固定給に近い形へと移行した。これは、物流業界の労働問題に関するセミナーに参加したことがきっかけだった。
18年からは、運送と倉庫事業に加え、新たに業務用冷風扇のレンタル事業を開始した。元々、自社の倉庫で熱中症対策のために冷風扇を導入したが、その効果を実感し、冷風扇メーカーの販売代理店となったのがきっかけだった。「使わない時期の保管場所に困る」という顧客の声に応えるため、自社の倉庫で預かることにして、好評を得た。現在、夏季は自社のトラックで運送してレンタル、オフシーズンは自社の倉庫で保管と、本業を活用した新事業として成功を収めている。
