Q 当社は就業規則上、午前9時を始業時刻としていますが、午前7時に出社している社員がいます。上司が注意しても、自由時間であり、業務とは無関係だと本人は主張します。この2時間も労働時間と見なされ、当社に割増賃金の支払い義務が発生してしまいますか。なお、当社ではフレックスタイム制はなじまず導入していません。
A 労働時間は、使用者の指揮命令下の時間を指します。本件は、早朝出社が自己都合であり、会社の指示もないことから、直ちに割増賃金の支払い義務は発生しないと考えられますが、上司が早朝出社を黙認し続けた場合、労働時間に該当する可能性が高まります。背景や原因を調べ、就業規則に基づいた管理を行うべきでしょう。
労働時間とは
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日)によれば、労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことで、「客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものである」とされています。つまり、次の2点に該当すれば労働時間となります。
①使用者から業務を義務づけられた
②業務を行うことが余儀なくされる状況にあった
換言すると、会社にいた時間が自動的に労働時間になるとは限らないといえます。
今回のように、自己判断で出社し、業務指示について①②を含む「明示又は黙示の指示」を受けていないことが明らかであると確認できる限り、労働時間に該当するとはいえず、始業前に出社した分の賃金の支払い義務は、直ちには発生しないと考えられます。
もっとも、上司が早朝出社を把握し、黙認を続けた場合には、状況によっては会社の「黙示の指示」があったとされ、出社時刻から始業時刻までが労働時間に該当する可能性が高まりますので、注意が必要です。また、労災のリスクが生じると同時に、会社の安全配慮義務上の責任を問われかねない事態が生じる恐れもあります。
始業前に出社する社員への対応
当該社員への具体的な対応として、以下の方法が考えられます。
①早朝出社に関する事情聴取
②早朝出社に対する注意
③出社時刻の指導
始業前に出社する理由や考えについて、当該社員に事情聴取を行うことがスタートとなります。自らの判断で始業時刻の前に業務を行っている場合、本来必要のない作業や段取りをしている場合は、あまり早い時刻に出社しないよう指導することが重要です。注意を無視し始業前の出勤を続ける場合は、口頭で繰り返し注意しつつ、続くようなら、注意指導書を交付し改善を促すようにします。その際、始業前の出勤が発生した日や、注意指導した日時とその内容について、口頭注意した事実を含め、時系列に記載し記録を残すようにしておきます。改まらない場合は、懲戒処分も視野に入れる際の検討資料として利用します。
一方で、周囲への悪影響を防ぐため、始業前の出勤禁止と適切な出社時刻を記載した書面を貼り出す、配布するなどの対策も必要です。あるいは給与明細にその旨を印刷し、継続して協力を要請する方法も有効でしょう。
労働時間を管理する者の責務
労働時間を管理する者(上司)は、始業前の出勤の背景や原因を調査し究明することも重要です。当該社員の担当業務量が過大であったり、期限設定が不適切であったりしないか、緊急事態(機器の故障、顧客からの緊急要請等)が発生していないかなど、実態把握が望まれます。また、人事労務担当役員等は、労働時間が適正に把握されているか、長時間労働が行われていないか、管理上の問題点に対しどのような措置を講じるかなどについて検討すべきでしょう。
(社会保険労務士・田代 英治)
