近年、住みたいまちランキングの常連となっている「大宮」。同駅前の複合商業施設を運営するアルシェが販売するカプセルトイ「大宮ガチャタマ」が大ヒットを連発している。そもそも商業施設運営会社がなぜカプセルトイをつくったのか、謎は深まるばかり……。今や同シリーズは、全国17地域まで増え、ご当地ガチャの企画・販売はさらに広がりそうな勢いだ。
ほんの悪ノリから始まったマニアックな地元ガチャ
カプセルトイ(カプセル入りのおもちゃ)は、1965年に日本に上陸して以来、度々ブームが訪れ、現在は第5次ブームのさなかにあるという。駅や商業施設など各所でカプセルトイ専門店を見かけ、人気キャラのフィギュアをはじめ、ミニチュア雑貨やレトロおもちゃの復刻版など、年齢を問わず幅広い層の支持を集めている。
そうした中、埼玉のFMラジオ局・NACK5、商業施設、老舗喫茶店、ゆるキャラ「ぼんサイくん」など、およそ地元の人たちにしか分からないデザインのキーホルダーが入った「大宮ガチャタマ」が予期せぬヒットを飛ばしている。
同商品を仕掛けたのは、大宮駅前の複合商業施設を運営するアルシェ社長の中島祥雄(よしお)さんだ。中島さんには「大宮全体が面白くなければ、商業施設は成り立たない」との思いがあり、以前からJRや周辺施設と連携してさまざまなイベントを企画・開催し、地域活性化に取り組んできた。カプセルトイづくりもその一環だったのか尋ねてみた。
「コロナ禍で人を集めるイベントが一切できなくなったことがきっかけです。大宮を元気にしたいけど、大宮には何もない。そんなことを仲間と雑談する中で、『地元の人しか知らない喫茶店・伯爵邸のガチャでもつくろうか』と言ったらみんな面白がって、ほんの悪ノリから始まりました」
例えば伯爵邸とは、知る人ぞ知るマニアックな老舗喫茶店だ。24時間営業で従業員は外国人、純喫茶なのにゴーヤーチャンプルーがあるというカオスな店で、ここの看板キーホルダーがあったら自分も欲しいという純粋な願望で「大宮ガチャタマ」の製作を開始した。
試し半分でつくった1000個がたった2日で完売
キーホルダーのデザインは、「分からない人には分からなくていい」というスタンスで、都内在住のスタッフの意見も取り入れながら種類を選定していった。製作自体は難しくないが、てこずったのはデザイン使用の許諾交渉だった。
「『子どもだましのような物に名前は貸せない』と多くの企業から難色を示されて。コロナ禍で担当者と連絡が取りにくい状況も重なってなかなか前に進まず、企画の中止を考えた時期もありました」
突破口となったのが、大宮の象徴ともいえる氷川神社の協力だった。担当者が「面白そうな企画ですね」と快諾してくれたことにより、企画に“説得力”が生まれ、他社との交渉の追い風となった。約1年の時間を経て完成にこぎ着け、2021年3月、「大宮ガチャタマ」第1弾を発売した。
「地元の人が面白がってくれればいいと、お試しで1000個つくり、1カ月くらいで売れたら御の字だと思っていたら、何と2日で完売。慌てて増産をかけました」
発売時にはプレスリリースを打っただけで大々的な宣伝は行わなかったそうだが、売り切れがSNSでさらなる話題を呼び、「手に入らない」という飢餓感が熱狂を加速させた。エゴサーチでSNSの反応を見てみると、「伯爵邸の看板が欲しい」「こんなものを商品化するヤツがいるとは」など、驚きや喜びの投稿にあふれていた。思わぬ反響を受けて、中島さんはすぐに続編の製作に取りかかり、発売から1年間で第4弾まで出すほどの大盛況となった。
自虐的な地元愛が生んだローカルヒット
同商品をヒットに導いた背景には、映画『翔んで埼玉』の存在がある。同映画のヒットは、埼玉県民が抱えてきた自虐的な意識に変化をもたらし、「埼玉をいじる」ことへの抵抗感を劇的に低下させた。中島さん自身も“埼玉県出身であることをこじらせてきた”一人で、大宮ガチャタマを企画したのも最初は「地元いじり」の側面が強かったという。
「一般的には、地元愛があるからグッズをつくりますが、大宮ガチャタマの場合、グッズが大宮の人の中に眠っていた地元愛を刺激し、『自虐的だったら、大宮のことが好きと言ってもいいんだ』と気付かせた。それが大きかったんじゃないでしょうか」
現在、大宮ガチャタマは第6 ・5弾まで発売され、好評を受けて第7弾の製作に励んでいる。さらに、浦和や川越など県内他地域、埼京線40周年、東銀座、八王子、仙台、浜松、国分寺……とマニアックなご当地ガチャの輪が全国に広がっており、全シリーズ累計は53万個に達している。昨年は地域ガチャにとどまらず、永遠のライバル“浦和vs大宮”対決をテーマにしたトレーディングカードゲーム「さいたま伝」の開発などへも派生。地域のタブーや対立構造を絶妙なさじ加減でいじることで共感を呼ぶという一貫した哲学の下、すでに大きな話題となっている。
「地元をいじるノウハウは、着々と蓄積されています。ネタを出し惜しみするつもりはないので、今後も求められる限り、この事業を続けていきたいですし、それが地元の人たちを元気にすることにつながったらうれしいですね」と中島さん。
“自虐的な地元愛”という独特の風土を追い風に、今後も予想の斜め上をいく面白い商品やイベントが飛び出すことに期待したい。
会社データ
社 名 : 株式会社アルシェ
所在地 : 埼玉県さいたま市大宮区桜木町2-1-1
電 話 : 048-647-0111
代表者 : 中島祥雄 代表取締役社長
従業員 : 15人
【さいたま商工会議所】
※月刊石垣2026年5月号に掲載された記事です。
