筑後地方(福岡県南部)のものづくりを伝えるアンテナショップの運営で事業をスタートさせたうなぎの寝床。地域が誇る伝統工芸品の久留米絣(かすり)を有効活用するため、現代風もんぺ「MONPE」を開発する。着心地の良さと機能性、さらに文化的背景という要素も加わって注目を集め、年間約2万本を売り上げるヒット商品に成長した。
地域に伝わる伝統工芸品を現代の日常着へ活用
江戸時代から明治にかけて発展したかすりは、素朴な模様と優れた通気性・耐久性で、主に衣服として親しまれた。かつて日本三大かすりといわれたのが、広島の備後(びんご)絣、愛媛の伊予絣、福岡の久留米絣だ。特に久留米絣は、戦前に高級品として重宝され、1957年に木綿で初めて国の重要無形文化財に指定された。しかし、以降は衰退の一途をたどり生産反数が減少。産地継続を目指し、地域の伝統素材を活用して現代風もんぺを製造・販売しているのがうなぎの寝床だ。
「久留米絣の特徴の一つは『括(くく)り』という技法です。糸を縛って染め分けるので、柄がかすれたような素朴な表情が生まれます。もう一つは、旧式の小幅シャトル織機を使って職人が織り上げるため、柔らかく温かみのある風合いの生地に仕上がります」と、同社取締役の富永潤二さんは説明する。
「地域文化商社」と称して、九州を中心とする地域のものづくりを紹介する店舗などを手掛ける同社が、久留米絣に着目したのは2011年頃のことだ。創業者の義母の実家が織元で、久留米絣のことを知ってほしい、伝えたいと思ったことがきっかけだ。物産館でたまたまもんぺの展示を目にして、「これを歴史と機能性を備えた日常着として提案したら、はく人がいるのでは」と考えた。早速「もんぺ博覧会」を企画・開催すると、3日間で1500人を集客し、反響の大きさに手応えを得る。地元の後押しもあって翌年も開催することになり、久留米絣の新たな活用に本腰を入れた。
型紙から商品化へ 広がる「MONPE」の価値
同社が最初に手掛けたのは、もんぺ本体ではなく型紙だ。古典的なもんぺは、着物の上からはけるように腰回りがゆったりつくられているが、同社は反物幅を生かして極力生地ロスを出さないように設計。「たんすの肥やしになっている久留米絣の生地でつくりたい」という声を受けて、細身で実用的なシルエットの型紙が完成し、12年に販売を開始した。
「次第に現物が欲しいという声が増えてきて、もんぺもつくり始めました。自店舗用に内職さんに製造してもらっていましたが、販売数量が増え、卸販売までを行うことを前提に織元から生地を買って縫製工場に委託するようになり、やがて展示会にも出展するようになりました」
同社は、商品に「MONPE」と名付け、“日本のジーンズ”というコンセプトを掲げて作業着から日常着へと再定義した。伝統素材×日常着の一見ミスマッチな組み合わせで新鮮さを演出し、「気付いたら久留米絣だった」とユーザーが自然に受け入れられる見せ方を工夫した。また、シルエットは共通だが、糸の番手やより、目の詰め具合、テンションなどによって風合いや肌触りは大きく変わってくる。それにより多彩なバリエーションを提供できる強みを生かし、普段使いのみならず旅行やビジネスシーンでの着用例をSNSで発信して幅広い層に訴求した。
「やはり無地やストライプなどシンプルなデザインが売れ筋です。客層は30代後半~50代が中心ですが、老若男女を問わず売れています」
同商品は、伝統工芸品として百貨店やギャラリーから引き合いがあるほか、直営店での販売、カフェやパン店、美容室、自転車店などとのコラボイベントを通じた販売などで卸先を増やしていった。
ヒットの先に挑む久留米絣の新たな風景
順調に売り上げを伸ばした同商品は、20年に年間2万本を売り上げ、同社の主力へと成長した。当時はコロナ禍の真っただ中で、店舗でのイベントが開催できないというハンディがあった。しかし、各店に委託販売を積極的に提案し、売れなくても負担なしなどの条件を提示して店との関係維持に努めたことや、オンライン販売を強化したことが奏功した。
「結果的にコロナ禍でも売り上げは、落ちませんでした。おうち時間が増えたことや、先行きが見えない不安感も相まって、肌触りが良くリラックスできるもんぺが日常着として選ばれたのかもしれません」
今や普段使いのみならず幅広いシーンで活用されている同商品だが、目下の課題は織元の減少による生産反数の低下である。三大かすり産地の中でも久留米絣は、辛うじて量産体制を維持しているが、今の仕組みでは生地の生産が追い付かず、欠品が出るケースも増えているという。今後は、機械導入や職人の人材育成など産地全体で投資し、協働できる仕組みづくりが必要だと富永さんは語る。
「『MONPE』を通じて『久留米絣』を知る人が増えてきましたが、全国的な認知度はまだ低い。もっと多くの人に知ってもらうために、久留米絣を“見かける風景”にしていきたい。その一端として、外部デザイナーや内装材メーカーとコラボし、久留米絣の織りの表情をデザインした壁紙を開発しました。店舗の内装に採用するところが徐々に増えていて、今後は病院や公共施設、ホテルなどに広がってくれればと期待しています」
柔軟な発想でヒット商品を育て、さらなる地域文化発展と日常の橋渡しに取り組む同社の今後に期待したい。
会社データ
社 名 : 株式会社うなぎの寝床(うなぎのねどこ)
所在地 : 福岡県八女市本町267
電 話 : 0943-24-9836
HP : https://unagino-nedoko.net
代表者 : 山崎智輝 代表取締役
従業員 : 40人
【八女商工会議所】
※月刊石垣2026年6月号に掲載された記事です。
