“地域の味”として地元で親しまれている人気のグルメ店がある。そんな店には味の良さだけではなく、人を引きつける秘密がある。“隠し味”はそれぞれだが、アップサイクルや食品ロスの軽減など環境に対する経営者の哲学と提供する商品へのこだわりが一層おいしくしている点も見逃せない。
山形県民のソウルフード“げそ天”を名物に 全国区になった地域密着型スーパー
山形県民のソウルフード「げそ天」。これを店の看板商品に掲げ、2023年度グッドデザイン賞の金賞を受賞した店がある。それが地域密着型スーパーのエンドーだ。大型スーパーの出現で苦境に立たされる中、起死回生を狙って店をリブランディング。げそ天の大ヒットから店は全国区となり、今や幅広い世代に支持される繁盛店になっている。
料理もグッズもデザインも〝げそ天〟を前面に押し出す
家族経営のローカルスーパー。その姿は、百貨店をもしのぐ大型ショッピングモールの席巻により、影を潜めつつある。山形県山形市にあるスーパー「エンドー」もその一つだった。「だった」というのは、今では押しも押されもせぬ人気店で、連日連夜、客足が途絶えないからだ。看板商品の「げそ天」を前面に押し出し、店先にはげそ天ののぼり旗がはためき、顔出しパネルが通行人の足を止める。店内もげそ天のデザインで演出され、公式サイトのURLにも「gesoten」の英字が並ぶ。
店内の約3分の1を占めるイートインスペースは、ランチタイムともなるといっそうにぎやかだ。年配の方から20代のカップル、そして家族連れと幅広い世代でテーブルは瞬く間に埋まる。メニューはもちろん〝げそ天〟尽くし。げそ天重やげそば、定食の筋子めしにも、げそ天が添えられている。
繰り返すが、エンドーはスーパーである。生鮮食品や惣菜、日用品の品ぞろえは豊富だ。鮮魚の生きの良さにも定評がある。だが、げそ天という明確なアイコンを際立たせたことで、げそ天が名物の〝どこにもないスーパー〟と化している。
「出来たて、揚げたてを提供したくて、イートインもテイクアウトも注文が入ってからつくっています。待ち時間は長めですが、その間に店内で買い物をしていただけます。料理の提供の遅さがクレームにならないのは、スーパーの利点です」
そう語るのは、三代目店主の遠藤英則さん。名刺を差し出しつつ「この字体、オリジナルのげそ文字フォントです」と目を細めた。
「あるもの」「できること」を地道に見つけラジオに出演
なぜ、スーパーでげそ天なのか。古くは江戸時代、山形県の村山地方や最上地方で、げそ天は食べられていたという。内陸部で当時は生のイカが入手しにくかったことから、干して保存し、下足(げそ)も大事に食された。中でも干しスルメイカのげそは、水で戻して天ぷらにするのが定着し、そばのトッピングの定番にもなっていった。
「この辺りでは、おかずに、おやつに、酒のつまみにとなじみのもので、唐揚げと同じ感覚の一品です」と遠藤さん。だが、山形にはソウルフードや特産品がいろいろある。玉こんにゃくや芋煮、だしやそば、サクランボや米沢牛と枚挙にいとまがない。
「若い人にもお店に来てもらいたい。でも新しいことをするための資金がない。そうした中、目に留まったのが、イカ刺しで使わず、冷凍庫に大量にストックされたイカのげそでした」
1965年にオープンしたエンドーは、高度経済成長の波に乗って繁盛したものの、2008年に一度はシャッターを下ろしかけた。09年、東京での修業を経て遠藤さんが三代目として家業を継いだが、なかなか業績は上向かない。そこで、フードロス対策を兼ねて、げそ天による商品開発を試みたのだ。
「子どもや年配の方も食べやすいイカの軟らかさと、サクサクした衣の食感にこだわりました」
衣には卵を使わず、180℃に熱した国産米油を使い、温度・時間やイカのサイズにも研究を重ねた。そして半年後、遠藤さんの渾身(こんしん)作が完成する。
「でも、おいしいものをつくれば売れる、そんな時代ではありません。伝えていく努力もしました」
18年にげそ天を売り出すと、SNSの中でも、ビジュアル重視のインスタグラムに注力し、連日の投稿で地道にフォロワーを増やした。フォロワーから地元のラジオ局に評判が伝わり、ラジオ番組の出演が決まった。げそ天のおいしい店として知られていくが、経営回復の起爆剤としてはまだ弱い。
クリエーターと信頼関係を築いてリブランディング
「ラジオ出演後、広告制作会社やデザイン事務所からの売り込みが増えました。費用対効果が未知数なデザインに、お金をかける余力はなく、全て断っていました」
デザインに投資する発想がなかったと振り返る遠藤さん。だが、行きつけの美容室で目にした、花屋のショップカードの写真に衝撃を受けた。
