サノ・ファーマシー
秋田県秋田市
呉服販売から薬の卸・小売に
秋田藩主佐竹氏の居城だった久保田城の城下(現・秋田市)にある商人町だった所に、医薬品や健康食品などを販売するサノ・ファーマシーはある。創業は寛政年間(1789〜1801年)で、以来、この地で薬種処(やくしゅどころ)と呉服・反物・小間物商を営んできた。
「明治19(1886)年に秋田市で起きた大火で昔の書物が焼失し、それ以前のことは伝聞でしか残っていません。寺の過去帳を見ると、うちで最初に亡くなった人の記録が承応元(1652)年なので、その頃からこの辺りに住み着いていたようです。うちの屋号は越後屋だったので、新潟から商家の次男か三男が、反物を担いで秋田に行商に来たのが始まりではないかと思います。ただし創業年は、その後に佐野八五郎が薬種処を始めた年にしています」と、初代の八五郎から数えて八代目となる佐野元彦さんは言う。
薬種処を始める以前は呉服や反物、小間物などを扱っており、最初は行商人として路面の縁台に商品を並べて販売していた。それで少しずつお金を貯めていき、今の場所に店を構えたのではないかと佐野さんは言う。そして八五郎の代になると、藩への貢献が認められ、佐竹氏から名字帯刀を許されるようになっていた。薬種処を始めたのはその頃である。
「商売をして小金を貯めていくうちに、生薬(漢方薬の原料となる植物など)栽培農家との契約台帳を他の薬種処から買い取り、それを基に始めたのだと思います。当時の薬種処は卸と小売りの兼業で、栽培農家から買い上げた生薬を医師に卸したり、決まった処方の薬を自分で調合して店頭で販売したりしていました」
漢方薬から西洋医薬に転換
明治時代に入ってからも薬種処と呉服関連の商売を兼業で行っていたが、明治19年の大火により全て焼失。それからは呉服関連の商売を縮小し、薬の販売に注力するようになった。その一方で、日本で販売される薬品の状況にも大きな変化が起こっていた。明治30年代になると、西洋医学で使用する薬が医薬品メーカーによって広くつくられるようになったのである。
「医薬品メーカーは販路を広げるために、各地域の有力な薬局を販売代理店にして、地域の薬局に販売していきました。うちも販売代理店となり、大きな在庫を抱えるようになりました。そのスペースが必要になったために、呉服関連の商売は完全にやめて、医薬品に特化していったのだと思います」
販売代理店になると、小売業とはまた違った苦労がある。昭和14(1939)年に秋田県で起こった男鹿地震の際には、秋田市内も大きく揺れた。多くの取引先薬局が被害に遭ったため、売掛金の回収が困難になり、倒産寸前という事態にまで陥ったこともある。
「この地震のときには、佐野薬局が燃えているという噂も市内で出たそうです。実際は火事ではなく、塩酸などの化学薬品が入ったビンが割れて、化学反応で煙が出ただけでした。うちがそんな状況でしたから、ほかの店も地震で大きな被害を受けていたのです」
医薬分業の時代に対応
佐野さんは大学を卒業後、化学品の専門商社に勤めた後、28歳で家業の会社に入った。しかし、その4年後に社長である父親が亡くなり、昭和62(1987)年に32歳の若さで社長を継いだ。それから間もなくして平成時代に入ると、医薬品業界もまた大きな変革期を迎えた。厚生省(現・厚生労働省)により、医療の現場で医薬分業が進められたのである。
「県内各地の医療機関から、佐野薬局は老舗できちんとした仕事をしてくれるから、病院の近くに薬局を開設してほしいという依頼を多くいただきました。これにより店舗を増やし、医薬分業の時代に対応していくことができました」
現在は秋田県だけではなく、隣の岩手県や神奈川県鎌倉市、横浜市の薬局チェーン店などの営業権譲渡を受け、他県への展開を進めている。これは経営基盤の確立のためという理由以外に、地方企業ならではの人材確保対策の面もある。
「秋田には薬学部のある大学がなく、県外で薬学を学んでも、卒業後に秋田に戻ってくる人は3割しかいません。そこで秋田の学生が多く進学する県外の薬学部、薬科大学の近くにうちの薬局があれば、卒業後も大学の近くで勤務したいという人に入社してもらい、将来的に秋田に帰ることになったときは秋田の薬局に移ってもらうこともできます。このように先のことを見据えた経営を行っていることが、老舗として続けてこられた要因の一つなのかもしれません」
サノ・ファーマシーは地域の薬局として、処方箋を調剤するだけでなく、これからも患者と医師の間の橋渡しの役割を果たしていく。
プロフィール
社名:株式会社サノ・ファーマシー
所在地:秋田県秋田市保戸野通町3-31
電話:018-823-9357
代表者:佐野元彦 代表取締役社長
創業:寛政年間(1789〜1801年)
従業員:267人
※月刊石垣2020年2月号に掲載された記事です。
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