中小企業にとってブランディングとは、「価格ではなくこの会社に頼みたい」と選ばれる理由をつくる活動である。それには自社の強みや専門性、他社との違い、仕事への考え方やストーリーを明確にし、それを発信し続けることで信頼と認知を積み重ねていくことが重要だ。中小企業に特化したブランディングを多数手掛ける“叩き上げブランディングプロデューサー”安藤竜二さんに話を聞いた。
中小企業とブランディング
―近年、中小企業がブランディングを行う事例が増えています。
安藤竜二さん(以下、安藤) そうですね。10年くらい前は、ブランディングや付加価値化と言っても響く人は少なかったんですが、最近では政府が推進していることもあり、意識する企業が増えてきました。
―安藤さんは、ブランディングプロデューサーとして中小企業向けに講演を多数行っています。中小企業経営者の意識の変化をどう分析していますか。
安藤 特にコロナ禍以降、中小企業を取り巻く経営環境は大きく変化しています。過去の成功体験が通用しなくなり、当たり前のことをまじめにやっているだけでは立ち行かなくなりつつあります。そんな中で自社がどう認識されているかを再確認し、選ばれる企業になるために、ブランディングに取り組む必要性を肌で感じているのではないでしょうか。
―安藤さん自身、中小企業のブランディングに関わるようになったきっかけは何ですか。
安藤 私は、30年以上前に地元の老舗材木会社「岡崎製材」に作業員として入社し、後に営業を担当しました。当初は、大工さんに柱を売りに行っても、話は価格のことばかり。知識や経験が乏しいので、ほかより安くしないと売れないと思っていたんです。するとさらに安い価格で売る会社が出てきて、もっと安く売らなければいけなくなりました。価格競争を自ら起こしていたんです。
―価格競争になってしまうのは多くの業界の“あるある”です。
安藤 そんなある日、社長から真ん中に大きな穴の開いた一枚板を売ってこいと言われて。今ならテーブルやカウンターに使ったらおしゃれな板ですが、当時欲しがる人はいなかった。そこで買ってくれそうな人を探しに探した結果、東京で飲食店やホテルなどを手掛ける有名なデザイナーの方が買ってくれたんです。いらない人は目もくれないが、欲しいと言う人もいる。それを契機に、社内ベンチャーで量産型の木製デザイン家具ブランドの「コンチネンタルスタジオ」を立ち上げました。
―実際にブランドをつくってみたのですね。
安藤 ただ、いい物を扱っていれば、いつか見つけてもらえると期待しているだけではダメで、こちらからお客さまを探しに行くこと。そして相手には価格ではなく、職人さんの想いや産地の歴史といった価値を伝えることが重要だと気付いて、ブランディングに興味を持ちました。
ブランドは「顧客との約束の証」 誰に何を伝えるかを明確化
―中小企業がブランディングを考えたとき、何から始めたらいいでしょうか。
安藤 ブランディングというと、かっこいいロゴやパッケージなど目に見えるデザインに目が向きがちですが、かっこいいかどうかは主観の問題です。それも大切ですが、そもそもブランドとは「顧客との約束の証」だということです。
―顧客との約束とは?
安藤 私が働いていた材木会社は中小企業ですが、創業以来ずっと品質やサービスを顧客に約束し、選ばれてきたからこそ100年以上続く老舗企業になりました。そうなるにはオンリーワンの強みを持ち、選ばれている理由を把握して、自ら発信できる仕組みをつくる必要があります。その一環としてロゴやパッケージデザインを工夫するのも方法ですが、重要なのはどうやってお客さまに約束するかです。
―具体的な事例があれば紹介していただけますか。
安藤 八丁味噌をご存じですか。岡崎市発祥の豆味噌で、現在では2軒の小さな味噌屋さんがつくっているだけですが、その名は全国的に知られています。それは、大豆と塩だけで米麴を使わず、約2年半もかけて天然醸造で熟成させる伝統製法を何百年も守り続け、変わらぬ味を提供することを“約束”しているからです。それが伝わるからお客さまは価格が高くても買うし、他の誰かに教えたり、宣伝してくれたりするので知名度も高い。これこそがブランドです。
―中小企業が自社や自社商品を知ってもらうには、どうしたらいいでしょうか。
安藤 大企業のように広告・宣伝費をたくさんかけることは難しいので、初めに伝える相手を選ぶべきです。まず、「誰に(顧客)何を(価値)」伝えるかを明確にすることから始めるといいでしょう。
「買ってほしい相手」を想定
―安藤さんは、誰に何を伝えるかを明確にするにはペルソナの設定が必要と話されていますが、ペルソナを分かりやすく教えてください。
安藤 ペルソナとは、商品やサービスを利用する顧客像(ターゲット像)のことです。商品やサービスを売り込もうとしている人がどんな人なのか、具体的に分からなければ、何をどう伝えればいいか分からないでしょう。そこでペルソナの設定が不可欠なんです。
―30代女性や50代男性というように、ターゲット像の年齢や性別を想定するということですか。
安藤 おおまかな属性だけでなく、架空の個人を想定して、具体的なペルソナをつくります。例えば、名前、年齢、性別、家族構成、勤務先、年収、趣味、好きな芸能人、よく見るメディアなど、その人の嗜好(しこう)や行動パターンなどを具体的に特定すると、どうすればその人に自社商品やサービスが伝わるか、言葉やアピール方法が見つかりやすくなります。
―商品やサービスを利用してほしい人について、かなり詳しく属性を設定するんですね。
安藤 その通りです。BtoBの場合は個人ではなく、自社商品やサービスを利用する決定権を持っている経営者や担当者を想定してペルソナをつくりましょう。その際に大切なのは、今のお客さまだけでなく、今後商品を売り込みたい相手を想定すること。将来に不安があるからブランディングを考えているわけですから、将来の顧客も想定することが重要です。
―実際にやってみると、けっこう難しそうです。参考になる事例はありますか。
安藤 例えば、大正14年(1925年)に創業した「アカイタイル」さんは、長年大手企業の下請けをしてきたタイル屋さんです。不景気で仕事が減っていく中、日頃行っていない、特別な歴史的建造物のタイルの修復・復元物件の仕事を行っていました。そこでその仕事を増やしていく事に活路を見いだし、発注元の大手ゼネコンの資材部担当者をターゲットのペルソナに設定して、動き出しました。具体的には、「大手ゼネコン資材部課長の高橋さん(35歳)」「何事もまじめな性格」「インターネットを使いこなし、新しい情報に敏感」「日本の伝統的建物に興味がある」「よく見るテレビ番組は『ガイアの夜明け』」という具合です。
―まるで実在の人物のプロフィールのようです。
安藤 ペルソナは、具体的であるほどいいんです。この高橋さんが自社の扱う古い建物のタイル修復ができる業者を探す際、インターネットで「タイル・復元」と入力するだろうと予測して、タイル専門復元工場「復元屋」を立ち上げました。
「100字と75字」で自社の説明と強みをまとめる
―ターゲット像が明確になった後、その人に伝えるためのヒントを教えてください。
安藤 ブランドは「顧客との約束の証」と前述しましたが、中小企業は、お客さまに何を約束しているか分からない場合が多いものです。それをはっきりさせるために、私は「100字と75字」をおすすめしています。
―「100字と75字」とは何ですか。
安藤 会社の説明を100字、会社の強みを75字で三つ書くというものです。まず会社の説明は、会社の歴史や事業の背景などを盛り込み、経営理念や行動指針など普段から大切にしている言葉を使うことがポイントです。
