円安は、日本の中小企業にも悪い影響を与え始めている。日本商工会議所「商工会議所LOBO(早期景気観測)」の2026年3月の調査によると、「円安の進行(1ドル=165円程度)」と「金利上昇(現在の金利プラス0・25~0・5%)」のどちらが影響が大きいかとの問いに対して、「円安の進行の方が影響が大きい」との回答が41・5%、「金利上昇の方が影響が大きい」との回答が25・6%だったという。いまや、金利上昇よりも円安の進行の方が中小企業の業績に与える影響が大きいようである。
26年3月以降、円ドルレートは1ドル160円前後という動きにはなっているが、実態としては1971年までの固定為替相場である1ドル360円時代よりももっと「円安」になっている。それというのも、70年から統計を取っている日本の実質実効為替レート(指数)が、目下統計史上最低水準にまで低下しているのである。実質実効為替レートとは、日本と貿易取引がある全ての通貨と日本円との間の為替レートを、貿易額などで計った相対的な重要度でウエート付けし、対象となる国・地域の物価動向も加味して算出したものである。要するに、日本円の対外的な購買力とも言える。
実質実効為替レートは2020年の状態を100として、100より高いと対外的な購買力が強く、相対的に円高となっていることを意味し、100より低いと対外的な購買力が弱く、相対的に円安となっていることを意味する。実質実効為替レートは26年4月に65・7と、統計史上最低を記録した。1ドル360円だった1970年当時の実質実効為替レートは75前後であった。つまり2026年4月の実質実効為替レートは、1ドル360円だった1970年1月よりも相対的に円安で、対外的な購買力はその時よりも弱いことを意味する。輸入品や輸入原材料を買おうにも、その費用負担が以前よりも重くなっている現象を裏付けるものと言える。
この相対的な円安が、日本の輸出産業に取って追い風となり、足元で輸出が急拡大して貿易・サービス収支の黒字がますます増えているということなら、悪いことばかりではないと言える。しかし、どうやら今のところ、そうではなさそうである。2025年度の貿易・サービス収支は、赤字が縮小したとはいえ2・5兆円の赤字である。
こうした実質実効為替レートの低下は、財政金融政策とも関係し得るものである。日本銀行がなかなか利上げをしないことが、直近の円安を止められないとの見方が強い。加えて国債の増発によって、日本円に対する市場の信認が損なわれ、円安を助長することにつながる。
国債の増発が日本円に対する市場の信認に直結しないほど、日本の財政状況が健全であれば、財政運営が直ちに実質実効為替レートに影響することはない。しかし国債残高が未曽有の規模に達している今日、国債を増発する財政運営を行えば、日本円に対する市場の信認を損なわせかねない。それが円安を助長すれば、輸入品や輸入原材料の国内価格がさらに上昇する。それは国内物価全体を押し上げることになる。
日本国内で物価上昇率が上がっても、価格転嫁が十分に行われれば、特に重大な支障を来さないかもしれない。しかし現に物価高対策が政治問題化しており、賃上げが物価上昇に追いつかず、実質賃金が下がっている人も多くいるような状況である。そうなると、物価高対策に政治が動き、何かと減税や補助金で対応しようとする。物価高対策のために減税や補助金など財政政策で対応しようとすれば、財源が必要だが、その効果を打ち消すような増税はできないから、またぞろ国債の増発につながる。そうした国債の増発が市場の信認を損なわせて、さらなる円安につながると、この悪循環から抜け出せなくなる。
目下、実質実効為替レートが史上最低水準になっていることは、拡張的な財政政策と、それと連動した利上げができない金融政策が一因になっているとしたら、政策スタンスを見直さないと、円安は止まらないのかもしれない。(6月15日執筆)

