高市早苗内閣になって初めて、「骨太方針2026」が取りまとめられた。例年6~7月に閣議決定される「骨太方針」は、その後の財政運営の方針を指し示すものとなっている。
「骨太方針2026」では、これまで財政健全化目標として掲げてきた「基礎的財政収支の黒字化」を外して、「政府債務残高対GDP比の安定的な低下」を財政運営目標の中核に据えることとした。
基礎的財政収支とは、本年度の税収から、本年度の政策的経費を差し引いた収支のことを指す。基礎的財政収支が黒字ならば、今年の税収で政策的経費を賄い切ってお釣りが出て、それを借金の返済に回す余裕が出る。基礎的財政収支が赤字ならば、今年の税収では政策的経費を賄い切れず、足りない分を借金して賄わなければならない。
特に、社会保障費に焦点を当てると、医療や介護を中心に、高齢化に伴って増えているが、基礎的財政収支が赤字だと、社会保障費の一部は今年の税収だけでは賄い切れず、足りない分を赤字国債で穴埋めしている状態である。今年の社会保障費は、今年、医療や介護などを受けた人には恩恵があるが、将来の高齢者に恩恵が及ぶものではない。だから、今年の基礎的財政収支が赤字だと、今年の社会保障費は今年の税収だけでは賄い切れず、足りない分を借金で穴埋めして、恩恵を受けない将来の国民に、その返済のツケを回している。
日本の基礎的財政収支は、1980年代後半のバブル景気の時に黒字になったが、バブル崩壊後は40年近くずっと赤字のままとなっている。
ただ、歴代政権は、基礎的財政収支の赤字を減らすべく努力してきた。最初は2011年度に黒字化する目標を立てたが、08年にリーマンショックが起き、景気が悪化して頓挫した。次に、20年度に黒字化する目標を立てたが、消費税の増税で得た収入を、幼児教育無償化にも充てるという使途変更を行ったことに伴い、赤字が減らない見通しとなり、18年に黒字化目標の達成年次を25年度に延期した。
コロナ禍以降、巨額の補正予算を組むことが毎年続き、 国債を増発して補正予算を組んだことから基礎的財政収支が悪化し、25年度には黒字化は達成できなかった。とはいえ、基礎的財政収支の赤字は減りつつあり、補正予算さえ組まなければ黒字化は目前である。
25年10月に発足した高市内閣は、「責任ある積極財政」を掲げた。積極財政を強く推す政治家は、財政支出をもっと増やすことを要求している。ところが、財政支出を拡大したいのに、これまでに取り組んできた基礎的財政収支の黒字化という目標が、それを阻んできたという認識が、積極財政を強く推す政治家たちにはある。
実際は、基礎的財政収支の黒字化目標を目指す中でも、公共事業は増やしてきたし、社会保障費も増えていた。だから、基礎的財政収支の黒字化目標のせいで「緊縮財政」になったわけではない。しかし、財政支出を拡大したい政治家から見ると、基礎的財政収支の黒字化目標は目の上のたん瘤みたいに見えているのだろう。積極財政を強く推す政治家は、基礎的財政収支の黒字化目標の撤廃を提唱していた。
そうした経緯で、「骨太方針2026」では、基礎的財政収支の黒字化目標を外した。政府債務残高対GDP比の安定的低下が、今後の目標の中核となる。確かに、基礎的財政収支がわずかに赤字でも、経済成長率が高ければ、債務残高対GDP比の分母であるGDPが大きく増えるので、この比率は低下する。しかし、経済成長率が低いと、基礎的財政収支が赤字だと政策的経費を賄うために追加して借金をしなければならないため、債務残高対GDP比は低下しない。
高市内閣になってから、国債を大量発行するのではないかという懸念から、国債金利が上昇している。だから、高市内閣も国債金利が上昇しないよう配慮し始めている。基礎的財政収支の黒字化目標がなくなったとしても、債務残高対GDP比を確実に下げられるよう基礎的財政収支の黒字をしっかりと確保していくことが求められる。(7月21日執筆)

