米国のニューヨーク・タイムズ紙で「2023年に行くべき52カ所」でロンドンに次ぐ2番目の都市に選出され、世界から注目を集める岩手県盛岡市。かつて北上川の舟運(しゅううん)を利用した物流拠点として栄えた商業の城下町の風情と、豊かな自然が共存している。この地で、行政との強固な信頼関係を武器に、自分たちの手でビジネス環境を創り出そうと奔走する盛岡商工会議所青年部(以下、盛岡YEG)の信念は揺るぎない。
積極的に「歩く」ことでまちの魅力を再発見
盛岡YEGの活動の核となっているのが、2020年度から始まったまち歩き事業「もりおか歩(ホ)っとさんぽ」である。盛岡YEG筆頭副会長の藤澤正展さんは、「人口約28万人の盛岡市は、緑豊かな自然と都市機能が近接した“田舎の中の都会”であることが魅力ですが、車社会のため、普段車で通る場所を歩いてじっくり見る機会が実は少ないです」と指摘する。
この事業の主役が、YEGメンバーが2回、3回と下見を重ねて制作したまち歩きマップである。あえて「歩く」ことで、普段は見過ごしてしまいがちなまちの魅力を言語化し、再発見するのが狙いだ。
本来は、メンバーに向けて作成しているものだったが、ニューヨーク・タイムズ紙に選出されたことを受けて観光客向けにアレンジし、盛岡市に寄贈した。この観光マップでは、運行間隔が1時間に1本の東北新幹線の待ち時間を活用してもらおうと、「新幹線、一本遅らせませんか?」というキャッチコピーを掲げ、駅から1時間圏内で楽しめる四つのコースを提案した。単なる観光案内ではなく、メンバーが経営する企業が古い蔵を改造して営むワイン販売所や、「盛岡じゃじゃ麺」など地域の食文化を盛り込み、地元を知り尽くすメンバーならではの視点を生かした。また、下見の際には市役所の職員も交えてまちを歩き、意見交換をしながら懇親を深めていったことも特筆すべき点だ。
行政との意見交換が生んだ政策提言と結束力を生む祭り
盛岡YEGの強みは、行政との距離の近さにある。盛岡市役所の職員と本音で語り合う「風会議」を6年以上継続しており、そこで交わされた議論が実際の政策へとつながっている。当初は市街地の活性化や人口減少、ふるさと納税といった大きなテーマを取り上げていたが、現在では市側から「森林税の活用方法」や「老朽化した施設の利活用」について議論したいと相談が持ちかけられるほどのパートナーシップへと発展している。
この積み重ねが実を結び、23年度には盛岡YEGとして初の政策提言書を市長へ手渡しで提出した。当時盛岡YEG会長を務めた藤原英里さんは、「行政に事前の相談や手引きを仰ぐような十分な時間的猶予はありませんでしたが、『とにかくゼロから第一歩を踏み出さなければ始まらない』という気持ちで、まずは形にして提出しました」と語る。
提言の内容は「行政の発信力強化」「観光における動画活用の推進」「まち歩きによるシビックプライドの醸成」の3本柱。盛岡YEGは、具体策として盛岡市公式インスタグラムのフォロワー増加プロジェクトに着手した。花火の祭典に合わせたフォトコンテストなどを通じて、フォロワー数を約3000人から5000人へと引き上げる確かな成果を上げ、行政から頼られるパートナーとしての地位を確立した。
一方、地域への貢献とメンバーの結束力を高める事業として欠かせないのが、毎年8月1日から4日にかけて開催される「盛岡さんさ踊り」での売店運営だ。1日30万人以上の人が訪れる盛大な祭りのメイン通りに大型テントを構え、4日間で約700万円の目標金額を売り上げる総力戦である。これについても、メンバーの企業が手掛ける「盛岡じゃじゃ麺」をはじめさまざまな飲食を販売し、大盛況を収めている。この熱気と活気に魅了された若手経営者が、「あの輪に混ざりたい」と新規入会を決める機会も少なくないという。
スローガンを胸に地域経済圏の未来を描く
盛岡YEG会長の佐藤洋平さんが掲げるスローガンは、「Think Big!(大きく考えよう)」だ。将来的な日本商工会議所青年部全国大会の開催も見据えながら、会員数を現在の115人から200人体制へと倍増させ、出欠回答率9割、参加率8割という高い目標を掲げて組織力の強化を目指している。
「自社の成長が、地域への貢献につながる」という信念の下、メンバー同士が互いの“間接営業マン”となってビジネスを活性化させるパフォーマンスにも注力している。単なる名刺交換にとどまらず、YEGの活動を通じて互いの人間性を深く知り、メンバー以外の知人にも自信を持って仲間を紹介し合える強固な関係性を築くことが狙いだ。「身の回りの暗いニュースばかりに目を向けるのではなく、明るいまちの未来をつくるのは俺たち自身だ」という強い自負―。盛岡YEGの挑戦は、このシビックプライドを原動力に、自らビジネス環境を構築し、地域経済の新たな可能性を切り開いていく。
盛岡YEG
会 長 : 佐藤 洋平
会員数 : 115人
創 立 : 2002年
スローガン : 「Think Big!」~創ろう!誇れる未来を!~
HP : https://www.morioka-yeg.com/
編集後記
石津拓也(和泉YEG)
今回の取材でいちばん心に残ったのは、行政の皆さんと本音で語り合い、提言を形にし、その先の実行まで自分たちの手で進めている姿でした。語ること、形にすること、続けること。当たり前のようでいて簡単にはいかないことを、丁寧な対話を重ねて乗り越えてきたのだと感じます。確実に成果を出すYEG活動のコツを多く学ばせていただきました。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報DX委員会/写真提供:盛岡商工会議所青年部

