城下町としての歴史を色濃く残す新潟県新発田市は、冬になれば深い雪に覆われる。そんな厳しい冬の寒さを吹き飛ばす熱気あふれる一大イベント「城下町しばた全国雑煮合戦」、そして夏の夜を彩る「白天狗みこし」。新発田商工会議所青年部(以下、新発田YEG)が長年けん引してきたこの二大事業は、単なる祭りの枠を超え、莫大(ばくだい)な経済効果と市民の「誇り」を生み出している。独自の「地域経済圏」を創り上げる新発田YEGの情熱に迫った。
〇〇合戦の可能性!?4億円の経済効果を生む祭典
雪が舞い散る中、温かい湯気が立ち上る。2005年より毎年1月、正月休みの翌週に開催される「城下町しばた全国雑煮合戦」の会場には、数万人もの笑顔があふれる。
この事業は元々、新発田城の辰巳櫓(やぐら)と三階櫓の復元を記念して企画されたものだ。検討当初は「市内の田んぼでザリガニを捕まえて食べる『ザリガニ合戦』」という奇抜な案も出たが、米どころ新潟ならではの「餅」、そして具だくさんで特徴的な新発田の「雑煮」に白羽の矢が立ったという。
回を重ねるごとに規模は拡大し、第14回大会(18年)では約2万5千人が来場、およそ4・3億円もの経済効果をもたらすイベントへと成長を遂げた。この成功を支えているのが、強固な産学官連携である。イベント当日は新発田市職員が運営に加わり、市内から集まった50人以上の学生ボランティアが汗を流す。
長年このイベントに携わってきた新発田YEGの元会長である南日洋(なんにちひろし)さんは当時をこう振り返る。「大雪に見舞われた年には、除雪車も入れない中、隣接する駐屯地の自衛隊員たちとYEGメンバーが肩を組み、みんなで掛け声を合わせながら足で雪を踏み固めて会場設営を行いました。開会の合図が自衛隊のラッパだったこともありますよ」
実は南日さん自身、第5回大会(01年)の開催時に客として訪れた際、泥くさくもエネルギーにあふれる運営者の姿に引かれ、「雑煮合戦に関わりたい」とYEGの門をたたいた経歴を持つ。
地元企業との連携も見逃せない。小学生が植えた最高級もち米「こがねもち」をサトウ食品が加工し、イベントで提供して残飯は堆肥化するという、環境に配慮した地域内の経済・資源循環モデルまで構築している。これだけ地域に根付いているからこそ、YEGメンバーが協賛金のお願いに企業を訪れると、「雑煮の件ね。分かったよ」と即座に協力が得られるほど、絶大な信頼を獲得しているのだ。
時代に合わせて開催場所や運営方法も進化させてきた。近年は中心市街地の空洞化という課題に向き合い、24年には雑煮合戦のメイン会場を新発田駅前へと移した。当時実行委員長を務めた渡辺隆矩(たかのり)副会長は、「移築された蔵春閣をはじめ、駅周辺に新しい観光スポットが増え、近隣エリアは盛り上がりを見せています。周りの観光地と絡めて開催することで、もっと面白いまちづくりができると考えました」と振り返る。25、26年度はより広いエリアを活用するため、寺町通りや諏訪神社など観光名所に囲まれた「蔵春閣」周辺を会場に選んだ。
26年1月に予定されていた全国雑煮合戦は、想定外の強風に見舞われ、安全を考慮して無念の中止を余儀なくされた。しかし、彼らの歩みが止まることはない。「雑煮合戦で、新発田のまちをさらに力強くPRしたかった。昨年度は中止となってしまいましたが、事業を通じてまちに人を呼び込み、地域を盛り上げたいという根本の目的は揺るぎません」と、髙澤樹直前会長は語る。
女性が主役の「白天狗みこし」で世代を超えた熱狂を
一方、新発田の夏を熱くするのが「白天狗みこし」である。1992年の第12回日本商工会議所青年部全国大会・山形大会で女性たちが勇ましく天狗みこし(沼田YEGが運営)を担ぐ姿に衝撃を受けたOBが、「新発田でも女性が輝ける祭りを」という熱意で実現させた。
新発田の神社に伝わる白い天狗の面をモチーフにした巨大なみこしを、100人の女性だけで担ぐ。道中でみこしを下ろし、「ラッセラ」の掛け声とともに一斉に踊り出すパフォーマンスは圧巻で、観客を巻き込んだ熱狂を生む。男性メンバーは「内部補助」として、重いみこしを下から懸命に支え続ける。
この活動を通じて沼田YEGとの交流は30年以上続き、広域的な連携の架け橋となっている。「白天狗みこしに携わりたい」という理由で新発田YEGに入会する若者も多く、二大事業そのものが会員獲得を成功させる強烈な求心力となっている。
独自のメンバー制度と次世代へつなぐ「三方よし」の精神
地域の人口減少という課題に直面しながらも、新発田YEGは組織のアップデートも怠らない。本年度のスローガンは近江商人の哲学に由来する「三方よし」。会員、自企業、そして地域社会の全てを良くしていくという決意が込められている。
新発田YEGの特徴的な取り組みの一つに、「YEGクラブ会員制度」がある。商工会議所の会員資格を持たない市内の経営者や別業態の若手なども個人会員として活動に参画できる仕組み(年会費1000円)で、多様な人材を柔軟に巻き込んでいる。
松尾拓郎会長は、「若手が頑張り過ぎて疲弊してしまっては元も子もない。先輩方が創り上げてきた地域貢献の事業を次世代へバトンタッチしていくためにも、今は組織の地盤を固め、会員が無理なく自企業の発展と両立できる環境を整えたい」と語る。本年度はあえて委員会の回を減らし、メンバーの負担軽減と交流促進を図るなど、持続可能な組織づくりにかじを切った。
彼らの血と汗の結晶は、確実に地域の活力を生み出し、強固な「地域経済圏」を循環させる原動力となっている。まちを愛し、まちに愛される新発田YEGの飽くなき挑戦は、これからも続いていく。
新発田YEG
会 長 : 松尾拓郎
会員数 : 54人(ほかクラブメンバー6人)
創 立 : 1947年
スローガン : 「三方よし」
HP : https://www.shibata-yeg.com/
編集後記
出渕篤史(岡山YEG)
イベントの成功の裏には、驚異的な行動力がありました。イベントを知ってもらうために、ひたすら外に出てPRし続ける。そして終わった後には、涙を流しながら仲間と乾杯。その話がとても印象的で、「絶対に成功させる」という強い思いがしっかり伝わってきました。何が苦労か分からないくらい大変でも、やり切る新発田YEGの皆さんは、本当にすごいです。これからの活躍も楽しみにしています。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報DX委員会/写真提供:新発田商工会議所青年部

