今や国内の外国人労働者数は約257万人(厚生労働省・2025年10月末時点)に上り、日本の産業に欠かせない存在となった。だが、コミュニケーション不足から早期離職したり、日本社会になじめず悩む外国人労働者も多い。そこで、外国人雇用問題に詳しい一般社団法人キャリアマネジメント研究所代表理事の千葉祐大さんに、外国人従業員(外国人材)を孤立させないコミュニケーション術や働きやすい社内環境のつくり方を解説してもらった。
千葉 祐大(ちば・ゆうだい)
一般社団法人キャリアマネジメント研究所 代表理事
外国人材を雇用する前に従業員に向けた説明会を
外国人材を初めて雇用する際、まず気をつけるべきなのは、現場の受け止め方です。ありがちなのは、経営層は前向きなのに、現場は冷え切っているというケース。「人手不足だから外国人材を受け入れよう」と経営層は意気込んでいても、現場の社員は未知の存在への戸惑い、仕事の負荷が結果的に増えるかもしれないという不安感から、実は非常に嫌がっていることが多いのです。
特に自分の仕事にプライドを持つベテラン社員ほど、この傾向が強く、「日本語ができない人間に、自分たちの仕事ができるはずがない」と、抵抗勢力になってしまうのです。こうした現場に外国人材が入ると、のびのび働くことができず、最悪の場合はすぐに辞めてしまいます。
重要なのは社員に対して事前に説明会を開くことです。なぜ外国人を受け入れるのか、会社にとってどれほど大切なことなのかを説明し、現場が納得した上で受け入れなければ、高い確率で失敗します。「入れれば時間が解決する」という考え方は、まず通用しません。
上司や同僚の人選が重要
受け入れの成否を分けるもう1つの要素が、一緒に働く上司や同僚の人選です。適切な人物の条件は大きく分けて4つ。①説明能力がある②部下を正しく評価できる③外国人への理解がある④差別主義者ではない―です。
①の説明能力があるというのは、相手の日本語能力に合わせた話し方ができるということです。
特に注意したいのが、50歳以上の世代です。この世代は日本経済が最も強かった時代を過ごし、周りに外国人がほとんどいない環境で育ってきました。そのため無意識に外国人を下に見てしまう人が少なくありません。日本語が上手ではない外国人材でも、「自分が下に見られている」ことは感覚的に分かります。そんな人のために頑張ろうとは誰も思いません。
理想的なのは、海外駐在や留学など、自身がマイノリティーの立場に立ったことがある人材です。少数派の心情への理解が深く、良き上司・同僚になる傾向があります。
孤立させない仕組みづくり
法務省「在留外国人に対する基礎調査」によると、日本に住む外国人の半数以上が孤独を感じています(表1参照)。日本人でも孤独を感じている人はいるでしょうが、言葉と文化の壁がある分、外国人は孤立しやすいのです。このため、外国人材がいる職場での定着率を高めるためには、孤独・孤立を防ぐ仕組みをつくることが重要です。
その具体策は、大きく3つあります。第一に、同じ国から複数人を採用し、母国語で話せる環境をつくること。第二に、「重視されている」と実感させる働きかけです。定期的な1対1面談やメンター制度が代表例で、ある会社では、ベトナム人1人に対し、仕事のメンター2人、私生活のメンター2人をつけた例もあります。そこまでする必要はありませんが、とても大切にされているという感じはします。第三に、飲み会や社内行事など仕事以外のコミュニケーションの場、地域のお祭りなどへの参加など、社外での接点をつくることです。厚生労働省の調査でも、地域社会との関わりが深い人ほど、長く働き続けたいと考える傾向が確認されています(表2参照)。
こうした取り組みは、離職防止だけでなく、以降の採用にも直結します。外国人材は、同じ国の出身者同士のSNSコミュニティーでの口コミが活発で、良い情報も悪い情報も瞬時に広がります。外国人材を大切にする企業には次の人材が集まりやすく、好循環が生まれるのです。
言葉と文化の違いが壁に
次は、コミュニケーションについてです。厚生労働省「外国人雇用実態調査」によると、外国人を採用する企業に「外国人労働者の雇用に関する課題」を尋ねたところ、「日本語能力などのためにコミュニケーションが取りにくい」が最も多く、次いで「在留資格申請などの事務負担が面倒・煩雑」「在留資格によっては在留期間の上限がある」「文化、価値観、生活習慣などの違いによるトラブルがある」の順でした(表3参照)。手続き面を除けば、言葉と文化の壁が大きな課題となっているのです。
まずは文化の壁について説明しましょう。厚生労働省「外国人雇用状況」によると、外国人労働者は現在約257万人で、1位がベトナム、次いで中国、フィリピン、ネパール、インドネシア、ミャンマー、ブラジルの順です。今後増えていくと予想されるのはインドネシアを筆頭に、パキスタン、バングラデシュと、いずれもイスラム圏です。つまり、宗教的な配慮、対応がこれからの大きな課題になることは確実です。
就業時間中の礼拝への対応
そこで配慮すべき点は、主に礼拝、食事のハラール(イスラム法上で食べることが許されている食材)、ラマダン(約1カ月間、日の出から日没までの断食)の3つです。1日5回行う礼拝は日中に2回程度あり、仕事中でも中断してお祈りをします。このため、礼拝の時間をどう扱うかの判断が必要になります。さらに、礼拝前には手と足を洗い清める必要があり、礼拝中は人目や声かけを避けたいというニーズもあります。そのため、ロッカー室や会議室を礼拝時のみ開放するなど、柔軟な対応が求められます。配慮できないようであれば、最初から採用しない方が賢明です。
注意するときに使える「ほめ言葉サンドイッチ法」
コミュニケーションの面では、外国人材と話す際、日本人同士で交わす言葉の量の5割増しにするくらいがちょうどいい。そして、重要なことは何度か繰り返し、理由や目的も合わせて伝えることです。
また、注意や叱責(しっせき)をする際には、マイナスの内容をプラスの言葉ではさむ「ほめ言葉サンドイッチ法」が効果的です。これは①ほめて②注意や叱責をして③最後にまたほめるという話し方です(下記「外国人材とのスムーズな意思疎通を図る8つのポイント」参照)。日本語は文末の印象が強いため、最後に励ましや期待の言葉を置くことで、相手のモチベーションを損なわず、注意や叱責すべきことを伝えることができます。
日本人特有の曖昧表現は行き違いを招くことも
日本語には特有の曖昧(あいまい)表現があり、その1つが、直接的に言わず、言葉の裏を読ませたり、気付かせたりする言い方です。実例を1つ紹介します。
ある日本人上司が、遅刻してきた外国人部下に「今日は重要な会議があるのに、なぜ遅刻したのですか?」と尋ねたところ、部下は「バスがいつもの時間に来なかったので」と説明しました。すると上司は「言い訳をするな!」と、怒り出しました。上司が求めていたのは遅刻の理由ではなく、謝罪の一言でした。しかし部下は、文字どおり「遅刻した理由」を尋ねられたのだと思ったのです。
日本人同士であれば「なぜ遅刻したのか」に対して「すみません」という謝罪が返ってくることを当然のように期待しますが、その暗黙の前提は、外国人材には通用しません。こうした言葉の裏読みを求める会話パターンこそが、最もコミュニケーション不全を生みやすい落とし穴だと言えます。
