豪雨、台風、猛暑、地震。災害は、もはや「まれに起きる非常事態」ではない。気象庁によると、1時間降水量50ミリメートル以上の大雨は、1980年頃と比較して、約1.5倍に増えた。地震もまた、日本で常に備えるべきリスクであり、災害は、地域経済が常に向き合うべき経営環境の一部となっている。
災害の被害は、住宅や道路、河川、公共施設にとどまらない。店舗は営業をやめ、工場は生産を中止し、物流は滞り、観光地では予約キャンセルが相次ぐ。地域経済にとっては、雇用や取引、資金繰りなど広範に影響を与える連鎖的なリスクである。そして、経済の立ち遅れが、災害からの復興を遅らせる原因となることが多い。
災害に強い地域とは、被害を受けても、早く立ち上がり、商売と雇用、ビジネスと生活とをつなぎ直せる地域である。ここに、地域経済のレジリエンスという視点がある。そして、地域全体のレジリエンスを高めるためは、人命を守る防災に、地域経済を止めない防災を重ねる必要がある。
その中心的な手段が、企業の事業継続計画(BCP)である。何を優先し、誰に連絡し、どう復旧するかを事前に定めるもので、経営の重要な備えである。しかし、BCPはあくまで計画に過ぎない。実際の災害時は、電気も通信も止まり、道路は使えず、社員や取引先と連絡が取れない、行政窓口に相談できないといったことがある。とりわけ中小企業にとって、非常用電源、代替拠点、通信設備、備蓄、仮設業務スペースを自社単独で備えることは容易ではない。
BCPだけでは動けない
BCPというソフトがあっても、それを現実に動かすハード(施設や場所)がなければ、地域経済は立ち上がれない。有事に人が集い、情報が集まり、支援につながる物理的な拠点が必要である。
市民には市役所、公民館、学校、体育館など、物理的に頼ることのできる公共施設がある。そこへ行けば、情報が得られ、支援につながり、次の行動を考えることができる。
では、地域企業にとって、そのような場所はどこか。被災した事業者が、まず足を運べ、相談できる場所。補助金、融資、保険、雇用、取引、仮設営業、専門家支援につながれる場所が必要だ。 その役割を担い得るのが、全国各地の商工会議所(が入る施設)である。商工会議所(施設)は、平時には会議、相談、研修、交流の場であるが、有事には、地域経済の避難所となり、復旧の司令塔になり得る場所だ。
もう一つ欠かせない視点が、地域経済を自地域の中だけで完結させないことである。
経済学の比較優位によれば、それぞれの地域が、自らが相対的に得意な産業や機能に力を入れ、不得意な部分は他地域との交易によって補い合うことで、プラスサムを実現し、全体として豊かになる。
経済の避難所を持つ
平時から他地域と取引し、人材や技術を交換している地域は、有事にも孤立しにくい。一部の機能が止まっても、他地域の企業、商工会議所、金融機関、物流網、専門家とつながっていれば、代替調達、販路維持、応援人材、仮設拠点の確保に道が開ける。閉じた自立ではなく、開かれた相互依存(ローカルファースト)こそがレジリエンスを高める。倒れない地域経済となるためには、個社ごとのBCPに加え、それを現実に動かす物理的な拠点と他地域と助け合える交易と協働のネットワークが必要だ。
そして、平時の交流と有事の拠点の二つの性格を同時に持つことができる商工会議所(施設)は、経済面での安心の拠点になり得る。そのためには、全国の商工会議所(施設)の強靭化が不可欠である。単なる建物更新ではなく、地域企業が「困ったときは、まずここへ行けばよい」と思える経済の避難所をつくることである。
物理的に頼れる拠点を持ち、平時から他地域と交易し、有事には協働によって立ち直る地域となること。これが、災害が日常になった時代に問われる視点である。
(一般財団法人ローカルファースト財団理事・鵜殿裕)
