高市首相は所信表明演説で、積極的な財政政策を進めるに当たり財政の持続可能性を前提とすると述べた。しかし、具体的な方策は十分に議論されていない。歳出拡大によって成長を促す路線が強まる中、財政規律への意識が薄らいでいないかと懸念される▼
学術研究では、政府への信認、金利と成長率の関係、中央銀行による国債保有など一定の条件があれば財政赤字は許容されるという見方が強まっている。しかし、これは将来の安心材料にはならない。過去のデータを基にこれまで危機が起きなかった理由を説明することと、今後、これまでと同じ条件が続くと判断することは別の問題である。とりわけ政府が必要な財政調整を行う能力や意思に対する信頼が失われれば、過去の経験に基づく見通しが成り立たなくなる▼
実際、近年の国債市場では主要国で長期金利への上昇圧力が強まり、財政の先行きへの懸念が市場を揺さぶる場面が見られる。フランスでは政治的な混迷によって財政健全化が進まないとの懸念から利回りが上昇した。政府が債務の増加を抑える政策を実行できるかという市場の見方が信頼、国債の評価を左右する。国債市場は政府の政策に対する市場の判断や予想によって絶えず変化する。金利や成長率、財政収支に加え、政策に対する人々の信頼によって債務の先行きは大きく変わり得る▼
日本政府に求められるのは、財政を支えてきた条件が今後も維持されるのかを点検し、条件が変わった場合に何が起こるかを検討することである。複数の将来シナリオを想定し、必要な対応を準備しておく。その姿勢を内外に明確に示すことが積極的な財政政策と財政の持続可能性を両立させる唯一の方法だ
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)