日本商工会議所は2月15日、「東日本大震災からの確実な復興・創生に向けた要望~地域の自立・自走に向けた継続的な支援を~」を第673回常議員会で決議し公表した。本要望書は「世界にアピールする東京2020大会に向けた復興への取り組み強化」「産業復興・なりわいの再生」「国の主導による福島の復興の早期かつ着実な推進」の3項目から構成され、被災地域の自立・自走に向けた取り組みに対して、継続的な支援を強く求めている。特集では、本要望書の全文を紹介する。(1面参照)
東日本大震災からの確実な復興・創生に向けた要望
日本商工会議所
東日本大震災から7年が経過しようとしており、「復興・創生期間」は残り3年となった。同期間の最終年度に当たる2020年の夏には、「復興五輪」としての東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という)が開催され、世界各国から多くの人々が集まる。そうした人たちを迎え入れるに当たり、われわれは、力強く復興した東北を見せたいと強く願う。被災地におけるインフラ整備は相当程度進んできたが、道路、鉄道、港湾など遅れの見られる社会基盤もあるので、今後2年余りのうちに完了させるとともに、原発事故の収束に向けた取り組みを加速させなければならない。なお、長期化が避けられない問題については、政府が責任を持ってその解決に向けた道筋を明らかにし、復興完遂のための組織の在り方や支援の方策を検討する必要がある。
時間の経過とともに、被災地の置かれている状況は異なってきている。地域資源を活用し自らの力で活路を切り開いている事業者や、観光をてこにまちづくりを進めている地域も各地で見られる。一方で、回復がままならない販路、農林水産業や観光に対する根強い風評、多業種にわたる人手不足など、全体としては依然厳しい経営環境に晒されているのが実情でもある。近時はサンマやサケ、イカなどの不漁による水産加工業の困窮も伝えられ、中期的には、建設業などにおける復興特需の縮小懸念もある。こうした山積する課題を克服し、事業者がさらに元気を取り戻すとともに、被災地が自立・再興を果たせるような事業環境を整えることが重要である。そのため、各地域・各事業者が置かれている状況の変化や復興のステージを的確に見極め、ニーズに即した対策の強化が求められる。
福島においては、今なお5万人を超える人々が地元を離れて生活しており、平成26年4月以降に避難指示が解除された地域の住民帰還率は25%程度にとどまっている。根強い風評、除染・汚染水処理問題の長期化、原子力損害賠償問題など、全面的な復興の出口はまだ見えにくい状況にある。被災地が真の復興を果たすには、事業の再建・発展に向け懸命に努力している事業者の経営を後押しするとともに、避難者が故郷に戻り安定した生活を送れるようにすることが不可欠である。地域経済循環の再生に向け、国主導により新たな産業基盤の構築を目指す福島イノベーション・コースト構想などの早期実現を図られたい。
発災10年の節目に開催される東京2020大会については、世界の人々に支援の感謝と復興をアピールできる絶好の機会となる。開会式などでの東北絆まつりパレードや、宮城県石巻市を出発し福島県の浜通りを含めた被災地域を縦断する聖火リレーなどを盛り込んで、「復興五輪」の象徴とすべきである。今夏にはJヴィレッジが再始動すると聞いている。スポーツを通じたまちのにぎわい創出事業は風評払しょくや被災地域の明るい未来につながるものであり、五輪のレガシーとしても積極的に推進すべきである。
こうした観点を踏まえ、このたび各地域の意見要望を以下の通り取りまとめたので、政府など関係者におかれては地域の自立・自走に向けた継続的な支援をお願いしたい。日本商工会議所としても、引き続き、全国515商工会議所のネットワークを生かし、関係者・地域の復興・創生に向けた支援に全力で取り組んでいく所存である。
Ⅰ.世界にアピールする東京2020大会に向けた復興への取り組み強化
1.五輪開催を目標時期とする各種インフラ整備の完了
(主な要望先:復興庁、国土交通省、内閣官房、東京オリパラ組織委員会)
東京2020大会には世界中の人々が日本を訪れる。
真に復興した姿を見て理解してもらうためには、同大会までに各種インフラ整備を完了することが求められる。
特に広域交通ネットワークの要である幹線道路、鉄道、港湾などは住民の暮らしや経済活動を支える上でも大切な社会基盤であり、防波・防潮堤などと併せて防災の観点からも極めて重要である。
⑴復興・復興支援道路の整備、常磐自動車道の早期4車線化を求める。
⑵JR常磐線・山田線などの早期全面開通をお願いしたい。
⑶港湾の機能拡充・整備を促進すべきである。
⑷東北各地の空港の路線拡大ならびに福島空港の国際線(ソウル線、上海線)の早期再開を図るべきである。
2.震災復興をアピールする場としての東京2020大会の積極的な活用
(主な要望先:復興庁、観光庁、国土交通省、農林水産省、文部科学省、内閣官房、東京オリパラ組織委員会)
オリンピック・パラリンピック競技大会は、近年では30億人以上が視聴する全世界的イベントである。震災の記憶の風化を防ぐとともに諸外国からの支援に対する感謝を示すため、復興を強く印象づける場となるよう東京2020大会を積極的に活用すべきである。
⑴東京2020大会の開会式などでの東北絆まつりパレードの披露を実現すべきである。
⑵聖火リレーについては、最大の被災都市である宮城県石巻市をスタート地とするとともに、福島県の浜通りを縦断するルートで実施されたい。
⑶選手村やレセプションなどにおける福島県内産品の積極的な活用ならびに被災地域自治体におけるホストタウン交流の促進を図られたい。
⑷東京2020大会を契機とする、スポーツ・健康増進に関するイベントやPRによるスポーツ人口拡大を通じたまちづくりを促進されたい。
3.観光振興など交流人口などの拡大に向けた支援
(主な要望先:復興庁、観光庁、国土交通省、文部科学省)
定住人口の減少に歯止めがかからない中で、地域の活性化を図るには、交流人口の拡大が不可欠である。被災地域への旅行需要(宿泊ベース)や修学旅行などは東北6県全体としては震災前の水準に戻っていない。全国的に急増している外国人旅行者についても、震災後の伸び率こそ6県全てで上昇傾向にあるが、全国の伸び率には及ばない状況が続いている。こうした観点からも、風評を根絶するよう政府による強力な周知をお願いしたい。併せて、新産業の創出や交流人口の拡大につながる国際リニアコライダー(ILC)の誘致を積極的に推進すべきである。
⑴外国人旅行者の誘客や訪日プロモーションなどを支援する「東北観光復興対策交付金」「東北観光復興プロモーション」「福島県における観光関連復興支援事業」の継続および十分な予算確保をお願いしたい。
⑵インバウンド拡大につながるMICE推進のための受入体制整備に対する支援を強化されたい。
⑶防災・震災学習プログラム、伝統産業体験ツアーなどを通じた教育旅行の誘致を図られたい。
Ⅱ.産業復興・なりわいの再生
1.被災事業者の販路回復・開拓に向けた支援の継続・強化
(主な要望先:復興庁、農林水産省、経済産業)
被災事業者の多くは事業再開を果たしたが、販路の回復や新規開拓は容易ではなく、依然として厳しい経営状況にある。自立的な事業経営のため、付加価値の高い商品開発などを後押しし、継続的に商談会を開催するほか、消費拡大に向けた強力な支援を講じるとともに、諸外国・地域における輸入規制の撤廃に向けた取り組みのさらなる強化を望む。
⑴水産庁の支援による東北復興水産加工品展示商談会や、東北経済産業局を中心とした三陸水産加工品の統一ブランド構築の取り組みを継続的に支援すべきである。
⑵各地商工会議所などが取り組む商品開発支援、販路開拓のために必要な専門人材(商社・百貨店などのバイヤー経験者など)の確保に対する助成を講じられたい。
⑶被災地における地域消費喚起事業(プレミアム付き商品券事業)の実施に向けた予算を措置されたい。
⑷農水産品に対する輸入規制の早期撤廃に向け諸外国・地域へ強力に働き掛けるべきである。
2.産業復興を加速するための人手不足対策
(主な要望先:復興庁、厚生労働省)
人口流出や復興関連事業の増加などにより、被災3県沿岸部の有効求人倍率が震災前と比べて3倍超に達するなど、人手不足により事業の維持・拡大が大変厳しい状況にある。このため、労働力の確保支援、生産性向上対策などを強力に推進していただきたい。併せて、外国人材のさらなる受け入れの推進策を講じるべきである。
⑴事業復興型雇用創出事業については、制度発足時に比べ人手不足が深刻化していることから、被災3県以外からの求職者の雇い入れや、助成金の既受給事業者も助成対象に加えるなど、制度見直しを図られたい。
⑵東北地方へのUIJターンならびに新卒者の地元就職の推進に対し支援をお願いしたい。
⑶クラウド会計、POSレジ、アウトソーシング・システムの導入・活用ならびに中小企業・小規模事業者に直接指導できるIoT・フィンテックの専門家派遣に対する支援を拡充されたい。
3.資金繰り支援の強化、産業復興の段階に即した支援制度の見直し
(主な要望先:復興庁、経済産業省、金融庁)
厳しい経営環境が続く中、事業再建に要した借入金の据置期間が終了し返済が開始される段階になっている。また、事業経営を取り巻く環境に変化が見られ、資金ニーズも変わってきている。こうしたことを踏まえ、被災事業者の資金繰り支援の継続ならびに復興の段階に応じた支援制度の見直しを図られたい。
⑴再建途上にあり二重債務を抱える被災事業者の借入金の返済負担軽減につながる対策を強化すべきである。
⑵水産施設における生産・衛生機能の高度化など、資金返済が厳しくなっている高度化資金の据置期間を延長すべきである。
⑶移転を余儀なくされた事業者が事業再開するために必要な費用について、移転補償費では賄えない分を補てんする補助制度を創設されたい。
⑷グループ補助金について、計画変更や施設・設備の転用などの処分に対する柔軟かつ弾力的な運用を求める。
Ⅲ.国の主導による福島の復興の早期かつ着実な推進
1.除染・汚染水処理の確実な実行と風評払しょく
(主な要望先:復興庁、経済産業省、環境省、文部科学省、農林水産省)
福島では根強い風評により、依然県産品の売り上げが縮小し観光需要も低迷するなど、事業経営に深刻な影響が及んでいる。
また、人口流出による過疎化が進む地域では、コミュニティー崩壊の危惧が現実化している。地域コミュニティーの再生にもつながる除染・汚染水処理や風評被害対策に向けた取り組みを、より迅速かつ確実に実行されたい。
⑴合理的な目標・計画に基づく除染を完全に実施し、さらには除染後においても放射線量が高い場所での追加除染を迅速かつ確実に実施すべきである。
⑵国の責任の下において、汚染水処理を早急かつ確実に実施すべきである。
⑶地域の合意を前提とした中間貯蔵施設の整備および汚染土壌などの安全かつ円滑な輸送体制の整備を進められたい。
⑷国内外における放射能と食品の安全性に関するリスクコミュニケーションの推進および福島県の状況ならびに同県産品に関する正しい情報発信を強化すべきである。
⑸福島県産食品に対する輸入規制の早期撤廃に向けた取り組みを強化されたい。
2.被害の実態を踏まえた原子力損害賠償の確実な実施
(主な要望先:復興庁、内閣府、経済産業省、文部科学省)
東京電力福島第一原子力発電所の事故に起因した営業損害をはじめとする原子力損害賠償については、被害を受けた事業者が、被災前と同等の事業活動を行える見通しが立つまでの間、個々の被害実態に見合った十分な賠償期間と金額を確保するとともに、きめ細かな対応を通じて、迅速かつ適切に損害賠償が実施されるよう措置されたい。
⑴同等の被害を受けている事業者間で賠償の対応に相違が生じることのないよう、相当因果関係の類型、判断根拠、東京電力の運用基準などに関する公表・周知、ならびに、個別訪問を通じた被害事業者に対する丁寧な説明をお願いしたい。
⑵相当因果関係の立証手法の簡便化に向けた指導をより一層強化されたい。
3.地域全体の産業振興に向けた支援
(主な要望先:復興庁、経済産業省)
福島県浜通り地域における、新たな産業集積の形成や既存企業の生産拡大に向け、企業立地・誘致や新規創業のさらなる促進のための措置を講じられたい。
⑴福島県原子力被災事業者事業再開等支援補助金の拡充ならびに補助期間の延長を図られたい。
⑵「ふくしま産業復興企業立地補助金」「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」の継続・拡充を求める。
⑶浜通りの産業・雇用の再生を目指す「福島イノベーション・コースト構想」ならびに県内全域が水素社会のモデル拠点となることを目指す「福島新エネ社会構想」を着実に推進すべきである。
⑷福島相双復興官民合同チームによる事業者への個別相談などの支援策を強化されたい。 (2月15日)
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