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第4回ICCアジア・大洋州 CEO フォーラム 三村会頭キーノートスピーチ

各国のリーダーを前に講演する三村会頭

アジア・大洋州地域のCEOや国際機関のリーダー、日本のビジネスリーダー、学術研究者が一同に会した国際会議「第4回ICCアジア・大洋州CEOフォーラム」(主催:国際商業会議所日本委員会)が9日、日本で初めて開催され、日本商工会議所の三村明夫会頭がキーノートスピーチ(基調講演)を行った。特集では、講演全文を紹介する。

(1面参照)

東日本大震災、熊本地震への援助に対するお礼

2011年の東日本大震災から約7年、2016年の熊本地震から約2年がたとうとしている今日、お集まりの世界各国の皆さまには、これまで、被災地への温かい励ましのメッセージや多大なる援助をいただきました。原発事故の処理やインフラの復旧など、まだ課題は残ってはおりますが、時間の経過とともに全体として復興は着実に前進しており、これもひとえに皆さまのご協力・ご支援のたまものと深く感謝しております。日本商工会議所としても、全国515の商工会議所のネットワークを生かして、被災地の復興支援に今後とも全力で取り組んでいく所存です。

日商の概要

さて、日本商工会議所は全国に515商工会議所を有し、その会員数は 日本の全企業数385万社のうち125万社、全企業の3分の1が会員という大組織です。広く全国を網羅し、会員の多くは地方の中小企業であることから、アベノミクスの効果を最も遅く享受する社会セグメントを代表する組織ともいえます。

ここで、簡単に日商の事業を紹介させていただきたいと思います。

(政策提言)

私共は、できるだけ各地の商工会議所や会員企業と直接対話する「現場主義」と、そこで拾い上げた課題の解決方法を考えて現場にフィードバックするといった「双方向主義」に基づき、例えば、消費税の税率賛成については約100回、TPPの推進は約70回、原発を含めバランスのとれたエネルギー政策の推進については約50回の地方も含めた議論を重ね、中小企業と地方の実態を踏まえた政策提言を積極的に行っています。多数の異なる意見の集約を図ることは困難な作業を伴い、大変な労力を必要としますが、それであるがゆえに、商工会議所の意見は重く受けとめられ、政策に反映されているものと思っております。

(地方創生・地域活性化)

さらに、地域総合経済団体である商工会議所は、商工業者だけでなく、地域住民の意見やニーズを十分にくみ上げ、関係機関などと協力しながら、活力あふれる地域社会創造への取り組みを支援しています。日本全体の人口が減少に向かう中で、東京圏に向かう人の流れに歯止めがかかっておらず、地方においては人手不足がより深刻な課題です。日本経済の成長を持続的なものとしていくためには、GDPの約7割を生み出している地方の活性化が欠かせません。我々は、農林水産業の成長産業化、農商工連携の推進、地域資源を活用した地域ブランドの育成・強化、観光振興などを通じて、地域の活性化を後押ししています。

(国際事業)

また、国内人口が減少する中、国際関連事業にも力を入れています。セミナーや説明会を通じた海外経済・市場情報の提供、経済ミッションの派遣・受け入れ、二国間・多国間経済委員会の運営、海外企業との交流会開催やビジネスマッチングなどを通じて、会員企業の国際事業や海外展開を支援しています。

(検定試験)

このほか、ビジネスの現場で要求される知識やスキルの提供、人材の育成を目的に、各種の検定試験を実施しております。学校教育の試験とは異なり、社会人として通用する実践力を問う内容となっていることが特長で、多くの企業から高い評価と信頼を得ています。中でも「日商簿記検定」は、年間76万人が受験しており、全国的に幅広く支持をいただいております。

世界経済「不安の中での繁栄」

さて、世界は今、アメリカ・イギリスの政治不安、地政学上の不安、足元の株価や為替の乱高下といった金融市場のボラティリティなどの不安要因がある中で、経済のファンダメンタルズは良いという「不安の中での繁栄」ともいえる、極めてあいまいな状況の中にあります。IMFによれば、さまざまな不安要素は解消されない中で、2018年も世界の経済成長率は昨年の3・7%から3・9%へとさらに伸びると予想されています。我々は、不安を認識しつつも、ニューノーマルとして冷静に受け止めるべきと思います。

不安その1は、北朝鮮・中東などにおける地政学的不安です。ひとたび事件が発生すれば、その影響は破壊的なものになる故、人々の叡智(えいち)により、その発生を未然に防ぐことを期待するのみです。

不安その2は、反グローバリズムの動きです。日本は、グローバリズムの恩恵を最大限に活用する以外、国を発展させる道はありません。しかしながら、昨年はアメリカファースト、イギリスファーストという反グローバリズムの運動が勢いを増し、反EUの動きはドイツやオーストリアなどでも勢力を伸ばしました。これらの自国ファーストの動きが、グローバリズムという貴重な世界の共通財産にどのような影響を及ぼすのか、またそもそも世界がノーマルな状態に復帰するのか、見通しがつかないという不安があります。日本は、グローバリズムの推進役として、同じ考えを持つ国と共同して、指導的な役割を果たしていくべきです。まさに昨日、チリにおいて署名がなされましたがTPP11の調印、日EUの経済連携協定の妥結は、反グローバリズムに対抗する極めて大きな動きであり、その成立に日本が歴史上初めて主導的な役割を果たしました。

特に本年注視すべきなのは、米国政治の行方です。米国では11月に中間選挙が控え、支持率を意識して、トランプ政権が通商政策で各国に対してより強硬姿勢を示しつつあります。現に、鉄鋼やアルミの輸入制限に関する具体的な提言が明らかになり、世界を大きな混乱に陥れましたし、NAFTA再交渉を巡っては、カナダ・メキシコと米国の間で緊張が高まっており、期限内の妥結が不透明な状況となっています。世界経済と調和のとれたアメリカファースト政策に早期に復帰することを強く願います。

一方、1月のダボス会議では、トランプ大統領から「TPPへの復帰検討」を示唆する発言がありました。米国のTPPへの復帰は大歓迎ですが、日本としては、あくまでTPPをマルチでハイレベルな経済協定として維持する、というスタンスで対応していくべきだと考えます。

不安その3は、中国の台頭、それに伴う期待と不安です。中国は、国内マーケットの急速な伸びおよび輸出の両面で、既に世界経済に大きな影響を与えており、習近平主席は「新時代の特色ある社会主義国家としてさらに発展する」と、中国の強国化を明確に宣言しました。この宣言は期待と不安を我々に抱かせます。

期待の面では、中国も経済のグローバル化が必要であり、昨年のダボス会議において、習主席によるグローバル化の本質を突くスピーチがありました。曰く「甘い瓜もヘタは苦く、美しいバラにはトゲがある。グローバル化について、優れた点があるからと言って完全無欠と見ることは包括的ではなく、欠点があるからと言って少しも良いところがないと見ることも包括的ではない。経済のグローバル化は、確かに新たな問題をもたらしたが、だからと言ってこん棒で叩き潰すものではなく、適応し、導き、マイナスの影響を解決し、恩恵を各国、各民族にもたらさなければならない」。

大事なのは言葉ではなく行動ですが、現状、世界にはさまざまな考え方が錯綜(さくそう)している中で、中国にはぜひとも、「グローバル化はさまざまな課題を抱えながらも、トータルとしては世界を発展させる」との考え方で行動してもらいたいと思います。その際に、中国自身が自国ファースト政策を取ることは当然としても、グローバル化で世界経済に開放を求めることは、同時に自国経済を世界に開放することでもあるということ。さらに、自国の余剰能力解消政策のように、世界経済全体に対する影響を十分に考えた自国ファースト政策を取ってもらいたいと思います。

私は、昨年11月に日本経済界の合同訪中団として中国を訪問した際に、李国強(リ・ケジャン)首相に対して、今申し上げたことと同じ話をいたしました。李首相の返答は、「中国にとってグローバル化はただのスローガンではなく、守るべき理念である」というものでした。

このように中国の世界経済に与える影響が格段に大きくなったが故に、ぜひとも世界経済との調和を考えた国内政策を推進するよう日本も各国と共同して粘り強く働き掛ける必要があります。鉄鋼過剰生産能力に関する33カ国・地域閣僚会合は、各国の結束が中国を動かした実例です。

一方、不安は、今後、「新時代の特色ある社会主義経済」という、市場経済とは異なった体制を堅持する中国が、アメリカの自国ファースト姿勢を尻目に、国際社会に占める地位を強化していく中で、国際経済とどう折り合いをつけて国を運営していくのか、という不安です。

いかなる国にとっても、このように自信と影響力を深める中国と付き合わないという選択肢はありません。多くの発展途上国が市場経済方式でない中国方式の発展形態を採用する可能性もあり、大げさに考えれば、「資本主義」と「中国式の社会主義」の新しい競争が開始されたと見えなくもありませんが、市場主義経済と異なる中国経済の台頭を、敵対するものではなく、緊張感のある好ましい対立軸として、市場主義経済の欠陥の是正を迫るものとして受け取るべきだと思います。その上で、資本主義・民主主義が結局はより優れたシステムであることを、何とか実証したいものです。

日本経済の現状と日商が取り組むべき課題

さて、このような不安を抱える中、日本国内では、財政赤字という大きな課題はあるものの、企業収益や雇用の改善という形で経済の好循環が生まれつつあり、この好循環を力強く回転させていくことが課題となっています。

現在、日商では日本政府に向けて、「レベルの高い経済連携協定の締結による自由貿易の推進」「社会保障制度の抜本的改革などによる財政の健全化」「バランスのとれたエネルギー政策の実現」「規制・制度改革の断行」「生産性向上などのサプライサイド改革」などに対して、現在の安定した政権基盤をてこに強い意志を持って取り組んでもらいたいと訴えています。とりわけ、貿易・投資の自由化推進は、日本経済はもとより、世界経済の持続的成長のためにも不可欠です。

日商が取り組むべき課題も山積しておりますが、私といたしましては、「中小企業の課題解決が日本経済の成長に直結するものである」との信念のもと、以下のような課題に重点をおいて取り組んでいきたいと考えております。

①人手不足

1点目は、「人手不足の克服」です。深刻化する人手不足は、特に中小企業で顕著であり、およそ6割の中小企業が人手不足のためこれ以上業容を拡大することができないと訴えています。人口動態予測においても、日本の生産年齢人口は今後10年間で約560万人減少する見通しであり、人手不足は、今年より来年、来年より再来年と、この先もますます深刻化することが確実です。

わが国における人手不足解消のためには、女性、高齢者、外国人などの多様な人材の活用が求められます。これまでの政府の施策などにより、日本の女性の就業参加率は、米国を超え25~44歳で72・7%にまで向上し、いわゆるM字カーブはほぼ解消しました。しかし、働きたくても子供を預けられる保育所が足りないという待機児童問題は解消されておらず、女性の労働市場への参画を一層促進するためには、保育の受け皿の拡充など、さらなる対策を途切れなく実施することが重要です。また、女性や高齢者の活用にも限りはありますので、外国人材のさらなる活用についても、移民とは一線を画した、時代に応じた抜本的な見直しを訴えていく所存です。

また、人口減少社会にあって、国を発展させる最重要の対策は、生産性の向上です。人手不足が深刻になることは、個別企業を生き残りをかけた生産性向上競争に駆り立てます。このように、官民共に生産性向上には切実なニーズがあり、一方、第4次産業革命、ソサエティ5・0という、生産性向上のための新しいシーズも生まれています。新しい技術は、実装され、問題点が明らかにされ、さらに磨かれて発展していくもので、日本には、そのための最適な環境があり、逆に大きなチャンスを迎えています。今こそ、大中小規模にかかわらず、経営者の積極的な対応が強く求められます。

とりわけ中小企業では、専門人材不足やコストなどの理由でICT投資が進んでいません。このたび政府が策定した新しい経済政策パッケージにおいても、中小企業における生産性向上のための設備投資支援やIT導入支援の施策が織り込まれました。日本商工会議所としても、これらの制度をフルに活用するとともに、経営者自身の気付きを促し、安価で簡単に導入可能な「身の丈IoT」の普及などの支援事業の積極的な実施に取り組んで参ります。

②事業承継

2点目は、「事業承継」への取り組みです。日本経済全体の成長のためは、新しい事業を創出することと同様に、価値ある事業を日本に残し、しっかりと次世代に引き継いでいくことも重要です。

日本には100年以上の長寿企業が約5万社存在します。200年以上の企業は、全世界で7200社程度あるといわれていますが、その43%を占める3113社が日本にあり、これは世界1位です。これらの200年企業は、明治維新、第一次世界大戦、第二次世界大戦、戦後の復興期と大きな景気変動につながる時代を生き延びてきました。このような企業が3113社もあるということ自体、感動と驚きをもって受け止められます。長寿企業に共通する特徴は、変化に対する対応力です。このように日本はまぎれもなく長寿企業大国なのです。

しかし当たり前ですが、企業は後継者がいなければ存続できません。私が問題視しているのは廃業してしまった企業のうち、黒字であるにもかかわらず後継者が見つからないために廃業せざるを得なかった企業が全体の約5割を占めるということで、これは実にもったいないことです。

こうした課題認識も踏まえ、この度の税制改正においては、商工会議所の要望が多く盛り込まれた形で、事業承継税制が抜本的に拡充されました。商工会議所としては、少子高齢化の中で後継者不足に悩む企業が増えている中、事業承継税制などの国の施策もフル活用し、中小企業の円滑な事業承継を後押ししていきたいと考えています。

結び

このように企業・地域・国全体の発展を促進するためにも、日商としましては、これまで以上に、世界各地の商工会議所の皆さまと緊密な関係を構築し、相乗効果を生み出していければと存じます。グローバル化が進む世界において、我々各国の商工会議所が常に連携しながら、企業をサポートしていくことが重要です。お互いの国々の発展、企業の活力向上、課題克服に寄与していけるよう、全世界の商工会議所のネットワーク・情報網を積極的に生かしていきたいと思います。皆さまにおかれましては、ぜひとも、温かくご支援・ご協力をいただけますと大変幸いです。

最後になりますが、日本では、今後数年間で大きな国際イベントが予定されています。2019年にはG20やラグビーワールドカップ、2020年には東京オリンピック・パラリンピックゲームが開催されます。皆さまにおかれましては、ぜひまた日本にお越しくださいますようお願いいたします。

また、2025年の万国博覧会に向けては、日本の大阪・関西が開催地に立候補しております。本年11月のBIE総会における投票で決定予定ですので、ぜひとも皆さまの国からの温かいサポートをお願いいたします。 今回の皆さまの来日が実り多いものとなることを祈念しまして、私からのごあいさつとさせていただきます。