経済産業省はこのほど、平成31年度予算の経済産業省関係の概算要求を取りまとめ、公表した。概算要求における中小企業対策費は1318億円。平成30年度当初予算比18・7%増となっている。内容を見ると「事業承継」「生産性向上」「地域の稼ぐ力の強化」という三つに重点が置かれた。また、来年10月の消費税率引き上げ対策として負担軽減策も盛り込むことが示された。31年度の中小企業関係の概算要求のポイントは、次のとおり。
平成31年度中小企業・小規模事業者政策の重点
〇中小企業・小規模事業者は、「経営者の高齢化」「人手不足」「人口減少」という三つの構造変化に直面。これらの構造変化に対応するため、「1.事業承継・再編・統合などによる新陳代謝の促進」「2.生産性向上・働き方改革・人手不足対策」「3.地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大」に重点的に取り組む。
〇また、非常に大きな災害が頻発している状況を踏まえ、「4.災害からの復旧・復興、強靱化」にもより一層取り組んでいく。
〇加えて、消費税率引き上げ(2019年10月)や長時間労働規制(2020年4月)、同一労働・同一賃金(2021年4月)の中小企業への適用も見据え、「5.経営の下支え、事業環境の整備」に引き続き粘り強く取り組む。
重点項目1 事業承継・再編・統合などによる新陳代謝の促進【31要求127億円(30当初69億円)】
〇30年度の「法人」向け事業承継税制の抜本拡充に続き、「個人事業者」の事業承継を促すため、事業に用いる資産(土地、建物、機械など)の承継を円滑化するための税制措置(個人版事業承継税制)を創設。
〇事業引継ぎ支援センターの事業引継ぎデータベースにおける登録企業数を抜本的に拡充することで、中小企業のM&Aを含めた事業承継支援を強化。併せて、事業承継ネットワークにおけるプッシュ型支援や同センターにおける体制を強化。
⑴事業承継・世代交代集中支援事業【45億円(新規)】
①プッシュ型事業承継支援高度化事業
平成29年度から開始した事業承継ネットワーク構築事業の全国展開がほぼ図られたため、今後は各県に設置された承継コーディネーターやブロックコーディネーターなどが、プッシュ型の事業承継診断で掘り起こされたニーズに対して、事業承継計画の策定や課題解決のための専門家派遣などのきめ細かな支援を行うことにより、円滑な事業承継を推進する。
また、事業承継診断など支援データなどを活用し、各県内の事業承継の支援戦略を策定することにより、成長性の高い事業者や地域などを支援する。さらに、これまでの全国一律の支援ではなく、業種や業界、地域の特性などに応じて事業承継の先進的な取り組みに対して積極的に支援を行う。
②事業承継補助金
事業承継・世代交代を契機として、経営革新や事業転換に挑戦する中小企業者に対し、設備投資・販路拡大・既存事業の廃業などに必要な経費を支援する。
・承継に当たって、後継者が行う生産性の大幅な向上への取り組みを支援する。
・後継者不在事業者が有するサプライチェーンや地域に根付いた価値ある事業を、M&Aをはじめとした事業再編・統合策により引き継いだ上でさらなる成長を図る事業者の取り組みを支援する。
⑵中小企業再生支援・事業引継ぎ支援事業【77億円(69億円)】
・後継者問題を抱える中小企業
・小規模事業者の事業承継円滑化を図るために、事業承継に関する適切な助言、マッチング支援などをワンストップで行う。また、創業希望者と後継者不在事業主などとのマッチングも行う。
・中小企業再生支援協議会において、財務上の問題を抱える事業者の事業再生に向けた支援および円滑な債務整理に向けた支援を行う。
⑶地域創業機運醸成事業【5億円(新規)】
・創業希望者に対する創業支援、創業無関心者に対する創業普及啓発(創業機運醸成)、潜在的創業者の掘り起こしや起業家教育などを行う。
重点項目2 生産性向上・働き方改革・人手不足対策【31要求481億円(30当初319億円)】
⑴ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業【100億円(新規)】
①企業間データ活用型(補助上限額2000万円/者※、補助率3分の2) 複数の中小企業・小規模事業者などが、事業者間でデータ・情報を共有し、連携体全体として新たな付加価値の創造や生産性の向上を図るプロジェクトを支援する。
<例>データなどを共有・活用して、受発注、生産管理などを行って連携体が共同して新たな製品を製造したり、地域を越えた柔軟な供給網の確立などにより、連携体が共同して新たなサービス提供を行う取り組みなど。 ※連携体は10者まで。さらに200万円×連携体参加数を上限額に連携体内で配分可能
②試作開発型(補助上限額1000万円、補助率小規模事業者3分の2、その他2分の1) 中小企業・小規模事業者などが行う試作品開発を支援する。(設備投資を伴わない試作開発なども支援)
⑵地方公共団体による小規模事業者支援推進事業(自治体連携型持続化補助金)【10億円(新規)】
・地方公共団体が商工会・商工会議所などを活用しながら、小規模事業者などに対して経営計画を作成する取り組みや、その経営計画に基づき販路開拓に取り組む費用を支援する。
<地方公共団体による小規模事業者支援(例)>
・経営計画を作成する小規模事業者の新たな取り組みに要する経費を補助(補助上限万円、補助率3分の2)
・商工会などの助言を受けて行うチラシ・DMなどの販売促進ツール費を補助(補助上限25万円、補助率2分の1)
・クラウドファンディングで資金を調達しようとする小規模事業者を支援。事業計画、PR方法を助言する専門家を無料派遣。
⑶経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業【61億円の内数(32億円の内数)】
・デジタルガバメント実現のため、法人共通認証基盤との連携やデータ連携の技術基盤の整備とともに、中小企業向け行政サービスのデジタル化(補助金申請などのワンスオンリー化、プッシュ型情報発信)などの環境を整備する。
⑷中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業【62億円(50億円)】
・「よろず支援拠点」を活用し、中小企業が抱える経営課題に対応するワンストップ相談対応を行う。併せて、高度な課題に対応する専門家の派遣や、「経営者保証に関するガイドライン」などの周知・普及を行う。
⑸中小企業・小規模事業者人材対策事業【22億円(19億円)】
・中小企業の人材の発掘・確保・定着を支援するとともに、経営支援機関と人材紹介会社などとの連携事業や中核人材確保の仕組みの横展開に取り組む。また、中小企業の海外展開を担う人材や、生産性向上を支援する人材の育成を支援する。
⑹小規模事業対策推進事業【53億円(49億円)】<後掲>
⑺地域小規模事業者支援人材育成事業【7億円(新規)】<後掲>
⑻地域未来投資促進事業【167億円(162億円)】<後掲>
重点項目3 地域の稼ぐ力の強化・インバウンドの拡大【31要求338億円(30当初251億円)】
⑴未来投資促進事業【167億円(162億円)】
・中小企業が地域中核企業などと連携して行う活動を、新たな技術
・サービスモデルの開発から市場獲得まで一体的に支援する。
⑵地域まちなか活性化・魅力創出支援事業【14億円(新規)】
①商店街魅力創出支援事業
・商店街組織などが取り組む、地域への波及効果の高い、空き店舗対策や起業支援など、当該エリアの活性化・魅力創出に資する取り組みを支援する。
・また、全国的なモデルとなるような先鋭的なプロジェクトを支援する。
・商店街活性化の取り組みについて、市場環境や取り組みの成功要因などを調査し、良い事例が全国に波及し活用されるよう広く展開する。
②中心市街地活性化支援事業
中心市街地における商業・サービス業などの事業・起業環境などの整備や地域文化資源と連携した空間創出を図る。また、その事例を広く全国に展開する。
・中心市街地活性化法に基づく、地域への波及効果の高い複合商業施設整備や、まちづくり会社などによる空き店舗対策・起業支援などと一体的に取り組まれる施設整備など、中心市街地の活性化・魅力創出に資する先導的な民間プロジェクトを支援する。
・プロジェクト推進などに資する専門人材の活用や事業計画の策定などのための調査、まちづくり会社などが行う顧客の増加・経営の効率化のための取り組みを支援する。
⑶国内・海外販路開拓強化支援事業【27億円(新規)】
①地域産業資源活用・農商工等連携事業
・地域産業資源活用促進法および農商工等連携促進法に基づく事業計画の認定を受けた中小企業などが行う新商品・新サービスの開発・販路開拓に係る費用の一部を支援する。(原則として、補助率2分の1、補助上限500万円)
・民間事業者などのノウハウを活用した、複数の中小企業者のマッチングやそれによる新事業展開の掘り起こし、商品改良などサポート、展示会・商談会の出展機会の提供などを通じて、新商品開発、販路開拓などの取り組みを支援する。
②JAPANブランド育成支援事業
・地域産品が持つ素材や技術などの強みを生かした海外展開戦略の策定を支援する(補助上限200万円、定額補助)。また、海外販路開拓に向けたブランド確立のため、新商品開発や海外展示会出展などのプロジェクトを支援する(補助上限2000万円、補助率3分の2、2分の1)。
・また、事業成果を地域中小企業に対して広く発信するとともに、市場とのさらなる連携強化などを推進する。
③現地進出支援強化事業
・海外展示会や商談会などを通じた販路拡大機会の提供、商談後のフォローアップ、現地進出後の事業安定・拡大支援(プラットフォーム事業)など、段階に応じた支援を提供し、海外進出、また発展させるまでを一貫して支援する。
・中小企業が多く進出している国の税制などについて、セミナーの開催、各国税制や税務に係る留意事項などを記載したパンフレットの配布などにより、海外展開を行う中小企業の税務に係る態勢整備を支援する。
④IT活用型販路開拓支援強化事業
・ビジネスマッチングサイトを活用した中小企業者などの新事業展開および海外現地調査などによる海外展開支援を実施する(補助上限万、補助率2分の1)。
・ECを活用し、訪日外国人をターゲットとした、地域資源を活用した新商品などの販路開拓の支援強化を実施する。
・新商品・サービスの開発・販路開拓事業や、海外販路開拓に向けたブランド確立事業、民間事業者などのノウハウを活用したマッチング・海外展示会などを通じた販路開拓などの支援を行う。
⑷地域小規模事業者支援人材育成事業【7億円(新規)】
①小規模事業者支援人材育成事業
(ⅰ)小規模事業者支援手法研修
・商工会・商工会議所や地方公共団体を対象とした小規模事業者の支援手法を教授する研修を全国で実施する。
・小規模企業振興基本計画の改定に併せ、成長企業の支援、サプライチェーンの維持など、新たな政策課題に重点化して支援できる体制を構築する。
(ⅱ)ローカルデザイナー育成事業
・商工会・商工会議所やDMOなどと連携し、地域の未来の姿をデザインし、地域に眠る資源をビジネスへと昇華させていくローカルデザイナーを育成していくため、企画から試行までを一体となって経験できるワークショップなどを開催する。
(ⅲ)タウンマネージャー等育成事業
・小規模事業者などの経済活動の基盤であるまちを活性化するため、まちづくりの専門知識などを習得する研修の開催や表彰などを実施し、まちづくりを推進するタウンマネージャーなどを確保・育成する。
・また、兼業・副業・プロボノなどにより多様な人材が、まちの課題解決などに取り組むため、地域へのインターンシップやマッチングなどを行う。
・小規模事業者の持続的発展、地域の課題解決、地域資源を活用した観光・インバウンド需要への対応、まちづくりなどを一体的に取り組めるよう、支援人材の育成や支援ノウハウの向上を進める。また、新たな展示会開催手法の実証調査も支援する。
②新たな展示会開催手法の実証調査
・郊外、小規模施設、野外など、新たな形で地域の需要拡大のための展示会を企画・開催できるよう、実証調査を実施する。
・実証調査では、類型ごとの開催ノウハウ、留意事項などを把握するとともに、集客効果を分析する。
⑸経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業【61億円の内数(32億円の内数)】<再掲>
⑹小規模事業対策推進事業【53億円(49億円)】<後掲>
⑺地方公共団体による小規模事業者支援推進事業(自治体連携型持続化補助金)【10億円(新規)】
重点項目4 災害からの復旧・復興、強靱化
①中小企業等強靱化対策【10億円(新規)】
・BCPの取り組み事例や早期復旧事例などを広く紹介するとともに、そうした取り組みを横展開することによって、中小企業の防災意識の啓発、強靭化に向けた取り組みの促進を図る。
②東日本大震災への対応(グループ補助金、資金繰り支援など)【復興特会】
③熊本地震への対応(グループ補助金資金繰り支援など)【29補正】
④平成30年7月豪雨への対応【30予備費】・中小企業等「グループ補助金」【401億円】
・商店街災害復旧等事業【20億円】・小規模事業者「持続化補助金」【54億円】・中小企業寄り添い型支援事業【3億円】
重点項目5 経営の下支え、事業環境の整備
・中小企業連携組織対策推進事業【7億円(7億円)】
・政策金融・信用保証による資金繰り支援【228億円(227億円)】
・小規模事業対策推進事業【53億円(49億円)】
・小規模事業者経営改善資金融資事業【43億円(43億円)】
・中小企業取引対策事業【12億円(14億円)】
・消費税転嫁状況監視・検査体制強化等事業【32億円(27億円)】
・消費税軽減税率対応窓口相談等事業【19億円(19億円)】
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