歌舞伎の坂東玉三郎さんが、「所作はつながっている」とおっしゃっています。どこからどこまでつながっているのか、この言葉の真意を考えていると実にたくさん思い当たることがありました。
例えば、普段は優しく温厚な経営者が、あるとき珍しく社員を怒鳴りとばしたとします。最初は多少気まずくても3日もすると経営者は、そのことを忘れてしまいます。しかし、怒られた人には心の傷として残っているものです。そして数年後のあるときに、社員同士の会話の中で、誰かが「いやぁ、社長は本当に気を使ってくれて有難いよね」と言ったとき、その彼は腹にたまっていたことを言います。「そんなことないよ、俺は〇年前に社長のホンネを見ているからなー、君は知らないだけだよ……」
アリの一穴の例えのようですが、一つの行動は数年後に影響を及ぼす場合があるのです。
将棋で勝つには一手打ったら相手がどう返して来るのかを、何手先までも読めないといけないと聞きますが、可能な手の中で最も良い手を打つことを〝最善手〟と呼ぶそうです。「所作はつながっている」、この言葉は、常に先を読んで最善手を打つ心掛けが肝要、ということを言っているのだと私は解釈しました。
故・舩井幸雄氏は「マクロ善、ミクロ善」という言葉を残しています。これは将来および大局のための行動が大前提の上で、周囲や自分のことを考えないといけない。先々に良い影響を残すことを考えながら今の行動を考えるという意味です。しかし、「所作はつながっている」ということを考えると、できればミクロ善も常に意識しないといけないのではないかという気がしてきます。
話を元に戻しますが、では部下を叱るときは、どうすればいいのでしょうか。私の場合は思いきり叱っています。しかしその後、3日の間に、その相手と飯を食うなどの機会をもって、心へのケアも怠りません。機嫌を取るのではなく、叱った真意を気付かせるためには、背景に何らかの愛情が必要なのです。最近の人は叱られ慣れていないので、ちょっとした注意をキツイ言葉に感じるものです。過保護に育てられた若者を戦力として育て上げないといけない私たちにとって、社員の精神状態は営業成績と同様に注意を払うべき事項なのです。
連続的につながる行動や意識には必ず因果関係があります。その細かい因果が社員とあなたの関係をつくっていく。人間関係で培われた組織の結束は、お金で雇われただけの人の集まりとは全く異なる力を持っています。あなたの所作全てが良い会社づくりにつながっているのです。
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