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まちの視点 ポスターが深める絆

参加店のポスターを貼った掲示板を運ぶ商店主たち

情報のあるところに人は集い、そこににぎわいや経済の交流が生まれることは世の習い。そして、ソーシャルメディア全盛の今日、小さく狭くとも、濃くて深い情報を人は求めている。

兵庫県伊丹市の西台地区は、阪急伊丹駅の西側に位置する市の中心市街地だった。しかし、阪神淡路大震災で被災し、まちの玄関口である阪急伊丹駅が全壊。その後、JR伊丹駅前に大型商業施設が開業し、阪急伊丹駅の乗降客数は激減した。震災から20年、そうした環境下でも店を継ぎ、または店を興して商売を続けてきた若手商店主たちが今回の主人公である。

若手商店主がゼロから準備

「まちを活気づけたいと思っても一人の力では限界があります。模索しながらも、みんな何かのきっかけが欲しかったのです」と語るのは、伊丹西台商店会会長であり、中華料理店「開華亭」を営む甲斐智也さんだ。

きっかけとなったのは、商店街ポスター展だった。電通関西支社のコピーライター・日下慶太さんが若手クリエイターの育成の場として商店街の店の特徴や商店主たちの個性を取材し、それを一枚のポスターに表現して、商店街に掲示する取り組みだ。すでに大阪の新世界市場、文の里商店街で開催され、ユニークな取り組みとしてマスコミに取り上げられ大反響を呼んでいた。

事が動いたのは、同じく何かをやりたいと考えていた若手商店主の築山和展さん(喫茶店「カフェ・モン」経営)が日下さんの講演を聞いたことだった。その考えに共感し、甲斐さんと共に日下さんと面会してポスター展を依頼。「長年、西台をなんとかしたいと言い続けてきた甲斐さんの熱意が日下さんを動かした」と、築山さんは振り返る。

こうして地元の若手商店主が立ち上がり、ポスター展に向けて動き始めた。とはいうものの、これまで商店主同士にほとんど交流はなく、当時は商店会もない、資金もない。助成金の申請書作成、商店会の名簿と規約づくりからのスタートだった。参加店集めも順調ではなかった。特にポスター展を知らない年配者には理解されにくかった。門前払いされることもあったが、何度も通ううちに心を開いてくれた店もあったという。声を掛けた55軒のうち36軒が参加し、ポスターづくりが始まった。

イベント成功が将来への自信に

ポスター展は集客増とまちの活性化が目的だが、商店主が自店を見つめ直し、主体的に行動するきっかけでもある。そのため、伊丹西台では、ポスター展と同時に新たな試みにもチャレンジした。

その一つが「面白いサービス」と「お得なサービス」だ。割引などのクーポン付きマップを作成。スタンプラリーで賞品が当たるほか、来店客が楽しめるユニークなサービスを提供した。

反響は予想以上に大きかったが、何よりも大きな成果は、商店主同士に生まれた絆とやる気、将来への自信だ。開催にこぎ着けるまでの紆余曲折とプレッシャーを乗り越えたことで、「力を合わせて一つになれば、すごい力が発揮できると分かりました」(築山さん)、「仲間としての団結がより強くなりました」(甲斐さん)と口をそろえる。

さらに、商店主からさまざまなアイデアや意見が上がるようになった。1月には震災20年復興イベントとして「西台復活祭」を開催。今後も地域密着で住民と共につくるイベントを続ける考えだ。

「ポスター展で認められたことで商店主の意識も変わりました。子どもたちの世代には楽しいまちにしておきたい。だから、これからの20年、30年はもっと面白くなりそう」(甲斐さん)

そう目を輝かす彼らの表情こそが何よりポスター展の成功を物語っていた。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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