事例2 男女の壁をなくし適材適所で活用「自然体経営」で業績を伸ばす
コーナン建設(大阪府大阪市)
〝男社会〟の代名詞。そんなイメージの強い建設業界において、コーナン建設は技術職や営業職などで女性を積極的に活用している。当初は不安もあったというが、女性社員を活用したことで、現場の男性社員や顧客にも大きな変化が起きたという。男女問わず適性とやる気に応じて仕事を任せる「自然体経営」とは。
建設業界でも能力に性差はほとんどない
全社員251人中、女性社員は35人。女性の割合は決して高くないが、その中には一級建築士や宅地建物取引士、社会保険労務士などの国家資格を持つ者が14人、主任以上の役職に就く者は11人に上る。
大阪市に本社を置くコーナン建設が、女性を積極的に活用し始めたのは、昭和61年の男女雇用機会均等法施行がきっかけだ。それ以前も採用はしていたが、男性社員が行う業務の補助要員という位置付けだった。しかし、バブル景気で仕事が忙しくなったことや、優秀でやる気のある志望者が増えたことを受け、初めて設計職で女性を採用したのを皮切りに、本格的に採用の門戸を広げた。
「本来男性が担ってきた職種に女性を雇うことに対し、社内では戸惑う人も少なくありませんでした。しかし、ふたを開ければ能力的な男女差はほとんどなく、むしろセンスや細やかな対応がお客さまにも好評だったので、バブル後も女性の積極採用を継続したのです」と同社社長の原眞一さんは振り返る。
そこで同社は女性が継続的に働きやすいように、平成4年に育児休業制度と短時間勤務制度を導入する。仕事と子育てを両立する支援策を制度化し、会議などで社員一同に周知を徹底するなど、職場環境整備を進めていった。
社員の自己申告制度で希望職種に配置転換
また同社では、本人の適性ややる気を仕事に生かせるように、15年ほど前から自己申告制度を実施している。仕事へのやりがいはどうか、配属された職種が向いているかどうか、配置転換を望むかなどを用紙に記入して、直属の上司と面談し人事部に提出、適材適所の参考にするものだ。
「一度配属されたら、『この仕事は合わない』『別の部署に移りたい』とは言い出しにくいものです。しかし、仕事が合うかどうかは重要で、やる気にも大きく影響するので、早めに社員の意向を把握するように努めています」
実際、その制度を利用して配置転換をし、能力を発揮している社員がいる。例えば、東京支社で採用されたある女性は、「事務作業は自分に合わない」と営業職を志願した。すると持ち前のバイタリティーに加え、女性特有の物腰の柔らかさや気遣いから客の信頼を得て成果を上げ、今では横浜支店長を任されている。また、バブル期に一般職で入社したある女性は、幅広く仕事をしたいと総合職に転換し、その後、社会保険労務士の資格を取得。現在では執行役員人事部長を務めている。ほかにも、入社後に自らの意志で宅地建物取引士や一級・二級建築士、建築積算士などの国家資格を取得して、営業、設計、工務・見積など、専門性を生かせる仕事に就いた女性も多い。そうした実績を踏まえ、今年度も施工管理者として女性を採用した。現場での評判もよく、来年度も一人入社することが決まっている。
人材を育て定着率を上げる環境づくり
「建設業というのは、じっくり腰を据えて取り組み、数年後にようやく形になってくるような仕事です。だから若い社員には『3年は我慢しろ』と言っていたんですが、今の若い人はどうしても結論を急ぐ傾向があります。本人は努力したつもりでも思うように結果が出なかったり、挫折してしまう者もいました」
建設業に限らず、人材を育てることの難しさはどこも同じだが、原さんは人材育成の方針を転換する。「当社では、1年ずつ目標を立て、小さな成果を積み上げることで3年目につなげていくように指導しています」
個人のやる気を引き出し、維持できるようにするには、社内のコミュニケーションが円滑であることが望ましい。それに一役買っているのが、同社が約40年前から実施している誕生会だ。誕生月の社員が一堂に会し、社長を交えて行うのだが、役職、職種、年齢を超えた交流の場となっている。その際の社員の様子や声が、今後の仕事の進め方や人の配置を検討する手掛かりとなることもあるという。
また、社員の定着率を上げるために、福利厚生にも社員の意見を積極的に取り入れている。例えば、社員旅行やスポーツ大会を開催する代わりに、社員はもちろん、その家族や両親も自由に利用できる福利厚生倶楽部と契約するというように、時代に合わせて充実を図っている。
同社の取り組みは社内外で認められ、平成24年に「大阪市女性きらめき企業賞」を受賞した。採用面においても企業のイメージアップにつながり、働きやすい職場として男女ともに入社志望者が増加している。
「当社の人材活用を一言で言えば〝自然体〟です。男女を問わずチャレンジする機会を与え、期待に応えた人を評価してきたというだけです。今後の課題は、女性社員がいかにキャリアを積み重ねていくか。例えば、育休でブランクができてしまった者や結婚や出産を機に一度リタイアした者が職場に戻ってリスタートし、キャリアを積んでいけるような環境をさらに整備したいですね」
フラットで風通しのいい企業風土の下、社員が生き生きと働く様子が目に浮かぶようだ。
会社データ
社名:コーナン建設株式会社
所在地:大阪府大阪市北区大淀南1-9-10
電話:06-6456-4311
代表者:原眞一 代表取締役社長
従業員:251人
※月刊石垣2017年1月号に掲載された記事です。
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