事例3 みんなが健康で元気に働く生涯現役を目指す社内改革
熊本ドライビングスクール(熊本県熊本市)
熊本ドライビングスクール(以下KDS)は姉妹校の菊池自動車学校とともに「いのちをまもる」をテーマに掲げて事業を行っている。自動車学校として卒業生たちの事故率0%を目指す一環であると同時に、社員の命と健康を守る働き方改革でもある。
社員は家族同然という思いで進めていく
「私が母の後を継いで自動車学校の社長に就任したのは、平成21年のことでした。それまでは専業主婦だったので、最初は業務に慣れるので精いっぱいでした。そんな中とても悲しい出来事を経験したことが社員の健康に目を向けるきっかけになりました」と、KDS社長の永田佳子さんは言う。その出来事とは、永田さんが社長に就いて間もなく二人の社員が相次いで亡くなったことだった。
「当社は社員100人弱の会社ですので私にとって社員は家族みたいなもの。家族を失うようなこの悲しい体験は二度としたくないと思い、社員が健康で元気に毎日働けるよう社内改革を始めました」
永田さんがまず取り組んだのが社内の禁煙化だった。以前は社員の8割が喫煙者だった。禁煙プロジェクトとして、喫煙の時間制限やエリア限定をしたり、その後分煙機を二台設置した専用の喫煙室を設置したりした。「それでもなかなか社員の禁煙は進まず頭を抱えていました。そんな時、NPOくまもと禁煙推進フォーラムと出会い、禁煙専門のドクターから喫煙の害について講義を受け、社員自身がその知識を得たことが大きな転機となりました。禁煙外来に通う者も増えたので、賞与ごとに1年目は5万円、2年目からは3万円たばこを吸わない者に禁煙推進手当を加算して彼らの背中を押しています」
最初は反発もあったが、禁煙に成功した人が出ると連鎖的に禁煙に取り組む社員が増えた。社員2人が会社の取り組みが理解できずに辞めたが、27年から敷地内を全面禁煙にしたことで、今では社員の禁煙率が83%に達したという。
健康意識の高まりから思わぬ波及効果
社内の禁煙化を進めるのと同時に、3年前からは社員たちの食事改革にも取り組み始めた。
「社員の昼食を見たら、カップ麺や揚げ物が多く、野菜を食べていませんでした。これでは生活習慣病になってしまうと思い、専門の業者に頼んでカロリー計算や栄養のバランスを考えた社食を出すことにしました」
1食の費用440円は会社と折半し、社員には220円で提供した。この金額でこの内容の食事はほかでは食べられない。8割の社員が社食を頼むようになった。
「毎月25万円ほどを会社が負担しています。社員たちも食について意識が変わり、ご飯を少なめにしたり、サラダを別に買ってきて社食の前に食べたりする人も増えてきました」
これにより社内で健康意識が高まり、自発的に運動をするようになった。社員たちが野球チームを結成して大会に出るようになったのもその一つ。「スポーツチームをつくることで社内にチームワークも生まれ、思わぬ波及効果がありました」と、永田さんは言う。
社員2人を病気でなくしたことは会社の健康管理体制にも責任があると考えた永田さんは、一年に1回の社員健康診断、受診後のデータ管理を徹底する仕組みを立ち上げた。検診で「再検査の必要がある」と診断された社員は、すぐに再診を受け、その結果を会社の衛生委員会に報告するよう就業規則を変更した。衛生委員会の担当者はその後、その社員に対して「ちゃんと薬を飲んでいますか?」「定期的に病院に行っていますか?」などと声掛けをするようになっている。
「痛みを伴わない生活習慣病は、特に細やかな管理が必要だと感じています」と永田さんは言う。
突然の病気で休む社員が減り社会貢献により収益もアップ
会社が健康管理をしてくれることは、社員にとってはありがたい制度だが、会社にとってはどのようなメリットがあるのだろうか。
「健康になることで、突然の病気で仕事を休む社員が減り、業務の効率が高まりました」と永田さん。
また会社なので利益も上げなければいけないが、健康管理コストがかかったにもかかわらず、売上・利益はあがっていたという。「健康系セミナーで講演する際、生産性の話も入れることになり、これまでの収益を10年間分グラフ化してみました。売上は10%アップしていて利益も上昇していました」
この売上アップにはほかの要素も加わっている。KDSでは社会貢献にも力を入れており、幼稚園・学校での出張交通安全教室や、ロコモティブ・シンドローム(加齢や生活習慣により運動機能が衰え、要介護になるリスクが高まること)を防ぐための高齢者向け講習会にも取り組んでいる。
「自動車学校は公共性が高い事業です。私の経営理念は〝世のため人のための社会貢献〟ですので、その柱でいろいろな活動をさせていただいています。ロコモ予防講習会に参加されたお客さまが、その後お孫さんを連れて入校申込においでになるといううれしい場面に遭遇することもありました」
これらの社会貢献も、社員が健康だからできることだと永田さんは言う。「私は社員にいつまでも健康で元気、生涯現役で仕事をしてほしいと言っています。会社にとって社員は宝です。その宝を磨き、いつまでも輝かせることが私の仕事だと思っています」
社員が会社の社会貢献事業に参加することで、KDSの社員としての誇りや使命感も出てきたという。そんな会社でいつまでも働いていたい、そう思う社員が増えていくことは間違いないだろう。
会社データ
社名:熊本ドライビングスクール
所在地:熊本県熊本市北区楠6-6-25
電話:096-338-6956
代表者:永田佳子 代表取締役
従業員:約90人(菊池自動車学校含む)
※月刊石垣2017年1月号に掲載された記事です。
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