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テーマ別企業事例 緊急特集 今度は本物!? ロシアビジネス最前線

ロシア・プーチン大統領の来日を機に日本とロシアは、〝近くて、近い国〟になろうとしている。そこで、ロシア事情に詳しい専門家に話しを聞くとともに、いち早くロシアに進出している各地企業の動向を探った。

総論 対日感情のよさは有利に働くが、未発達なビジネス環境に注意が必要

高橋 浩(たかはし・ひろし)/ロシアNIS貿易会(ROTOBO)・ロシアNIS経済研究所副所長

高橋 浩(たかはし・ひろし) 昭和32年山形県米沢市生まれ。55年から58年まで社団法人日本民間放送連盟、60年から社団法人ソ連東欧貿易会調査部(現在のロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所)に所属。その後平成8年から12年まで財団法人貿易保険機構・カントリーリスク研究所総括主任研究員を務め、20年に社団法人ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所副所長に就任した

5月6日に行われた安倍総理とロシアのプーチン大統領の日ロ首脳会談以降、日ロの距離が急速に接近している。すでに経済分野では安倍総理が示した経済交流を目的とした8項目の協力プランが動き出している。日本企業は未知の巨大市場とどう向き合えばいいのか。ロシアNIS経済研究所副所長の高橋浩さんに日ロビジネスの現状と課題を聞いた。

日ロの中堅・中小企業を育成する基盤創設に合意

安倍総理の協力プランには「中小企業交流・協力の抜本的拡大」という項目があった。この実現に向けて経済産業省とロシア連邦経済発展省が協議を行い9月3日、日ロ両国の中堅・中小企業分野における協力のためのプラットフォーム創設に関する覚書に署名した。プラットフォームは両国の関係機関を構成員とし、必要に応じてベンチャー・ファイナンス、イノベーション・ビジネス、食関連などのワーキンググループを設ける。同時に投資および輸出を促進するためのセミナーや商談会などのイベントを開催、ビジネス・ミッションの派遣、金融・情報・ノウハウの支援を実施するとともに、進出を図る中堅・中小企業に関する紛争の解決にも取り組む予定だ。日本企業にとってロシアビジネスの環境が整いつつあることは喜ばしいが、ロシア経済の現状はどうなのか。

高橋さんは「先行きの不透明感が漂う」と分析する。平成27年はGDP約マイナス4%で、国際金融機関、ロシア当局とも28年はわずかながらマイナス成長と予測する。

ロシアの経済悪化の主な原因としては欧米による経済制裁が続くウクライナ情勢やロシアの主要輸出品目である原油価格の急落による景気悪化、26年に起こったロシア通貨・ルーブル急落の後遺症などが挙げられる。また27年に、米格付け大手のS&Pとムーディーズがロシアのソブリン格付け(国債格付け)を非投資適格へ引き下げたことも影響している。

ただ、細かく見ていくと「暗」も「明」に変わると、高橋さんは指摘する。例えばルーブル安は「ロシアの原料輸出にメリットは大きく、経済の停滞は賃金の上昇を抑えるため、経営側にとって雇用環境はよい」という。両国首脳の中堅・中小企業をプレーヤーとして育てようという日ロの姿勢もプラスに働いている。

高橋さんによると、「ロシア経済がよくないという見方は間違いではないし、ロシア人自身も認めると思う」としつつ、「私は2000年代の高成長の調整時期に入っていると考えていて、仕込みの時期と考えれば、悲観することはない」という。

さらにロシア人による「対日感情の良さ」も日ロ間のビジネスに有利に働きそうだ。外務省が今年行った「ロシアにおける対日世論調査」では、ロシアと日本は友好関係にある(どちらかというとあるを含む)と答えた人が78%、日本との友好関係を重要(どちらかというと重要を含む)と考える人はなんと97%に達した。日本人にとっては意外な結果だったのではないだろうか。

ロシアはオンリーワンの技術を求めている

すでに日本の大企業でのロシア進出例は比較的多い。ロシア欧州部にはサンクトペテルブルク市にトヨタ自動車、トヨタ紡織、日産自動車、モスクワ市にIHI、フジクラ、ヤロスラヴリ州にコマツ、ロシア極東のウラジオストクにマツダなどが工場を建設している。

では中堅・中小企業は何を武器に売り込めばよいのか。高橋さんは「その企業しかできないユニークなオンリーワンの技術・製品」を挙げる。次ページで紹介する北海道の會澤高圧コンクリートは、ロシア企業からコンクリート製品の擁壁技術を導入したいという要望を受けてウラジオストクに進出し、技術力が評価されて金角湾に全長1300mのつり橋をかける事業に参加した。また勇建設は道内での受注機会が減る中でロシア極東に注目し、サハリン州の建設会社と合弁企業を設立して護岸工事などを手掛けている。

言語の壁と未発達な取引慣習に要注意

そのような技術・製品を有する中堅・中小企業がロシアに進出する場合、どこに注意をすればよいのだろう。高橋さんはまず「言葉の壁」を挙げる。「ロシア側に英語を話せる人材が増えつつあるものの、折衝の多くはロシア語で行うことになります。中堅・中小企業は体力面で、ロシアビジネスを理解しロシア語で折衝できる人材の育成は難しいのではないでしょうか」

そのためロシアビジネスでは信頼できるコンサルタントを見つけることが重要であり、国土が広大なところから生じる、日本企業の受け入れに対する地域間の「温度差」にも気を配る必要がある。また、国内の「企業が若い」ことも不安要因だ。「ソ連が崩壊して20年程度しか経過していないので、安定した企業社会が形成されておらず、再編が頻繁に起こります。相手を大企業と思い交渉を進めていても、他社とのM&Aで白紙に戻ることもあり得ます」

ロシアビジネスを行う上で留意すべき点を高橋さんは自著『早わかりロシアビジネス』で次のようにまとめている。

慎重な日本企業はまず調査を行って相手を見極めてからビジネスを進めたがるが、ロシア企業を訪問するときは調査のためではなく、具体的なビジネス案件を示す必要がある。ロシア企業はソ連崩壊後に設立された新興企業がほとんどであり、経営者のリーダーシップが強い。また経営者は短期ビジネスに走る傾向がある。

一方でロシアは新興国であるものの、元来ロシア人は欧米流のビジネスに慣れており、品質と価格が納得できれば無理な価格交渉はしてこないし、契約を守る。

とはいえお互いの商慣習について不案内なため、小規模なビジネスから始めてリスク回避のために精緻な契約書を作成することが重要である。企業同士の取引であれば、コミュニケーションを密にして信頼関係を築くことで大半のリスクは回避できそうだが、公共事業のように行政が絡む事業となると一筋縄ではいかなくなることもあるという。

高橋さんは、ロシアビジネスを検討する日本企業の相談窓口として、まず日ロ間のビジネス環境の整備を目的に設立された「日露貿易投資促進機構」(日本側は経済産業省、外務省、ジェトロ、ロシアNIS貿易会が参画)を挙げる。在ウラジオストク日本国総領事館が日本企業支援担当官を置いているように「極東の領事館に相談する方法もある」。また見本市への参加も有効だ。ロシア国内で開催される見本市はもちろん、日本や、ドイツなど欧州の見本市にもロシア企業の担当者が取引相手を探すために訪れることも多い。

ロシア人は誇り高き民族で義理人情にも厚い。うまく信頼関係を築くことができれば、中堅・中小企業にとって頼もしいパートナーになるだろう。

[ロシア基礎データ](外務省)

面積:約1710万k㎡

人口:1億4651万人(2016年1月)

首都:モスクワ

公用語:ロシア語

主要産業:鉱業、鉄鋼業、機械工業、化学工業、繊維工業

資料提供 ROTOBO

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