Q 創業者の私も70歳になり、会社(資本金5000万円、株主5人の同族会社)の後継者を誰にするかを検討しています。私は、自分の相続税対策よりも、会社の存続を第一に考えています。会社の経営がスムーズに行く事業承継の方法を教えてください。
A 事業承継の一つに、全部取得条項付種類株式を使った承継があります。これは、2種類以上の株式を発行する会社が、そのうちの1種類の株式全部を株主総会の決議で取得できる、と定款で定めた株式です。特徴は、後継者が会社を完全支配でき、意思決定が迅速に行われることです。また、事業承継税制を使わないため、複雑な条件から解放されます。ただし、全部取得条項付種類株式の発行には、株主総会の特別決議が必要です。
後継者を筆頭株主にする
現在の経営者であるあなたは、できるだけ早く後継者を決定し、後継者と協力して、株主総会の特別決議に必要な議決件数を確保する必要があります。また、後継者は現経営者から株式の贈与を受けるほか、事業承継を応援する株主から必要な株式数を買い集めるなどで、後継者となるべき者が筆頭株主となるようにする必要があります。
こういった事前準備が完了したら、いよいよ後継者が会社を完全掌握し、事業承継ができるスキームを実行していきましょう。ここでは、全部取得条項付種類株式(※)を使った事業承継の事例を紹介します。
※2種類以上の株式を発行する会社が、そのうちの1種類の株式の全部を株主総会の特別決議(株主の3分の2以上の賛成)によって取得できることを定款で定めた株式のこと
事実上、会社は一人株主となる
まず、定款を変更して、2種類以上の株式を発行できるようにします。会社には、もともと普通株式があるので、従来の普通株式と新たな議決権のある株式の2種類を発行できるようにします。なお、定款変更には、株主総会の特別決議が必要です。
次に、現在の発行済普通株式を全部取得条項付株式にする定款変更を行います。さらに、会社は株式の全部取得を行うために、取得対価の価額やその取得に条件を付す場合には、それも株主総会で決議する必要があります。
そのため、当該株式の取得に現金預金を用いると、多額の現金預金が必要となります。そこで、全部取得条項付種類株式と同価値の議決権のある種類株式を交換することにします。その上で、後継者である筆頭株主が所有する全株式と別の種類株式1株の割合で、別の種類株式を発行します。後継者は新株式1株を入手しますが、そのほかの株主には、1株未満の端数株式が割り当てられます。なお、この1株未満の端数株式には、議決権がありません。そのため、会社は、事実上、後継者である筆頭株主が一人株主となります。
会社は、1株未満の端数株式の全部を、裁判所の許可を得て、筆頭株主に売却するか、会社が買い取り、その代金をその端数に応じて権利者に交付するかを選びます。
税務関係にも注意
本スキームを実行した後の税務は、次のようになります。
①筆頭株主となった者
筆頭株主は、従来所有していた普通株式の価値と同額の株式を交換しただけなので、所得が発生していないことから課税はないことになります。
②1株未満の端数を有する者
1株未満の端数を有する者に支払われる金銭などは、株式の譲渡代金として扱われ、有価証券の分離譲渡所得の基礎となる譲渡収入とされます。
(公認会計士・米谷 齊)
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