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テーマ別企業事例 女性起業家 成功への道筋

日本では、女性起業家はまだまだ少数だという事実がある。家庭や子育てとの両立、資金……。さらに、男性に比べてビジネス経験の差も否めない。女性の起業にはさまざまな障害がある。起業の課題などについて専門家に話を聞くとともに、夢を形にする強い意志と行動力で起業した女性経営者たちの取り組みを紹介する。

総論 女性の“生活者としての視点”を生かせば流通革命は起こせる

田村 真理子(たむら・まりこ)/日本ベンチャー学会 事務局長

田村 真理子(たむら・まりこ) 日本経済新聞社、日経産業消費研究所、日経BP社を経て、平成12年より現職。早稲田大学客員教授、和光大学、事業構想大学院大学講師のほか、経済産業省、文部科学省の委員なども務める。主にベンチャー企業や起業家調査・取材を手掛けながら、事業創造論やビジネスプラン、キャリアクリエートなどを教えている。主な著書に『起業家の輩出』(共著)、『女性起業家たち』(ともに日本経済新聞社)がある

世界各国と比較して、起業活動や起業意欲が高いとはいえない日本。そうした状況の中でも、女性起業家は着実に増えており、その活躍にスポットが当たるようになってきた。彼女たちはどんなきっかけで会社を起こし、独自のビジネスモデルを構築していったのか。またそれを後押しした環境の変化とは。起業家活動を支援している日本ベンチャー学会事務局長の田村真理子さんに話を聞いた

インターネットの普及は起業に弾みをつけた

――この20年の起業をめぐる状況の変化をどう分析されますか。

田村 日本では、1970年代(昭和45〜54年)に起こった第1次ベンチャーブームから現在まで、起業の波が4回訪れています。20年前といえば第3次ブームのころ。IT技術が飛躍的に進歩し、インターネットという新しいツールが登場したことで、情報の入手や発信が容易になって、ネットベンチャーが続々と誕生しました。そのころから、活躍する女性起業家の姿が目に付くようになりました。

例えば、自分の子どもがアトピー性皮膚炎で、毎日添加物の入っていない料理をつくっていたとします。それをインターネットで発信したら思わぬ反響があり、自分の行動に価値があることが分かった。「こんなにアトピーの子を持つママがいて、困っているなら」とメニューをつくってくれる会社を探したが、見つからないので事業化を思い立つ、そういう女性が2000(平成12)年を過ぎたころから増えてきました。

――インターネット以外に女性の起業を促した要因はありますか。

田村 そもそも女性が社会で働き続けるようになった背景には、昭和61年の男女雇用機会均等法の施行が大きいといえます。それにより女性が働きやすい環境が徐々に整い、社会で経験を積む女性が増えました。その中には結婚や出産を経ても仕事を続けたり、起業したりする人が現れ、それがロールモデルとなりました。

さらに、超少子高齢化時代が到来し、社会全体に女性を戦力として活用する機運が生まれたことで、活躍の場が与えられ、女性の個の能力が引き出されスキルアップされるようになりました。こうした外的・内的要因が相まった結果といえるでしょう。

――起業を目指す女性と男性に違いはありますか。

田村 あえて挙げるなら、女性の方が人生の早い段階で起業を考える機会があることでしょうか。現代では結婚や出産がキャリアに影響しなくなってきているとはいえ、子どもが2人3人となれば、働き続けるのは容易ではありません。自分のライフスタイルに合わせて仕事を続ける上で、起業は大きな選択肢の一つなんです。

また、女性は仕事の経験値や趣味・特技を生かして起業する傾向があるので、個人事業者として事業を始める割合が全体的に多いといえます。

「あったらいいな」をモノやサービスに昇華する

――女性起業家の強みは何でしょうか。

田村 生活者の視点を持っていることですね。男性の場合、経験と勉強によってビジネスの種を発掘し、事業化することが多いのに対して、女性は日常生活の中で「こんなものが必要」「あったら便利」を見つけて仕事にしていくケースが多い。

その好例が、駅の「のりかえ便利マップ」をつくって起業した、ナビットの福井泰代社長です。ベビーカーを押して地下鉄の乗り換えは大変という経験から、首都圏の全地下鉄の駅を回って、どの車両に乗れば乗り換えがスムーズかを調べ、マップを制作しました。そして、「私が不便と感じたものは、ほかのママもそう感じているはず」という共感力の高さ。これは女性に一日の長があると思います。また、たとえ非効率だと思っても、必要と思ったら切り捨てないところなども、女性に多い特徴ですね。

――最近、注目している女性起業家はいますか。

田村 例えば、自分の就業経験とは全く違う分野で起業した、ケイミーの毛見純子社長です。彼女はもともとコンサルティング会社に勤めていましたが、働く女性が男性と同じようにかっちりした服を着ているのを窮屈そうだと感じ、短時間で選べて楽に着られ、しかもフェミニンなワンピースブランドを立ち上げました。それだけでなく、SNSを利用してネットワークを広げ、つながって、独自のものづくりの仕組みを構築しました。

また、日刊工業新聞社が開催している「キャンパスベンチャーグランプリ」で、平成24年度に関東経済産業局長賞を受賞したaba(アバ)の宇井吉美社長も印象的です。大学在学中から福祉に関心を持ち、排泄(はいせつ)検知シートを開発して起業したのですが、きっかけは身近で困っている人を助けたい、社会貢献したいという思いでした。どちらも熱い思いを形やサービスにして成功した事例です。

失敗を恐れる風潮が起業意欲をそいでいる

――日本と海外では、起業についてどのような違いがありますか。

田村 日本の起業活動や起業意欲は、男女ともに高いとはいえません。アメリカとイギリスの研究者が中心となって組織されたプロジェクトチームの調査グローバル・アントレプレナー・モニター(GEM)によると、27年の日本の「総合起業活動指数(TEA)」は4・8%で、世界61カ国中57位でした。中小企業庁がまとめた中小企業白書2014年版でも、日本の起業環境は総合120位で、OECD34カ国中31位という低水準です。女性の起業しやすさを示す「女性起業指数」でも、日本は77カ国中44位という結果になっています。

――日本が起業に消極的な要因はどこにあるのでしょうか。

田村 最も大きいのは、失敗を恐れる風潮が強いこと、そしていまだに大企業は将来性があり安定しているとされ、起業に対して否定的なことが挙げられます。また、開業コストの準備や資金調達の選択肢が限られていること、登記に掛かる手続きが煩雑なことなども障壁となっているといえるでしょう。さらに、女性は就業経験が豊富とはいえず、事業に必要な専門知識やノウハウが乏しいために、二の足を踏む傾向が見受けられます。

――女性が積極的に起業を考える上でのポイントは何ですか。

田村 女性の場合、開業資金の調達が男性ほどネックになっていません。これは女性が比較的低額な費用・自己資金で起業する傾向があるからです。実際、100万円以下で開業している女性は少なくありません。そこでまずは、個人で小規模な「プチ起業」からスタートするのもよい方法ではないでしょうか。

――起業後の女性に多い問題点とはどのようなものですか。

田村 例えば、仲間と一緒に起業したけれど、次第にそれぞれの思いが食い違ってきたり、温度差が出たりして空中分解するケースもあります。また、思いが強すぎて、ときに空回りしてしまう例もありますね。社会に貢献できているなら、大してもうからなくてもよいと考えてしまい、利益に結び付かないとか。これでは事業継続が難しいので、周りの客観的な意見に耳を傾ける必要があるでしょう。商工会議所に相談してみるのもよいと思います。

今後は地方の資源と文化を生かした起業がおもしろい

――政府は「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」で開業率10%台を目標に掲げています。それを達成するには何が必要だとお考えですか。

田村 やはり、働き手の量の確保と質の向上が重要でしょう。特に女性や若者が活躍できる環境づくりが欠かせません。一般的に女性の就業率は、学校卒業後の年代で上昇し、結婚や出産期にいったん低下。育児が落ち着いた時期に再び上昇するM字カーブを描きますが、その谷に当たる30代の数字が上がってきているのです。この流れを維持するためにも、今後さらに女性が働き続けやすい仕組みを構築していかなければなりません。

――最後に、起業した女性や起業したい女性に向けてエールをお願いします。

田村 経営に関する専門知識やノウハウも確かに必要ですが、まず「これをやりたい」という強い思いがあることが重要だと思います。また、会社をつくったら是が非でもやり続けなければならないわけでもありません。途中でうまくいかなくなったら、一回リセットしてやり直す柔軟さも大切です。

また、現在女性による新設企業の3社に1社は東京にありますが、今後はさまざまな資源と独自の文化がある地方が期待大です。思い切ってIターンやUターンして起業するのも手です。よそ者と生活者の視点で資源と文化をうまく融合できたら、おもしろい商品やサービスが誕生するんじゃないでしょうか。そうなれば流通革命を起こすのも夢じゃありません。ぜひ、チャレンジしてほしいですね。

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