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テーマ別企業事例 3つの「事例」で読み解く 事業承継の‶成功〟戦略

事例1 外部承継 新社長を外部招へいし、事業の成長、拡大を達成

サンオン(群馬県伊勢崎市)

親族内よりも親族外承継が増える昨今、製造業のサンオンも後者の路線を余儀なくされた企業のひとつだ。それも引き継ぎは急ピッチで行われ、「事業承継計画ゼロからのスタートだった」と現代表取締役社長の千本木順一さんは苦笑する。だが、二代目就任を境に、新生サンオンの大躍進が始まった。

22年に一念発起して購入した中古工場が、現本社工場として機能している。購入した翌年の東日本大震災もヒビ1つで乗り切り、働きやすい職場として従業員の評価も高い

事業承継の辛酸と温情を同時に体験

平成元年2月創業のサンオン。電気機械器具や事務用器具、製品などの金属加工メーカーとして手堅く事業を展開してきた。

だが、創業者の大倉國威さんは後継者のめどをつけられずにいた。2人の娘は家業とは違う道を歩んでおり、社内にも適任者を見出せない。残された道は社外の第三者承継だが、支援センターなどの機関に頼らず、自社の業績を理解し、本音で語り合える自身の人脈から、候補者を選びたいと考えていた。そこで白羽の矢を立てたのが、後に代表取締役社長となる千本木順一さんだ。

「大倉さんは、私の前職の営業で、購買部門の責任者だったんです。大倉さんが独立後も公私共に35年以上の付き合いがありました。私が婿入りし、戸籍上は柿沼姓であることも知っている間柄です」と千本木さんは笑う。千本木さん自身は、プラスチック金型成形企業の専務を務め、創業者の右腕となって上場を目指していた。次期社長の呼び声も高く、本来ならサンオンの後継者リストに入らない人物である。だが急転直下、有力候補者に浮上する。

「前職では自他共に次期社長の意識もあり、就任後のビジョンもありました。しかし、社長ががんと告知されてから事態は急変し、親族内承継へと大きく舵を切ったのです。息子さんは社員として働いており、社内には自ずと創業家派と私派の派閥が生まれてしまいました。その溝は深まるばかりで……」

会社を社長と共に育ててきた自負、会社への愛着や将来の展望が根底から覆される悔恨の日々に転じる中、大倉さんからの申し出があった。突然の話ではなく、再三話はあったというが、その度に心は揺れた。悩みに悩んだ末、最後には声を掛けてくれた感謝の思いから事業承継を承諾する。

旧知の仲から二代目社長にスピード就任

それからの展開が早い。22年8月に退職すると、9月には代表取締役社長に就任し、従来の貸工場から自社工場にするべく、中古工場の購入に踏み切る。

「現状維持の事業承継なら貸工場で十分かもしれません。でも就任した以上、事業拡大を目指す覚悟でした。幸い貸工場と同エリアで運良く工場が見つかり、それも知らない方のものではない工場で、手放された経緯が分かったことも安心材料となりました。しかも10月には十分生産稼働できる状態で、借金してでも〝買い〟でした」と千本木さんは語る。

先代時代は金属加工をコアにした製造業務だったが、千本木さんは得意とするプラスチック製造加工にシフトする。プラスチックだけで採算は取れると読んだが、金属加工の技術を新規事業として生かすことで継承した。

「同じ製造業でも金属とプラスチックは別物です。50の手習いで図面を読めるようになるところから始めました。あくまでプラスチック製造加工を主軸に、先代時代の金属加工にはない分野、ゼネコン向けの建築用部材で実績を上げています」

事業を承継した22年は年間6800万円の売上高だったが、わずか3年後の25年には4億7400万円、ピーク時には10億円まで伸ばし、利益は常に右肩上がりだという。千本木さんの経営手腕の賜物だが、この結果に対して謙虚にこう語る。

「私が社長に就任したと同時に会長になった先代は、事業を全て任せてくれました。業務内容も財政面も全幅の信頼あっての丸投げで、やりたいようにやらせていただきました。そして、私の前職の社員が一人、また一人と入社してくれて、計4人が即戦力になってくれたことが大きいです。職場を円滑に取りまとめてくれました。私の代になって仕事の量もスピードも様変わりして、100パーセント別会社になったと言っても過言ではありません」(千本木さん)

次の後継者探しが一番の課題 12年先に標準を定める

大きな変革に、先代時代から働く従業員に戸惑いはなかったのだろうか。「『いいな』と思ってもらえるように努めた」と言う千本木さんが注力したのは、待遇の改善だ。なかでも22年に移転した工場が全館空調システムを導入したことは、従業員のモチベーションアップに大きく貢献したといっていい。給料も見直し、就任後一年で体制を整えていったと振り返る。

その後、事業を拡大していったが、事業承継から7年たつ今、一番の課題は次の後継者探しと言い切る。千本木さんは「会社を大きくするより難しい」と肝に銘じ、今から12年計画で事業承継計画を立て、対策を練っている。

「私の場合は事業承継計画がなく、全くのゼロベースからのスタートでした。それは私にとって非常にやりやすいものではありましたが、客観的に見ればイレギュラーな事業承継です。私には息子がいますが、別の職種ですし、親族内承継はありません。社内で、それがかなわなければ社外でと考えています」

後継者は経営者として有望な人材であることが大前提だが、後継者へ自社株を円滑に譲渡できるよう、自社株の評価額をどのタイミングでいかに下げるかもポイントとなる。会社が所有する土地と建物の不動産、測定器やラインなどの工場設備を資産として、後継者が金銭面で負担にならないバトンタッチを模索する。一方、資産価値を持った会社にするための工夫も必要であると、千本木さんは説く。

「私は今年で58歳、12年後には70歳です。会社の存続は創業者よりも二代目の手腕に掛かっていると感じています。徳川幕府で例えるなら、カリスマ性のある家康を継いで、幕府の礎を築いた家光へつないだ秀忠こそ陰の功労者です。私も優れた三代目にバトンを渡すべく、全力で使命を果たしたいと思います」

会社データ

社名:株式会社サンオン

所在地:群馬県伊勢崎市西久保町3-637-1

電話:0270-50-0500

HP:https://www.sunon.jp/

代表者:千本木順一(柿沼順一) 代表取締役社長

従業員:15人

※月刊石垣2017年10月号に掲載された記事です。

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