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テーマ別企業事例 3つの「事例」で読み解く 事業承継の‶成功〟戦略

事例3 親族内承継 親族内承継の“見える化”で社内を立て直す

日協堂医療器(香川県観音寺市)

祖父が創業し、母が継ぎ、そして息子へ。三代続く日協堂医療器は、医療機器や介護用品の販売・レンタルを中心に事業を展開している。関連法人を設立し、老人ホームの運営に乗り出すなど、事業を拡大して業績を伸ばし続けている。だが、承継時には親子の確執や多額の負債、社内トラブルなど課題は山積みだった。

扱う医療機器や福祉用品は、医療機関を中心に救急医療や健康増進、基礎医学研究まで幅広い領域をカバー

先代社長である母の体調を心配して決意

香川県の最西端、瀬戸内海に面した観音寺市は、日本の渚百選の有明浜や巨大な銭形砂絵「寛永通宝」などの観光名所で知られる。そんな風光明媚(めいび)な地に昭和21年、日協堂医療器は創業した。

「正式な創業年は不確かですが、戦後翌年と聞いています。戦中、後方支援部隊の衛生兵だった祖父が起業したんです」

そう語るのは現・日協堂医療器の代表取締役社長の喜井規光さんだ。平成21年、30歳のときに事業承継したが、23歳で入社し、社長就任以前から事業を支えてきた。だが、「ここに至るまでにはいろいろありました」と苦笑する。

喜井さんは高校卒業後、大阪のリハビリテーション専門学校に入学し、作業療法士の道を歩んでいた。京都のクリニックに就職すると21歳で新設のデイケア施設の主任に抜擢され、社会人生活は順調な滑り出しだった。だが、安泰すぎる生活に自分自身が成長できていない焦りを感じ、将来の展望を見出せずにいたという。そんなときに夜な夜な母、博惠さんから肝硬変、高血圧による体調不良の電話が掛かってきた。

「仕事柄、病気に関する知識がある分、心配になりました。家業を継ぐ気はなかったのですが、長く金銭面で負担を掛けていたこともあり、帰省を考えるようになりました」

大阪の全寮制の中学に入学して以来10年ぶりに、喜井さんは故郷に戻ることを決意する。これを機に結婚するなど、人生の大きな節目と捉えた帰省で、取引先へのあいさつにも熱が入った。だが、その後で驚きの事実が明かされる。

「病気は嘘だったんです」

トラブルの連続で経営破綻の危機に

ショックを受けた喜井さんは、母親への不信感を募らせていく。経営方針やビジネススタイルの違いも、この思いがベースにあるため素直に聞き入れられず、何度となく衝突を繰り返した。だが、時代は平成12年から介護保険制度がスタートし、介護福祉事業は追い風に乗っていた。社内には財務や経理面で頼れて、喜井さん親子の仲介役であり、喜井さんも仕事面での〝師匠〟として慕う役員もおり、経営は順調だった。

医療器具や福祉用品を直接利用する人に届けたいという思いは親子で一致していたこともあり、14年、別法人(社会福祉法人 光志福祉会)を設立。翌年には介護付き有料老人ホーム「ネムの木」をつくるなど、新事業にも乗り出す。

「当時、福祉施設を建てれば50〜60床が1〜3カ月で満床になる時代でした。銀行から3、4億円借り入れて勝負に出たんです」

だが、30床が半年過ぎても半分も埋まらず、2年間で累計7500万円の赤字となる。最新設備を導入し、県内1、2位の高い料金設定が裏目に出て、これに追い打ちをかけて師匠と慕っていた役員の横領が発覚する。

「開設して1年半が過ぎたころ、税理士の報告で分かりました。役員は懲戒解雇となったのですが、人望のあった方ですし、娘さんも社内にいました。それもあってか、従業員からの反感がこちらにきてしまい、訪問介護スタッフ20人が仕事をボイコットして部署閉鎖に追い込まれたこともありました。離職率は1年目は110%、2年目は130%で、募集、面接を繰り返す日々でした」

香川県の健康福祉部長寿社会対策課や労働基準監督署が、法令違反、不祥事チェックに月5回も来るような状況下で、喜井さんは28歳にして「首をくくる心境だった」と振り返る。

理念、方針を明確にし計数の把握でV字回復

しかし、悪いことばかりではない。従業員が芋づる式に辞職したが、残った従業員のマンパワーを結集し、利用者の評価が上向いたのだ。落胆ばかりしていられないと喜井さんも行動に出る。無料経営相談、それも事業承継に強いコンサルタント会社に足を運び、経営セミナーや自己啓発研修にも積極的に参加し始めた。

「特に母と一緒に参加した事業承継で悩む4社合同の合宿は、自分自身も、会社も変わる大きなきっかけになりました。会社経営がうまくいかないことを、どこか母のせいにしていた自分に気付き、人任せだった計数管理を勉強し、社長就任を2年後と明確にして、社内外に宣言しました。承継の準備と覚悟の〝見える化〟です」

老人ホームで大切なのは、最新設備よりも利用者が安心して頼れるサービスであることにも気付き、人材教育にも力を入れていく。経営を丁寧に見直す取り組みで、累積赤字を2年間で解消した。

「一番大きかったのは、口論が絶えなかった母と和解し、『あなたに任せる』といってもらえたことです。母は祖母が急に亡くなり、金庫の開け方、支払い状況も分からず、相当苦労したそうです。同じ轍を踏まないようにお互いに納得のいくまで話し合いました。もともと母は数字が苦手ですが、営業力は卓越しています。得意な営業に専念してもらうことで母のパフォーマンスが上がり、売り上げがすごく伸びました」と笑う。

また会社のバックボーンでもある企業理念にも着目し、グループ会社も含めた幹部20人で何度も話し合いの場を持ち、喜井さんが明文化する。従業員には毎年、経営指針書を配布し、理念や方針、職場整備の共有にも努めた。この10年で売り上げは3億から10億円規模に増え、東南アジアへの進出を目指している。

「四代目への事業承継も50歳から始める予定です。娘が2人いますが親族、社内外問わず、会社にとってのベストを考えます。今年38歳ですからあと12年、のんびりとはしていられません」

事業承継を念頭に入れた将来設計を語る喜井さんの表情には、確固たる自信とチャレンジ精神がみなぎっていた。

会社データ

社名:株式会社日協堂医療器

所在地:香川県観音寺市柞田町甲43-1

電話:0120-25-4774

HP:http://www.nikkyoudo.co.jp/

代表者:喜井規光 代表取締役社長

従業員:30人

※月刊石垣2017年10月号に掲載された記事です。

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