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テーマ別企業事例 人手不足に勝つ! 多様な人材の活躍で業績を上げる社長の決断

事例3 柔軟性を持たせた雇用形態でさまざまな年代の女性を採用

ビック・ママ(宮城県仙台市)

宮城県仙台市に本社がある服や小物の「お直し」専門会社ビック・ママは、個人客向けのお直しサービスにより業績を急拡大したが、人手が不足した。そこで女性従業員が働きやすい環境整備とICT(ITによる情報処理)の導入により対処した。

簡単な補修は各店舗で行うが、難しい補修や大幅なものは仙台の工場に集めて行っている

法人から個人に対象を転換し業績拡大へ

ビック・ママの前身である守井加工所は昭和39年に創業。縫い手の従業員4名を雇い、主に大手スーパーから発注される衣服の補修などを請け負っていた。

平成2年、父親から家業を継いだ現社長の守井嘉朗さんは、3年後に法人化し、ビック・ママに社名変更して業績拡大を図る。年商2億円程度を得ていたが、経営は赤字続きだった。そんな折、バブル崩壊による不況に見舞われる。大手スーパーでは新しい服の売れ行きが落ち、サイズ直しや裾直しの仕事が激減した。そこで、下請けの立場では発注を待つ以外に手がないことに危機感を募らせた守井さんは、お直しの対象を法人から、お気に入りの服を直して長く着たいという個人に転換する。法人向けお直し業にとっての逆風は、個人向けお直し業には追い風となるという逆転の発想だった。

11年、仙台の中心地にあったファッションビル141(現仙台三越定禅寺通り館)に「お直しコンシェルジュ ビック・ママ」第1号店を出店した。守井さんの読みはズバリ的中し、その後東北地方を中心に店舗数を増やしていく。そして17年、「念願だった東京進出を、聖蹟桜ヶ丘店(多摩市)で果たしました」と守井さん。18年から19年にかけて都内でも有数の人気商業施設、二子玉川髙島屋(世田谷区)、渋谷109(渋谷区)、丸ビル(千代田区)の中に次々と出店した。

成功の理由は、気に入った服の傷んだ部分を補修したり、サイズを調整して長く着たりする人が増えたという時代背景もあるが、「どの店も明るくて入りやすいようにと意識し、専門用語を知らなくてもお直ししたい箇所を指定できるように、イラスト入りの価格表をつくりました。家庭の針仕事を一手に請け負う方針なので、ボタン付けや裾のほつれ直しのような小さなものも引き受けます。店舗は5、6坪と狭いので、お客さまの注文を受けるスタッフも1〜3名と少人数。簡単な作業はその場で行いますが、手の込むものは工場で仕上げています」という守井さんの戦略が的を射ていたのだ。

ICTを導入して新人を即戦力に変えた

お直し(衣服の補修)は労働集約型の産業のため、業務を拡大するには店舗のスタッフと縫い手である補修スタッフの確保が不可欠である。しかも仕事の性質上、従業員の大半が女性になる。

「女性が応募しやすいように雇用形態に柔軟性を持たせ、正社員・契約社員・パート・アルバイトから、自由に選べるようにしました。また、服飾専門学校在学中に技術スタッフとしての基礎研修を行うインターンシップ制度を取り入れたほか、自分のペースで仕事をしたいという女性や、家事や育児・介護と両立したいという方向けに在宅勤務制度も用意しています」(守井さん)

そのため服飾専門学校在学時にアルバイトで入り卒業と同時に正社員として入社した人、専門学校を卒業して本社工場にアルバイト入社し契約社員を経て正社員となり店舗へ異動して店長となった人、正社員として店舗に配属されたが結婚を機に家庭生活との両立を考えてパートに切り替えて店長として活躍する人など、ライフスタイルに合わせて働けることが大きな魅力となっている。さらに、多様な雇用形態を生かして、技術があれば、子育て中の主婦層や高齢者も積極的に採用している。

とはいえ、せっかく従業員を確保できたとしても、戦力化には時間が掛かる。服飾専門学校で習う一枚の布から服を作る作業と、完成した服を直す作業は別物なのだ。長袖のワイシャツを半袖にしたいという簡単そうに思えるオーダーでも、単純に袖を切ればいいというわけではない。

「当社には、社員を育てる時間も余裕もありません。そこで少ない教育時間でも安心して働けるよう、ICTを活用した仕組みをつくりました。お直しの技術を動画で学ぶことができる教育システムや、東京でお預かりした商品の状況を仙台の工場でも的確に把握する受発注・商品管理システムにより、効率化できるようになりました。さらに、自社で開発して26年から店舗に導入したiPadによる受注システムで、受付時のミスを大幅に減らすことができました。iPad導入前は、複写式の伝票にお直しの箇所を記入していましたが、例えば長袖シャツを半袖シャツにお直しする依頼では、袖口が広く不格好に仕上がってしまうため調整が必要になります。それをお客さまに伝えなければならないのですが、新人の場合は注意点を忘れてしまうことがありました。iPad受注システムではお直し箇所を入力していくと、お客に伝えるべき事柄も表示されるため適切な対応ができ、新人でも即戦力になる。伝票を廃止したことで読み書きの間違いがなくなり、印刷経費も不要になりました」

主婦の戦力化では、26年に仙台の本社工場近くに保育所を開設、子育て中のため働きたくても働けない、技術を持つ主婦に復帰の道を開いた。さらに障害者の雇用にも力を入れ、仙台市障害者就労支援センターと連携して、ミシンや針仕事ができる人を採用している。

人手不足を克服し、新たな事業へも派生

26年にシンガポールの日系デパート内に店を出し、27年には現地の同業の店舗を買収し、既存店も含めて7店舗体制とするなど同社は海外にも進出を果たした。「基本的に日本と同じ受注システムを使い、シンガポールの店舗の店長は全て現地の人間です。さらに今夏は、ベトナムにも進出する予定です。ベトナム人は、日本人と同じようにまじめですから、ベトナムで育てた優秀な人材に日本で働いてもらうことも想定しています」と、守井さんは今後の海外展開にも積極的に取り組んでいる。

人手不足を克服し業績を上げてきた同社には、思わぬ副産物も生まれた。前述したiPad受注システムの同業他社への販売や、新たなシステムを構築するICT事業も立ち上げた。また、現在は2カ所運営している保育所を増やして、本格的に保育事業を手がける計画もある。売上は、27年5月期が14億5000万円、28年5月期は15億円を見込む。店舗数は現在国内72店舗だが、早期に100店舗とし、29年度の上場を目指すという同社は、逆風を見事に順風に変えたようだ。

会社データ

社名:株式会社ビック・ママ

住所:仙台市青葉区北目町6-6

電話:022-223-5328

代表者:守井 嘉朗 代表取締役

従業員:300人(契約社員・パート含む)

※月刊石垣2016年6月号に掲載された記事です。

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