事例3 ゴムでしか実現できない高い技術でキッズ市場へ進出
錦城護謨(大阪府八尾市)
大阪府八尾市のゴム製造メーカー・錦城護謨(ゴム)は平成21年12月の社長交代を機に、新規事業推進本部を立ち上げた。新事業のテーマは防災・環境・福祉・健康の4分野で、福祉から生まれた製品が知育玩具の「ノシリス」や段差のない視覚障害者歩行誘導ソフトマットの「歩導くん」とその発展型の「HODOHKUN Guideway(ホドウクンガイドウェイ)」である。どちらもキッズデザイン賞を獲得し、新たな市場へ挑む。
蓄積した高い技術で玩具の設計図を具現化
三角をくるっとひっくり返すとクローバーに、ハートをくにゅっとひっくり返すとスペードに形を変える仕掛けを持つシリコーン製の玩具のノシリス。錦城護謨がICIデザイン研究所と共同開発し、平成22年から販売している商品だ。社長の太田泰造さんは、「メード・イン・ジャパンで製造したい」という、相手方のデザイナーの思いに共感したという。
「ノシリスは単純なゴムの玩具ではありません。子どもが口に入れるかもしれない知育玩具なので、プラチナシリコーンと呼ばれる臭いのしない最上級のシリコーンを素材として使い、安全性に配慮しています。さらに本社工場に専用のスペースを設けて、品質管理を徹底して生産しています」。それだけではない。安全性や耐久性の基準を満たした上で、ひっくり返すと変形する仕掛けをつくらなければならない。
「シリコーンの硬度や厚みを微妙にコントロールしながら形にしていかなければなりません。デザイナーが描いた設計図を具現化する高い技術が求められました」
そこには、昭和11年の創業以来培ってきたゴムの技術が存分に注入されている。
スマートフォンの防水、薄型化にも貢献
錦城護謨は、ゴム製品関連事業と土木事業という、太い2本の柱を持っている。ゴム製品関連事業では、幅広い製品を製造している。例えば、防水機能を持つスマートフォンの裏ぶたを開けてみると分かる。防水ゴム(シール)が貼り付いているはずだ。これは、塗装された樹脂(裏ぶた)を金型にインサートし、ゴムと一体化する成形方法で生産している。ゴムと樹脂を一体成形する技術の開発は難しく、他社は早々にギブアップした。「しかし、当社の信条は『できないとは言わない』です。成形機から自社設計して開発に成功しました。でも、当初の歩留まりは50%でした」と太田さんは笑う。
生産した製品の半数が不良品という苦難を乗り越えたおかげで、この技術は錦城護謨だけのものとなり、各社のスマホの防水と薄型化に貢献している。
土木事業では、軟弱地盤改良工事の設計、施工を行う。同社の技術は、東京・江東区に今年11月に開場する豊洲新中央卸売市場の土壌汚染対策にも活用される。
「現在の事業比率はゴム事業が約6、土木事業が約4で新事業の比率は低いのですが、将来的には4対3対3にまで引き上げたい。それには世の中にない物を新しく生み出すことが不可欠」。そう考える太田社長が期待を寄せる新製品の一つが誘導路「HODOHKUN Guideway」だ。従来の誘導ブロックは凸凹して歩きづらく、つまずきやすい。エレベーターやトイレでは、入口までしか敷かれておらず、中に入ってからのことは考慮されていない。「HODOHKUN Guideway」は柔らかい合成ゴム製の平らな製品。視覚障害者は、白杖と足の感触でマットが敷かれた誘導路を確認しながら、目的地にたどり着ける。既存の床や歩道に両面テープで貼り付けるだけの施工なので、イベントなどの仮設会場の誘導路にも利用できる。
この製品が子どもたちの安全・安心に貢献するデザインなどに贈られるキッズデザイン賞を受賞したのは、表面を平らにしたことでベビーカーが引っかかったり、幼児がつまずいたりするリスクの低減が評価されたため。それは、車いすで移動する人や高齢者に対する配慮にもつながる。
キッズ分野でも広がるゴムの可能性
今年2月、太田社長へ朗報が届いた。「HODOHKUN Guideway」が国際的なデザイン賞「iFデザインアワード」で最優秀賞を受賞したのである。審査員は、「感触で分かる誘導路自体が革命だ」「同じ空間を利用する他の人にも配慮されている」と高く評価した。
「HODOHKUN Guideway」の施工実績は約800カ所だが、これを2000カ所にまで拡大して実績を積み、2020年の東京オリンピック・パラリンピック会場での採用につなげ、知名度を高めることが目標だ。使用後ははがして再利用できるため、財源が不足する福祉関係の組織へ譲ることも考えられる。もし実現すれば、資源のリサイクルと五輪費用の削減が図られるはずだ。
キッズ市場という点に焦点を絞れば、「ノシリス」はキッズ市場に真っ向から切り込む製品、「HODOHKUN Guideway」は間接的な形でキッズ市場の拡大に貢献する製品ということになる。太田さんは「それにとどまらず、ゴムの用途は無限大」だという。
「ゴムは面白い素材ですよ。用途に応じて自由な硬さがつくれます。重さも色も変えられるし、アイデア次第で、今までに無い製品を生み出すことができます。ベビー・キッズ市場も有望と考えています。例えば保育園の床をゴムに替えると、転倒してもケガをするリスクが減る。マンションの上階の騒音を抑える用途にも使える。またシリコーンは医療用にも使われるほど衛生的で煮沸消毒ができるので、ノシリス以外にもいろいろな玩具や子ども用品がつくれます」
すでに開発に着手している新製品も複数あり、手応えを感じているという。錦城護謨から子どもの安全や知育に役立つ製品が発表される日が待ち遠しい。
会社データ
社名:錦城護謨株式会社
住所:大阪府八尾市跡部北の町1-4-25
電話:072-992-2321
代表者:太田泰造 代表取締役社長
従業員:286人
※月刊石垣2016年7月号に掲載された記事です。
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