事例2 親会社が下した突然の〝清算通告〟に新会社設立を決断
TOP(福井県越前市)
自動車や家電向けの小型モーターをメーンに製造しているTOP。かつては、大手電機メーカーの子会社だったが、〝清算〟という親会社が下した決定を受け、EBO(従業員出資)で事業を引き継ぐ形で新会社の設立を決断する。グローバル競争で先の見えない状況の中、自社ブランド製品の開発に注力して起死回生を遂げた。
モーター製造技術と地域の雇用を守りたい
福井県越前市に本社を置くTOPは、車載用や家電用の小型モーターを扱っているメーカーである。同社の前身は、大手電機メーカーが100%出資する子会社で、主に家電や空調用のモーターを生産していた。約600人の従業員を擁する、地域では名の知られた企業だった。ところがバブル崩壊後、中国製品の台頭や取引先の海外シフトのあおりで、業績は悪化の一途をたどる。平成15年、そうした状況を受け、親会社は子会社の清算を決めた。
「知らされたのは8月。あまりに突然のことで社内は動揺し、不安に包まれました。確かに、主要製品の生産拠点は海外に移りましたが、国内に残るものもあり、これまで培ってきたモーター製造のノウハウを途絶えさせてはいけないと思いました。それに何より、従業員が路頭に迷うのを食い止めたかった。地域の雇用を守るためにも、新たに会社を興そうと決めたんです」と当時製造部の課長を務めていたTOP社長の山本惠一さんは振り返る。
同年10月、山本さんと当時の従業員数人が資金を持ち寄り、TOPを設立する。TOPとは、会社のある武生(現越前市)にちなみ、「Takefu Original Production」の頭文字を取ったものだ。
とはいえ、課題は山積していた。第一に、下請けのままでは、いつ仕事がなくなるか分からないこと。当面は仕入れから製品納入まで、元親会社の協力を得て事業を展開するとしても、いずれは自立して開発や販路開拓をしなければならない。さらに心配だったのが、従業員のモチベーションだ。清算(倒産)した会社を立ち上げて何年間仕事があるのかといった将来への不安から、転職を考える者もいるだろう。そこで山本さんは従業員と個別に面談を実施し、会社に残るか否かの意思を確認した。その結果、400人余りが会社に残ることを選択。翌16年1月より操業を開始した。
開発力を強化して新たな分野へ進出する
まずは、元親会社がものづくりを海外拠点に移すまでは、その製造を引き継いだ。しかし、早期の自立を目指すためにも、自社ブランド製品の開発が急務だ。同社は前社の製造部門が中心となって設立され、開発部門が手薄だったことから、OB技術者数人を迎え、若手従業員への技術継承を進めた。そんなある日、転機が訪れる。
「展示会に出展した際、あるメーカーから、『壁紙の裏側にのりを付ける専用機械が大きすぎて扱いにくいので、もっと小さくならないか』と相談を受けたんです。小さいがパワーのあるモーターを使って、機械を小型化できると提案すると、商談が成立。当社にとって、初の新規受注となりました」
同社は、重量が100㎏を超えていた壁紙のり付け機を、28㎏まで軽量化することに成功する。それを機に、さまざまな分野の開発に乗り出した。中でも新事業展開の鍵となったのは、自動車用モーターの開発だ。20年7月の北海道洞爺湖サミットを見据え、電気自動車の開発に乗り出した大手自動車メーカーから依頼が来たのだ。
「事業がようやく軌道に乗ってきたと思った矢先、起こったのがリーマンショックです。そのあおりで電気や自動車産業が生産を大幅に縮小したため、一気に仕事がなくなり、とことん追い詰められました。一方、違った切り口で耕作放棄地を有効活用することも地域貢献になるという思いと、従業員の福利厚生を含め、安全で安心なお米を安く食してもらおうと、米づくり事業を始めました。そうこうするうち電気自動車用モーターが完成し、量産にこぎつけたことで、苦境をどうにか乗り越えることができました」
他社との共同開発も視野に大きな課題に挑む
設立以来、技術力の強化に取り組み、電気自動車やハイブリッド車用モーターの開発まで事業領域を拡大した。今では自社ブランド製品が、売上全体の約50%を占めるまでになり、確かな土台を築きつつある。25年には、新たに環境と少子高齢化をテーマに掲げ、オリジナルの小型電気自動車を開発した。空気を汚さず、高齢者でも容易に運転できることを目指したコンセプトカーで、東京モーターショーに出展すると大きな反響があり、これまで取引のなかった企業からも問い合わせが来るようになった。
「実は、自動車用モーターの開発を始めたとき、反対する従業員もいました。厳しい安全基準をクリアできる品質が要求される上に、開発から量産までに要する時間も長い。そんなリスクを引き受けられるのか不安だったのでしょう。しかし、環境と少子高齢化という避けて通れない課題を考えたとき、自動車の進化は不可欠。今後、他社との共同開発なども視野に入れ、より完成度の高いものづくりを目指したい」と展望を語る。
子会社から見事に自立を果たし、起死回生を成し遂げた同社。10周年を迎えたときは、社内でささやかな記念パーティーを行ったそうだが、「20周年を迎えるときは、もっと盛大に開催したいですね」と山本さんは頬を緩ませた。
会社データ
社名:株式会社TOP
所在地:福井県越前市今宿町20-1
電話:0778-23-6500
代表者:山本惠一 代表取締役社長
従業員:412人
※月刊石垣2016年8月号に掲載された記事です。
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