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真壁昭夫の経済底流を読み解く トランプ大統領で “政治の時代”幕開け

2016年は、世界政治の中で予想外のことが起こった。英国のEU離脱=ブレグジットの決定、そして、米国大統領選挙のトランプ氏の当選と予想外のことが発生した。特に、多くの専門家が想定していなかったトランプ氏の当選は大きな影響を与え、世界のマネーフローや株式、金利、為替などの金融市場に大きな波紋を投げかけている。

一方、ブレグジットの動向も無視できない。欧州の中でも長い民主主義の歴史を持つ英国による、欧州全体の安定と繁栄を目指すEUからの離脱決定は、単一市場にアクセスするメリット以上に、移民排斥を求める有権者がいかに多いかを確認する重要な機会になった。離脱交渉の内容次第では、英国に続けとEU離脱を求める国が出始める可能性もある。今後、大陸欧州では重要な政治イベントが続く。17年3月にはオランダで総選挙が実施、4~5月にはフランスの大統領選挙、そして9月にはドイツで総選挙が予定されている。

その中でも、世界の投資家や政治・経済の専門家の注目を集めるのがフランス大統領選挙だ。極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首の人気は根強い。同氏は強硬な反EU主義の考えの持ち主だ。もし、極右政党の党首が大統領に当選すれば、ドイツと並ぶ欧州の大国フランスのEU離脱=フレグジットが現実味を帯びる。それはEU崩壊の懸念を高め、世界経済にもマイナスの影響が及ぶことが想定される。

多くの主要国で〝ポピュリズム政治〟が台頭している。それは、政治家が民衆の不満解決のために、目先の満足感を高めるような主張を繰り広げ、人気を獲得しようとすることだ。米国の大統領選挙で反グローバリズム、米国第一を主張するトランプ氏が当選したのは、その顕著な例だ。欧州でもポピュリズム政治が広がっている。昨年6月の英国の国民投票でのEU離脱決定は、単一市場へのアクセスという中長期的な利益以上に、移民排斥という足許の不満解消が優先された例だ。そして、イタリア、オーストリア、フランス、オランダ、ドイツ、フィンランドなど、多くのEU加盟国で、自国の決定権を取り戻し、移民や難民を排除して自国民の利益を優先する右派の台頭が顕著だ。

問題は、ポピュリズム政治が、中長期的な観点で、経済や社会の安定に必要な政策を打ち出せるとは限らないことだ。既存の政治家への不信感が強く、中長期的な観点で議論の重要性を有権者に理解してもらうことも容易ではない。その結果、フランスなどでは欧州懐疑主義への傾倒が進む。EU離脱が現実味を帯びてくると、EU全体の体制維持や世界経済の運営にも支障が出る。

フランス大統領選挙は世界の経済、金融市場に大きな影響を与える。社会党、もしくは中道・右派陣営の候補者が当選するケースを考えると、構造改革が重視され、労働市場の改革を通して市場原理を生かすことも想定される。それは、中長期的なフランス経済の安定につながる。また、ドイツの総選挙なども穏便な結果に終われば、世界の政治・経済情勢は安定に向かうだろう。米国の財政支出の支えもあり、今年半ば頃まで、先進国を中心に相応の景気回復が進む可能性もある。

一方、ル・ペン大統領が誕生するようだと、フランスのEU離脱の可能性を高め、欧州各国に反EU、自国優先の政治がドミノ倒しのように浸透するカタリスト(触媒)になる。世界の政治情勢が不安定化する事態も懸念される。加えて、トランプ政権下の米国が保護主義的な通商政策を加速すると、各国に保護主義が広がり国際的な貿易や投資が減り、世界経済は縮小均衡に向かう。先進国、新興国ともに経済は低迷し、生産能力が過剰になる恐れがある。

このシナリオだと、1920年代以降の〝ブロック経済圏〟のような現象が再発する可能性がある。最悪のケースでは世界的な景気低迷や金融市場の動揺も想定される。今後の世界経済を占う最も重要な要因は政治だろう。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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