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真壁昭夫の経済底流を読み解く 懸念される米中の軋轢とわが国

トランプ政権の誕生に伴い、米国と中国の軋轢(あつれき)に懸念を持つ経済専門家が増えている。今年、中国の習近平国家主席は、自国の領土と権益を断固として守るとのメッセージを発信した。それは、中国が南シナ海などで活動基盤を形成し、世界全体に影響力を及ぼすことが国際社会の発展と安定につながるとのアピールだ。一方、米国ではトランプ大統領が一段と反中国の姿勢を鮮明にすることが想定される。トランプ政権とすれば、米国の雇用機会を増やし、米国経済を再び強くするためには、どうしても中国の台頭がマイナス要因になる。今後、トランプ政権の政策運営がはっきりしてくると、米中の貿易摩擦など軋轢が生じやすくなるだろう。

トランプ大統領は、「中国が不当に安価なモノを米国に輸出してきたために鉄鋼業などの産業が衰退し、国民の雇用機会が奪われてきた」と主張してきた。それがグローバル化に反感を持つ有権者の支持を集めたことは無視できない。当面、トランプ政権が米国第一の考えを修正することはないだろう。トランプ政権が公約通りに米国の雇用を増やすためには、中国からの輸入品に対する関税率を引き上げることも一つの選択肢である。米国政府が中国を為替操作国に認定する可能性もある。

トランプ大統領は貿易政策を統括する国家通商会議を新設し、対中強硬派の経済学者であるピーター・ナバロ氏を同会議のトップに指名した。トランプ政権が、中国に対して厳しい態度を取り、保護主義色の強い通商政策を進める可能性は高いとみられる。それは、米中の貿易摩擦だけでなく、南シナ海での覇権争いなどの軋轢を生むだろう。

今後、国際社会を取り巻く状況は一段と不安定かつ不透明になるだろう。国際社会は多極化に向かいやすい。その場合、各国の利害が食い違い、政策面での連携は進みづらくなる。わが国は、何が自国の安定につながるかを冷静かつしたたかに考え、経済連携や外交政策の方針を練る必要がある。南シナ海や東シナ海での中国の活動が活発化する中、安全保障面からは米国との連携が欠かせない。多くのアジア新興国も、本音では米国の同盟国として連携したいと考えているはずだ。経済発展のための貿易、競争、投資などに関するルールの統一を国際的な規模で進めるためにも、米国の力は必要である。

しかし、米国が保護主義に傾倒し〝アメリカ・ファースト〟に向かうなら、米国の求心力は低下し、中国になびく国が増えてもおかしくはない。わが国としても明確な国益を優先する政策を練っておく必要がある。つまり、〝大人の外交政策〟が必要なのだ。わが国は米国と対立関係にある中国とも距離感を保ち、主張すべき点は毅然とした態度で主張し実利を得ることを念頭に置くべきだ。中国が仕掛ける領海問題に関しては国際社会の問題として国際世論の形成に努め、アジア経済のリーダーを目指すのが現実的な対応だろう。それと同時に、必要に応じて米国を巻き込んで経済連携を進める姿勢も求められる。

そのためには、親日国を増やすことが重要だ。経済援助を求められれば出すという〝良き隣人〟の外交ではなく、インフラ投資などに協力する代わりに経済連携を積極的に求めるスタンスを確立するのである。例えば、インドネシア政府がジャワ島での高速鉄道計画への協力を要請したように、わが国の技術や信頼感はアジア各国との連携を進めるために強力な武器になる。そうした技術力を武器にしてAIIB(アジアインフラ投資銀行)との共同プロジェクトなどを進めることで、中国のメンツを保つことも可能だろう。

世界各国が自国優先の政治に向かっているだけに、わが国はアジア経済での存在感を高め、新興国の成長を取り込み経済基盤の強化を進めるべきだ。わが国の政権は、その機会を逃してはならない。人口減少が進む国内市場だけではなく、多くの人口を抱えるアジア市場を見据えた政策運営が重要になる。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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