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真壁昭夫の経済底流を読み解く 世界的なインフレの芽と 政治情勢

3月15日、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC)後に予想通り0・25ポイントの利上げを実施した。それと同時にFRB関係者は、2017年にあと2回の利上げの可能性を示した。大局的に世界経済を見渡すと、徐々にインフレ上昇の萌芽(ほうが)が膨らんでいるようだ。

昨年の前半、世界経済の先行き期待は低下した。原油価格の下落や欧州の大手金融機関の株価下落などが世界各国の景況感を悪化させた。そして、金融市場では先々、世界の需要が低迷し、物価も上がりづらい環境が続くとの見方が増えていた。しかし、昨年の夏場を境に、世界の経済状況は少しずつ変化してきた。

中国では財政出動による景気刺激策から生産者物価を中心に物価は上昇している。中国経済の安定を受けて、韓国などアジア新興国の物価も上向き基調だ。昨年11月の米国大統領選挙以降は、先行きへの期待が高まり、石油輸出国機構(OPEC)の減産決定から原油価格は上昇した。その結果、ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)が物価水準の目標とする2・0%まで消費者物価が上昇している。今後も物価が緩やかに上昇する可能性はある。

米国では、労働市場が完全雇用(働く意思と能力がある人が全員、何らかの職業に就いている状態のこと)に近づいている。その中でトランプ政権は雇用の増大を目指している。不透明感はあるものの、トランプ政権がインフラ投資などを本格的に進めると、労働、資源への需要は一段とひっ迫するだろう。

欧州でもインフレに対する懸念が徐々に高まっている。ECBの関係者からは、物価上昇への警戒から金融緩和を縮小させる考えが示され始めた。中国人民銀行は、米国の利上げを受けた人民元相場の下支えのために短期資金の供給に用いられる金利を0・1ポイント引き上げた。このように、徐々に各国の金融政策は物価上昇を警戒し始めている。金融緩和から金融引き締めへ、金融政策の軸足が移る可能性は高まっている。

一方、わが国の物価水準は大きく落ち込む懸念は薄れているものの、なかなか水面上に上がってこない。そうした状況を受けて、日本銀行は積極的な金融緩和を続けるとしている。ただ、わが国の国債市場を見ると、80兆円という多額のお金を印刷して国債を購入する政策はそろそろ限界にきている。金融市場の専門家の間では、「日銀の積極的な金融緩和策をどこかで変更せざるを得ない」との見方が広がっている。問題は、そのタイミングだ。

日銀はわが国経済にデフレ圧力が続いている間に、金融政策を変更することはできないだろう。だからといって、国債市場の機能を停止させてしまうようなこともできない。今後、日銀としては、難しい判断をせざるを得ない状況に追い込まれることが懸念されている。

もう一つ注目されるポイントは、為替市場の動向だ。米国や欧州の経済が相応の堅調さを保ち金利水準が上昇する可能性を考えると、円は相対的に売られやすく、弱含みの展開になるはずなのだが、なかなか予想通りに為替市場が動かない。その背景には、米国のトランプ大統領の保護主義的な政策運営や、欧州地域のポピュリズムの台頭などの政治的な懸念要素があると見られる。

むしろ、われわれがリスク要因として頭に入れておくべきは、世界的なインフレ懸念の高まりよりも、主に欧米の政治的な不安定要因かもしれない。一般的に、政治の機能は経済に大きな影響を与えることを考えると、政治情勢の変動が世界的な経済活動の足を引っ張ることも考えられる。為替市場は、そうした懸念を映しているといえるだろう。その動きを無視すべきではない。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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