TPPがビジネスにおよぼす影響のうち、物品貿易の自由化(関税撤廃・削減)は最も直接的に企業収益向上に資するメリットだ。しかし活用の可否を完成品・原材料毎に検証・試算する命を受け、膨大な量の協定文を前に途方に暮れている企業の担当者が多いのではないだろうか。
TPPでは原則全ての関税撤廃を目指して交渉が重ねられた結果、米国など8カ国が全ての関税撤廃を約束した自由化レベルの高い協定となった。ただし、企業が理解すべきは「自社の製品が」「いつから」「何パーセントになり」「どうすればそれを活用できるか」だ。ここで留意が必要なのは、TPPの関税撤廃・削減は、各国それぞれ約1万品目に分類される関税番号(HSコード)ごとにその関税率の削減方法(ステージング)が異なることだ。
さらにTPPは相手先(輸出国)によりステージングを変える形態を認めている。そのため実際には異なるステージングを持つ複数のFTA(自由貿易協定)を束ねたに等しく、TPP活用時の特恵関税率の把握を難解にしている。 しかしこれを正しく理解しないと、いわゆる「TPP使い漏れ」という状態が発生する。
関税撤廃には三つの顔
TPPの関税撤廃には三つの顔がある。
まず最初が「①新規FTAとしてのTPP」だ。これは日本から米国への輸出のように、これまで協定がなかった日米間に新たに締結されたFTAとしてのTPP関税撤廃メリットを指す。
次の顔が「②深堀りFTAとしてのTPP」だ。これは例えば日本とベトナムの間で既に発効している日ベトナムFTA、日アセアンFTAでは実現できなかった新たな関税撤廃を、同国がTPPで約束したものだ。
最後がいわゆる「③Out-OutのためのTPP」すなわち外国間の関税撤廃だ。
ツール活用し削減額を試算
これらの網羅的な分析は企業にとって容易でない作業となるが、このステップを経ずしてTPP活用は始まらないのだ。
TPP分析作業に悩む企業に対しては、Webツールが提供される。
一つは経済産業省「TPP原産地証明制度普及・啓発事業」の一環で無償で提供されるWebベースのTPP原産地証明支援サイトhttps://www.tpp-shoumei.jp/だ。このサイトを活用することで、TPP特恵関税率と通常適用される関税率(MFN)との比較、活用した際の関税削減額の試算、および品目別原産地規則(次回以降で説明)の確認が可能だ。
さらに既存の他のFTAを含めた比較検討を行いたい企業には、WebベースのFTA情報提供システムがある。デロイト トーマツ コンサルティングでは「Trade CompassTM」を提供している。これらのツールを活用し、TPP発効前の段階から検証することにより、「TPP使い漏れ」が起こらぬようにしたい。
(明瀬雅彦・デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー)
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