開幕したプロ野球。巨人を応援する人たちは、「今年は面白くなりそうだ」と思っていることだろう。スタートダッシュに成功した巨人は開幕から5連勝を飾り、その後も順調な戦いぶりを見せているからだ。
好調の要因はいくつもある。2年目を迎えた高橋由伸監督が攻撃的な采配を見せていることもあるだろう。積極的に若手を起用している。チームリーダーの坂本勇人がWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の勢いそのままに活躍を続けていることも原動力だ。4番を任された阿部慎之助も衰え知らずのバッティングを披露している。菅野智之やマイコラスといった投手陣の充実も快進撃には欠かせない要因になっている。つまるところ調子の良いチームというのはそういうもので、それぞれの選手が自分の役割をしっかり果たしているということだ。
ただ、そうしたなかで主旋律ではないものの安定感のあるベース音となって巨人の重厚な戦いぶりを演出している選手がいる。4年目のキャッチャー小林誠司だ。
昨シーズンは129試合に出場し本塁打4本、打率はセ・パ両リーグを通じて規定打席到達者ワーストの2割4厘だった。打てないことが守りにも影響していたのだろう。どことなく不安げに出すサインは相手にも読まれやすく、ベンチからも投手からも絶対的な信頼を勝ち得るまでには至らなかった。
ところが、今シーズンの小林は自信満々でプレーしている。彼の醸し出す安心感がチーム全体に伝播(でんぱ)している。彼の自信がどこから来ているのかは言うまでもない。あのWBCでの大活躍だろう。すべての試合で先発マスクをかぶり、20打数9安打6打点、チーム最高の4割5分と打ちまくった。守備でも強気の配球でピッチャーをリードし、抜群の攻守で日本代表を引っ張ったのだ。
このオフに小林は志願して阿部と一緒に練習した。阿部に教えを請うたのだ。阿部は小林に髪型を「丸刈り」にすることを勧めた。そうした行為を体育会的な蛮行だと嫌う人もいるだろう。ただ私は、すべての始まりはここにあると思っている。その髪型に小林の「何かを学びたい」「もっと成長したい」という強い気持ちを感じるからだ。雑念を捨てて百パーセント野球に集中する。その覚悟が小林の持てる才能を見事に開花させたのだ。
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