わが国経済は、2012年11月を底に緩やかな回復傾向にある。産業や地域によって回復のばらつきや差異はあるものの、実質ベースのGDPは12年10〜12月期以降、4四半期連続でプラス成長している。今後、この回復傾向を維持することができるか否かが重要なポイントだ。
しかし、4月から消費税率が8%に引き上げられることによって、個人消費や住宅投資が一時的に落ち込むことは避けられない。4〜6月期のGDPはマイナスになるだろう。問題は、その落ち込みをどの程度の期間で回復できるかである。
一つの鍵となるのは家計部門が受け取る収入だ。13年末の大企業部門の賞与は、5%以上上昇するとみられる。ただ、賞与は基本的に企業の業績に連動する一時金であり、家計がもらう基本給与が上がるかどうかが重要になる。
厚生労働省が発表する毎月の勤労統計によると、わが国の現金給与総額はリーマンショック後の11年、12年と2年連続で減少した。特に目立つのが、残業などを含まない所定内給与が06年以降、7年連続で低下していることだ。
しかし、最近は少しずつ変化が見られ、米国経済の回復や為替市場で円安傾向の追い風が吹いていることもあり、自動車などの主力輸出企業の業績は大きく改善している。そうした状況を反映して、大手製造企業の経営者から賃上げを検討する発言が出ているだけでなく、流通業界などの経営者にも前向きな姿勢を見せる人がいる。
現在、安倍政権は賃上げの動きを広げるべく、経済界や企業経営者に積極的に働きかけている。デフレからの脱却を図るには、家計部門が実際に使えるお金=可処分所得を増やすことで、持続的に消費を盛り上げることが必要になる。これからは、賃上げの動きが産業界にどれだけ広がるかが重要だ。
大企業の経営者の中にも慎重な人は多い。大手メーカーのある経営者は、「円安による原材料費の上昇や、4月の消費税率の引き上げを考えると慎重にならざるを得ない」と指摘する。別の経営者は、「駆け込み需要の盛り上がりで足元の状況は良いが、その後の落ち込みを考えると大盤振る舞いはできない」と言う。中小企業の経営者にも慎重な姿勢を示す人が多い。ヒアリングを行っても、「まだその余裕がない」との回答がかなり多く、リーマンショック以降の景気低迷で体力が低下した中小企業は、すぐには賃上げに動けないだろう。
人口減少・少子高齢化が加速しているわが国の経済は、高度成長の時期を過ぎて安定成長の局面を迎え、経済全体がうなりを上げて回りだすことは考えにくい。風呂の湯が沸くように、景気回復が時間をかけて全体に行き渡ることを想定すべきだ。
景気が明るさを増せば、大企業から徐々に賃上げが始まる。緩やかに消費を盛り上げ、最終的に本格的な景気回復につながるまでには時間がかかるだろう。
しかし、焦るべきではない。本格的に景気が回復すれば、その恩恵は必ず経済全体に波及する。その時が来ると信じて、頑張ることが大切だ。
最新号を紙面で読める!