内閣府はこのほど、地域経済の動向をまとめた報告書「地域の経済2017‐地域の『稼ぐ力』を高める‐」を公表した。第1章では、地域別に見た経済の動向を解説。第2章では、「稼ぐ力」の向上について、自然環境、人的資本、物的資本といったストックの活用に注目するとともに、無形資本の一つである「地域ブランド」の経済的価値を分析し、その価値をITやグローバル化を活用して高める方策などを検討している。本稿では同報告書の概要を紹介する。
第1章 地域別に見た経済の歩み
○消費動向
販売側から見た消費は、スーパーに底堅さが見られ、百貨店はインバウンド需要で明暗。ネット販売は増勢が続き、貨物数量も増加する一方、貨物自動車運転手の人手不足が顕著。鉄道輸送を含めた規模の経済性の追求、コンビニ活用による配送効率の引き上げなどが必要。
○生産動向
地域の立地業種の違いによって生産の水準差は拡大。電子部品・デバイスなどの立地を有する地域が大きく伸長。他方、構造的な動きとして、高齢化に伴う潜在需要の顕在化、高品質化・利用者ニーズの変化に対応した商品開発などにより、地域レベルでの生産に変化。
○地域金融動向
地域経済の資金仲介者である銀行の業務粗利益率は、地域内のばらつきに違いがあるものの、銀行数の少ない(寡占的な)地域では利益率の下限が高め。また、資産規模が大きいほど営業費用収益比率は低く、規模拡大は重要な手段。他方、銀行店舗当たり人口は大幅に減少する地域が大半であり、技術、地域社会、顧客動向を踏まえた事業転換が必要。
○雇用・労働市場動向
有効求人倍率はバブル期以上の地域も散見。人手不足などに起因する倒産割合が増加する地域も多数。地方も人手不足だが、東京圏への社会的人口移動は継続。東京圏の賃金は高いが、就労に要する通勤などの機会費用も高く、通勤費用の少ない地域に比べ、年間60万円程度を多く負担。働き方や働く場所の多様化が課題。
第2章 地域の「稼ぐ力」を高める
○「稼ぐ力」の構成要素
「稼ぐ力」を付加価値に対する税額で評価すると、いずれの地域でも増加しているが、水準は東京、名古屋が上位。また、地域により主要な源泉所得が異なり、東京は配当所得が高め、給与所得が少なめ。企業の「稼ぐ力」である利益も大きく増加しているが、増加寄与の業種は地域によって異なり、東京は金融保険、仙台は建設など。
○ストックの賦存状況
付加価値を生み出す資産には、自然資本、人的資本、物的資本が存在。面積当たり自然資本は沖縄県と北海道、一人当たり人的資本は東京都と大阪府、一人当たり生産資本は山口県と三重県に豊富。
○地域ブランド
地域ブランドは付加価値を生み出す資産がゆえに保護が必要。具体的には財の出荷価値などを高める。稼ぐ力を強化するには、ITで人手不足を克服し生産性を高めることやグローバル市場の潜在需要を取り込むことが効果的(アジア諸国のわが国農林水産輸出への潜在需要は2021年に1・1兆円(2015年の2・1倍))。
補論
○東日本大震災
被災県では、海外需要の回復にも支えられて製造業の生産は拡大してきたが、旅行・宿泊需要の回復は不十分。風評被害の克服が必要。
○熊本地震
熊本県では、電子部品・デバイス、電気・情報通信が製造業の回復を主導。一方で、外国人旅行客の復調には遅れ。観光資源の早期復元・復旧が必要。
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