Q 当社では、役員に企業家精神を発揮してもらうために、会社の業績と連動したインセンティブ報酬制度の導入を検討しています。わが国における当該制度の導入状況について教えてください。
A 2016年夏に東証第1部、第2部上場企業を対象に行われた経済産業省のアンケート調査によれば、短期の業績連動報酬を導入している企業は約61%ありました。
他方、中期の業績連動報酬を導入している企業は約14%にとどまり、業績連動報酬を導入していない企業も約22%ありました。特に連結売上高1,000億円未満の売上規模が比較的小さい企業では、業績連動報酬を導入していない比率が30%と高くなっています。
コーポレートガバナンス・コード
金融庁と東京証券取引所が取りまとめ、2015年から上場企業に適用が開始されたコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の補充原則4―2①において、経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、①中長期的な業績と連動する報酬割合、②現金報酬と自社株報酬との割合、の2点について適切に設定すべきであるとされました。
従来からわが国の経営陣の報酬は、固定報酬が多く中長期的な業績向上に資する業績連動部分が少ないと指摘されていました。前述の補充原則は、これを背景として、経営陣の報酬体系を見直し、中長期的な業績向上を図り、経営陣に自社株を持たせて株主目線による経営を促す趣旨だと思われます。
経済産業省では、15年7月に取りまとめた「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書の別紙3「法的論点に関する解釈指針」において、株式報酬の付与に関する法解釈を明確にするなどの動きがありました。さらに、近年の税制改正において一定の業績連動報酬を損金算入の対象とするなど、政府が上記補充原則の導入を後押ししています。
「経営陣」の範囲
CGコードには、業績連動型の報酬を導入すべき「経営陣」の具体的な範囲について明記されていません。
業務執行取締役や執行役員などが「経営陣」に含まれることは、ほぼ異論がないと思われます。
他方、監督やチェック機能などが期待される社外取締役や監査役などにまでインセンティブ報酬を支払う妥当性については見解が分かれているために、CGコードではあえて「経営陣」という文言を使用して、特定の方向性を示さなかったものと理解されています。
日本の現状
16年に経済産業省が上場企業を対象として行ったコーポレートガバナンスに関するアンケート調査によれば、中期の業績連動報酬を導入している企業は約14%にとどまり、業績連動報酬を導入していない企業も約22%存在しています。特に連結売上高1千億円未満の企業では、業績連動報酬を導入していない比率が30%と高くなっています。
中長期的な業績連動報酬の例
わが国では従来から、あらかじめ定められた価格で自社株式の購入権が経営陣に付与される「ストック・オプション」や、報酬相当額を信託会社に拠出し、信託会社が市場などから取得した株式を一定期間経過後に経営陣に交付する「株式交付信託」が用いられてきました。
最近は「(特定)譲渡制限付株式報酬」の導入が進みました。これは金銭債権報酬と引き換えに一定期間の譲渡制限・会社による無償取得事由(没収事由)として勤務条件や業績条件が達成されないことなどを定めた株式を、経営陣に交付する報酬制度です。
さらに17年の税制改正を受けて、現物株式を業績条件に応じて事後に交付する「パフォーマンス・シェア」型報酬の広がりも予想されています。 (弁護士・谷田 哲哉)
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