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真壁昭夫の経済底流を読み解く 米国経済の鍵を握る金融政策

昨年11月以降、米国の株式市場が不安定な展開を示したこともあり、これまで世界経済をけん引してきた米国景気の先行きに関して慎重な見方が増えている。トランプ米大統領の減税など積極的な景気刺激策の効果が徐々に剥落(はくらく)していることに加えて、FRB(連邦準備制度理事会)の金利引き上げの効果が少しずつ現れ始めている。そうした状況を反映して、2019年の米国経済の行方を占う上で最も重要なファクターは、財政・金融の経済政策の運営だとの見方が有力になっている。

金融市場関係者の中には、既に今後の利上げは慎重に進めるべきとの声が高まりつつあるようだ。FRB関係者の中にも、金融政策の運営について経済状況に応じて柔軟な対応が必要との意見も出ている。金融専門家の間では、今年以降、従来の想定よりも利上げ回数が少なくなるのではないかとの見方が増えている。一方、トランプ氏は追加的な減税策の実施を目指すとしており、財政政策で米国経済の成長率を押し上げる考えのようだ。昨年の中間選挙で下院は民主党が多数派となったため、トランプ氏の意向をストレートに反映することは難しいと見られるものの、今年、追加減税が実現することになると、一時的に景気の勢い=モメンタムが強まる可能性は高い。

米国景気の先行きの鍵を握る金融政策を考える場合、重要なキーワードは“中立金利”という概念だ。中立金利とは、経済を過熱させることもなく、冷え込ませることもない、景気に対して中立的な金利の水準をいう。中立金利の水準は計量経済学の手法を用いて推計することによって求められるケースが多い。FRBが決める政策金利(FFレート)が中立金利に到達すると、金融政策は景気に対して中立的であると考えられる。それ以上に政策金利が上昇すると、本格的に金融政策は引き締め基調に入る。昨年9月のFOMC(連邦公開市場委員会)の予想では、FFレートの長期見通しは2・5~3・5%だった。とりあえず、このレベルを中立金利のレンジと考えればよいだろう。当時、パウエルFRB議長はFFレートの水準は中立金利には「ほど遠い」との見解を示し、段階的な利上げを続ける必要性を示してきた。ところが、昨年11月28日の議長のスピーチでは、足元の政策金利は中立的な水準を「やや下回っている」と発言内容を修正した。これは、同氏が従来に比べて追加的な利上げの必要性が低下したとの認識を強めていることを意味する。

17年12月のトランプ減税の効果剥落などを考えると、米国経済の減速(GDP成長率の低下)は避けられない。それに加えて、昨年秋以降、これまでの米国経済を支えてきたGAFAを中心とするIT先端銘柄の株価も不安定な展開だ。そうした状況を受けてパウエル議長は先行きの経済環境への慎重な見方を強め、利上げ重視姿勢を修正したといえる。

昨年7~9月期、米国の実質GDP成長率は3・5%だ。個人消費は底堅く推移し、実力(潜在成長率)以上の成長が維持されている。賃金が緩やかに上昇していることを踏まえると、今年前半までは、個人消費を中心に潜在成長率を上回る成長が維持できるだろう。その後、後半に差し掛かると成長率は低下する可能性がある。結果として、世界のけん引役である米国景気が減速するかもしれないが、失速(成長率がマイナスに落ち込む展開)は避けられるだろう。20年以降は米国経済の失速リスクが高まる可能性がある。その中で、トランプ氏は大統領選挙を戦わなければならない。人気を獲得するためには、追加的な経済対策が必要だ。それは、中間選挙で下院の過半数の議席を獲得した民主党にもいえる。景気対策としての減税の必要性に関して共和・民主両党が歩み寄る展開は否定できない。ただ、米国の財政状況を考えると、今後、財政のリスクが高まることが懸念される。そうした状況に対して、FRBがどのように金融政策を運営していくか、今後の米国の経済政策の舵取りは一段と難しくなることが予想される。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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