働き方改革が急務 技術革新で生産性向上を
政府はこのほど、平成29年度年次経済財政報告(経済財政白書)を取りまとめ、公表した。白書では、人手不足がバブル期並みの水準にまで達し、深刻化していると指摘。一方で賃金上昇の動きは鈍く、消費も伸び悩んでいると分析した。今後については、長時間労働の是正や多様な働き方を認める「働き方改革」を推進するとともに、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータの活用などによる技術革新によって生産性の向上を図ることが重要かつ不可欠であるとしている。白書の概要は次のとおり。
第1章 緩やかな回復が続く日本経済の現状
〇今回の景気回復局面の特徴:主に、2002年以降の回復期(第14循環)と比較
①デフレではない状況となる
②雇用・所得環境が改善(失業率が低下、就業者数が増加、名目賃金が増加)(図1)
・2016年後半以降、企業部門は世界経済の回復を背景に、好循環の起点として再加速。
・わが国の労働市場は改善が続き、有効求人倍率は2017年4月に1・48倍とバブル期を超える水準に。
①バブル期では、マンアワーでみた労働供給が大きく増加。一人当たり労働時間は労働基準法改正(週48時間→40時間)もあって大きく減少したものの、生産年齢人口が増加する中、労働参加率も上昇、雇用者数も大きく増加した。
②他方で、今回はマンアワーで見た労働供給は横ばい。生産年齢人口は年1%程度の減少。女性や高齢者を中心に労働参加率が上昇しているため、雇用者数はバブル期ほどではないが増加。パート比率の高まりから1人当たり労働時間が減少。
・1人当たり賃金については、バブル期と比較して低い伸び。その背景には、
①時間当たりの労働生産性の伸びが、バブル期と比較して低くなっている(資本装備率(※)の低下が影響)※資本装備率=固定資産/雇用者数②労使のリスク回避的な姿勢が賃金引き上げを抑制している可能性
・個人消費は緩やかに持ち直し。ただし、雇用・所得環境の大幅な改善と比べて緩やかな伸び。
・わが国の個人消費の構造は、技術革新や単身化、高齢化などの世帯の構造変化により大きく変化。形態別に見ると、サービス消費が着実に増加。百貨店の売り上げが減少する一方で、コンビニエンスストアやドラッグストアなど立地や品揃えの良い流通チャネルへシフト。また、ネットショッピングを利用する世帯の割合は3割程度まで増加し、実店舗からインターネットへの販売のシフトもみられる。(図2)
・モノを持たない身軽さへの志向。「フリマアプリ」の急成長(市場規模約3000億円)もあり中古品市場が拡大。
・消費の伸びが弱い背景には、
①若年層において、将来の雇用や収入に対する信頼感が高まらないことや、晩婚化・非婚化が進んでいること
②中高年層において、平均余命が伸張する中、老後の生活への備えから節約志向が高まっている可能性
③高齢者層において、中古住宅市場が小さく、住み替えや住宅資産を活用したリバース・モーゲージなどが進まず消費が難しいことなどがある。
○対応の方向性
・将来の経済成長・所得向上への信頼感の回復・潜在需要の喚起(例:単身化、共働き化、高齢化の進展↓家事サービスの需要拡大)。
・中古住宅の質向上・流通促進や中古品市場の拡大、ストックの有効活用は家計の購買力の下支え。
第2章 働き方の変化と経済・国民生活への影響
〇1947~49年生まれの第1次ベビーブーム世代は高齢者の労働参加拡大を支えたが、2017年以降70歳以上に達すると、同世代は全体の労働参加率の下押し要因に
・正社員と非正社員の時間当たり賃金の差は、勤続年数が長くなるほど拡大。その傾向は、特に大企業で顕著。
・景気の局面に係わらず恒常化している時間外労働が存在。製造業や運輸・郵便業で固定的な労働時間が存在。(図3)
○働き方改革による生産性の向上
・1人当たり労働時間が短い国ほど労働生産性(労働時間当たり付加価値)が高いとの関係が観察される。
・企業データによる分析により、WLB(ワークライフバランス)が生産性を向上させる効果を確認できる。総じて創立年が新しい企業において顕著。
・80年代の日本では、1人当たりの労働時間が短くなる中で、資本装備率を高めて労働生産性の向上を実現。
○働き方改革は、幅広い層の労働参加および所得の引き上げにより、所得格差の是正効果に期待
・特に子どものいる有業者世帯の所得が増えたことは、所得の低い世帯の所得改善に寄与。
・子どものいる世帯の相対的貧困率が低下したことは、全体の貧困率の低下に寄与。
○長時間労働是正により買い物・レジャー活動の時間が拡大すれば関連消費の増加に期待(図4)
第3章 技術革新への対応とその影響
○内閣府の企業意識調査によると、
・IoT(モノのインターネット)・ビッグデータ、AI(人口知能)、ロボット、3Dプリンター、クラウドのうち、少なくとも1つの新規技術を導入している企業割合:36%
・導入を検討している企業の割合:24% ○クラウドは近年急速に普及
・導入までの期間の短さ・初期コストの低さなどで中小企業にも普及。
○新規技術の成果・新規技術を導入した企業の半数近くが「新商品の開発」や「新規顧客の開拓」などで成果が上がったことを実感(図5)
○新規技術の導入による生産性上昇効果を測定
・現状で導入割合の低い技術の方が、より大きな効果が期待される(AI、IoT・ビッグデータ、3Dプリンター、ロボット、クラウドの順)。(図6)
○以下のような特徴を持つ企業ほど新規技術の活用に積極的
①企業年齢が若い
②意思決定に係る分権度が高い
③ICT(情報通信技術)統括責任者の経営参画度が高い
④異業種とのオープンイノベーションへの取り組み姿勢
○新しい技術革新の進展が経済社会に与える影響
・需要面:デジタル経済の進展により生まれた無料ないし低価格サービスに需要が代替されつつも、新たな関連サービスの需要が創造される例(音楽業界)もある。
・働き方:テレワークについて懸念・課題を挙げる企業は、未導入企業では多いが実際に導入した企業では少ない。
・雇用など:AI、IoTなどの新規技術の活用に積極的な企業では、雇用や賃金を増加させる意向が強い(ただし、労働者の技能・職種によっては異なる影響を受ける可能性にも留意が必要)。
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